精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

旧札幌地点到着

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 アグニル、汚い言葉を使うのは止めなさいと言いたかった。
 だが、カノンの小さな指が僕の右ふとももに食い込んでる。
 痛い、そしてうるさい、そう思った時、



『ポンコツ主、彼女達は怒ってるみたいですよ?』



 彼女の言葉に、お前のせいだよ! そう言いたい、凄く。
 だけど、こうなってしまった以上、他の三人にも相談した方がいいよな。



「なんか、前のカノンの時みたいに女性の声が頭の中で聞こえるんだよね……契約を結んでくれるみたいだけど」

「なっ! 主様を『ポンコツ主』なんて呼ぶ精霊、こっちから願い下げですよ! 主様、断ってください!」

「そうです主様、そんな奴はこの主様のハーレム生活には必要ありません、断るべきです!」



 アグニルとカノンの顔が近い。可愛い。
 というより、別に僕はハーレム生活を送りたいわけではない。
 ━━いや、ハーレム生活に憧れはないわけではないが、三人は少女、それも幼女だ。
 僕が夢見るハーレムとは違う。



『……卑猥な主。やっぱりポンコツ主ですね』

『別に男なのだからこれが普通だと思うけど? ていうより……どうするのこれ? 皆が嫌がってるけど?』



 その言葉を言った瞬間、彼女の声は静かになり、すすり泣くような声が聞こえる。



『……やっぱり、ポンコツ主は私なんていらないんですね。私みたいな騒がしくて、がさつな女は━━』

『いやいや、だからそんな事言ってないって!』



 凄い感情に浮き沈みのある子だ。
 だがまあ、彼女はこういう性格だとして、三人をどうするか……僕としては会って話がしたい。
 こんな言葉だけではなく、顔と顔を会わせてだ、だが、そうするには召喚するしかない、彼女達が良いと言うか━━



「まあまあ、二人とも落ち着けよ」



 エンリヒートが二人を止める。
 彼女は二人よりも落ち着いている、どこか二人のお姉さんのような存在の彼女、そして二人はその言葉を聞いて、何か反論しようとしたが、エンリヒートは次の言葉を叩きつける。



「もしかしたら、会ったら良い奴かもしれないぞ? 契約したら主様の事を好きになる、私達だってそうだっただろ?」

『……そんなわけないでしょ、このポンコツ主のポンコツ精霊が』



 エンリヒートの言葉に、すぐに反論する声の主。

 だが、ここで召喚するわけにはいかない、なにせここは、



「まあ、移動中だから着いてから召喚する……って事でいいかな?」

『まあ、それが妥当ですね』



 珍しくポンコツ主と言われなかった、なんでだろう、少し嬉しい。
 そして、落ち着きを取り戻したカノンは少し息を整えながら言葉を発する。



「主様、その精霊の事は置いといて、これからの事を決めませんか?」

『……置いとくな、このポ━━』

「そうだね、そうしようか」



 彼女の言葉の途中で遮る。
 その瞬間『やっぱり私なんか』と、自暴自棄になる彼女。
 だが、このやり取りを続けていたらおそらく話が進まないだろう。
 それよりもこれからの事を決めた方がいい。

 そして、カノンが少し困った表情をしながら、



「話をこれからの事に戻しますが、やはり囮……というのはまあ、納得できますが、だからといって戦場から離されるのは困りますね。遠くから攻撃できるのはアグニルお姉ちゃんしかいないですから」

「そうだな……。私は近距離戦闘しかできないからな」

「私も、主様の身を守る事しかできませんから……」



 エンリヒートとカノンが言う。
 僕の知ってる中では、エンリヒートは炎を
纏った日本刀の近距離霊力術。
 カノンは僕の身を、そして他の二人の身を守る援護霊力術。

 正直、戦場から離れたこの場所は厳しい。
 そんな中、大人しくしていた彼女の声が聞こえる。



『……私は遠距離が得意です。ポンコツ主』

『そうなんだ……それは助かるね』



 彼女は遠距離なのか……それは有難い。
 これなら少しは戦況の幅が広がる、か。

 それから僕達は話し合いを重ね、二時間という時間はあっという間に経ち、僕達は旧札幌地点に着いた。

 ここは全く荒れていない普段の街並みだ。
 傷一つ無いビルが建ち並び、一般の市民が楽しそうに街を歩く。
 その姿を見て、どこか懐かしく感じてしまう自分がいた。
 以前は当たり前の光景だが、今ではあり得ない光景、そう、僕達がいた日本第三支部では、だ。



「それじゃあ、そろそろ着きますから」



 運転手の声を、今初めて聞いた。
 その声に、僕は小さな窓から外を見る。



「ここは……どこかの施設ですか?」

「ここは【旧札幌地点防衛施設】で、ここが反日本政府に対抗する施設……という事になります」



 僕よりも二周りは上であろう運転手の男性はそう言った。
 一〇〇年前くらいか、まだ精霊召喚士がいなかった時代に【自衛隊】という、日本を守る組織がいた場所、ここは以前の駐屯地と呼ばれる場所だ。

 それから、車は施設内の駐車場に止まった。



「今日は何かあるまで部屋で待機という事なので、今から部屋に案内しますね」



 なぜか敬語の運転手はそう言い、施設内を案内してくれた。
 中には迷彩柄を着た人達が半分、私服か精霊召喚士の服を着た人達が半分。
 それを見たアグニルは小さな声を出す。



「……なんか、時代を築いてきた人達が混ざった感じですね」



 一〇〇年前の国を守った自衛隊。
 一〇〇年以内の国を守った精霊召喚士。

 僕のいた日本第三支部では自衛隊という組織は存在しなかった。
 そして、運転手をしていた男性は歩きながら話す。



「この日本第一支部では、精霊召喚士の攻撃よりも、一般の人間の攻撃の方が脅威ですから、強盗、殺人……他にも色々な事件がありました。なので、ここでは警察という組織はなく、自衛隊という組織が今も活動しているんですよ」

「……人間には人間を、精霊召喚士には精霊召喚士を、という事だな」



 エンリヒートは、両手を頭の後ろに付け、周りの施設を見渡しながら言った。

 精霊や召喚士の術は比較的殺傷能力が高く、何の力を持っていない者が相手だと、封じるよりも命を奪う方が早い。
 だが、人間同士の争いなら自衛隊が保持する89式小銃や銃剣のように、狙い所によれば動きを止める事のできる武器の方が良い……そういう事なのだろう。

 前を歩く男性は足を止め、目の前に見えるクリーム色の施設を指差す。



「とりあえずはここで本日はお休みください。何かありましたらすぐに呼びに来ますか
ら」

「はい……わかりました」



 男性は軽くお辞儀をし、一個の鍵を渡された。

 ん? 一個?

 僕が聞こうとした時には、既に男性はいなくなった後だった。
 アグニルは少し嬉しそうにしながら、僕の右足を掴み、



「また一緒に暮らせますね! 主様!」

「ああ少しの期間だけど……そういう事になるね」



 鍵は一つ、ということは少しの間また四人の生活になるのか、まあ、嫌でない自分がいるのは置いておこう。
 僕達は階段を上がり、四〇四の部屋に入っていった。



「うわー、以外と綺麗ですよ、主様!」



 精霊達は靴を脱ぎ、中へと走っていった。
 僕の住んでいたアパートよりも少し広く、家具とかも備え付けられている。
 窓からの眺めは……うん、まあ元駐屯地内とは何処も殺風景で変わりない。

 そして、僕はずっと無言だった彼女に声をかける。



『……えっと、直接会って話したいんだけど……ここなら召喚してもいいよね?』

『まあ……仕方ないですね、いいですよ』  



 彼女は渋々といったように答える。
 すると、精霊を召喚する為に必要な詠唱の言葉が見えた。

 僕は見えた言葉を唱えた。



「我は精霊王、全ての水を司る精霊の主よ、我が問いかけに応え、現出せよ━━召喚《サモンネージ》」



 詠唱を終えると、アパートが大きく揺れ、棚からは色々な物が落ち、何処からともなく水が流れ出てくる。

 ━━あっ、これは前にも見たような……。

 その瞬間、青色の六芒星が目の前に出現し、彼女は現れた。



「やっと……ですか。ポンコツ主?」
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