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第2章
旧札幌地点防衛施設
しおりを挟む僕達は男性に連れられ、施設内を歩いていた。
周りには何の施設かわからない建物。
それに銃等を持ち、対人用の訓練をしている迷彩服の人達や、精霊同士を戦わせ、おそらく稽古をしている召喚士がいる。
そんな様子を見て、すっかり僕に心を許したらしいシウネが呟く。
「ここの全員が、明日には仲間として戦ってくれるのですね、私の主様」
「ああ、そうだね」
あれからシウネは、僕の隣をべったりくっつき、そして僕の事を「私の主様」と、呼ぶようになった。
信頼かなついているのか、それはわからないが、後ろを歩く他の三人からの視線が痛い。
「シウネ……少し近すぎじゃない? もう少し離れて歩きなよ」
「そ、そうです! そんな密着したら駄目です!」
「……何を言ってるの。私の主様は胸が大きいのが好きなんでしょ? では私が隣を歩くのが一番、ねっ、私の主様」
「ぐっ、それは……それに、私のって何よ、いつからシウネ専用の主様になったのよ!」
「カノンが『主様』と呼べって言ったんでしょ? それなら私がなんて呼んでも別にいいでしょ?」
「まあ私がそう言いましたけど。でもでも、隣を歩くのは駄目です! 主様が歩き難そうじゃないですか!」
「えっ……本当ですか? 私の主様」
胸を近くに寄せるシウネ。
それを少し怒った表情をして止まるアグニルとカノン。
エンリヒートは助けてくれない……。ただ笑っているだけだ。
これはどういう状況なんだ、それになんて返せばいいのか。
そんな時、少し前を歩いている男性は足を止め、
「……お取り込み中すいません。ここが本部になりますので、それでは」
ナイスタイミングで声をかけてくれた男性。
その目の前にはなんの変哲もない、少し壁の舗装が剥がれたクリーム色の建物。
そして入り口の扉の隣には【旧札幌地点防衛本部】と書かれた看板が付けられている。
ここが本部なのか? 普通の建物にしか見えないが……。
男性はお辞儀をして、僕達が歩いてきた道を戻っていく、この中に入れ、そういう事か。
「じゃあ、入ろうか」
僕の言葉を聞いて、すっと離れるシウネ。
そこらへんは大人の対応なんだな、四人は気を引き締めている。
中に入ると、建物内は外観のイメージとは異なっていた。
少し薄暗い廊下に、赤い生地に金色の花柄の刺繍が施されている絨毯《じゅうたん》。
元自衛隊の施設内だというのに、なんだか日本の和を感じさせない、どちらかというと西洋風の内装だ。
絨毯を歩いて一本道の廊下を歩いていくと、茶色の扉の目の前立つ。
他に道はない、ここが本部という事か。
金属の丸いドアノブを捻り、僕達は中に入った。
そこには沢山のパソコン、それに多くの人、その服装はバラバラで、敷地内同様で迷彩服を着ている人と私服の人がいて、迷彩服を着ている人が七割、少し多く感じる。
「如月君! 悪いね、到着早々呼び出してしまって」
入ると知的な容姿の男性に声をかけられた。
黒ぶちの眼鏡をかけ、身長は僕よりも少し小さめで一七〇くらいの男性、志磨さん。
その隣には少しおどおどとした女性。
茶色のボブカットヘアーに綺麗な肌、そして身長は一五〇と、エンリヒートよりも少し大きいくらいの小柄な体型の彼女。そして胸はエンリヒートよりも少し大きい。
そんな二人は共通の格好をしている。
「志磨さん、それに心咲さんも……その格好は」
「ああ、これかい? 僕達は元々麻帆さんの助手だからね、普段は科学者助手をしているんだよ」
白衣姿の志磨は答えた。
二人の格好は精霊召喚士、というよりは科学者の格好だ。
そんな二人に連れられ、僕達は奥の方へと案内される。
歩く度に周りで何か作業をしている大人達にじっと見られる。
確かに僕や四人のような、はっきり言って子供はこの中にいない、僕よりも一回りや二回りも上の大人達だけ、あまり気持ちがいい視線ではなく、かなり場違いな空気だ。
一番奥の左端の場所に、区切られた個室の部屋がある。
そこに案内されると、一人の迷彩服姿の男性が立っていた。
「やあ、初めまして。私はこの旧札幌地点防衛施設の本部長を勤めている妹尾《せのお》 道隆《みちたか》だよ」
そう言って握手を求めてきた妹尾。
黒髪を短く切った短髪、鍛えあげられた肉体は、その緑色の迷彩服の上からでもわかる程浮き出ている。
そして体のあちこちから見える生傷が目立ち、怖い印象を与える容姿だが、笑顔で握手を求めてくるその表情はにっこりと、優しい人柄を感じさせる。
僕も妹尾の手を握り、握手を返した。
「初めまして、僕は如月柚木です。こっちが僕の精霊のアグニル、エンリヒート、カノン、シウネです」
僕は自分の名前を名乗り、他の四人の紹介も済ませた。
後ろでその様子を見ていた志磨さんが「あれ、一人増えてる」と言っている。
その言葉に少し苦笑いしながら答えると、妹尾という男性は低い声で笑った。
「ははっ、さすがは複数の精霊と契約できる柚木君だ。それじゃあ自己紹介も済ませたことだし、これからの話をしようか、さあ、座ってくれ」
そう言われ、僕達は茶色の生地の長ソファーに座る。
そこでやっと気付いた、この部屋を囲う壁、その壁が防音対策がされている事を。
そして、周囲の壁を見ていた僕を見て、妹尾は白い壁に親指を向け、
「これは防音対策の壁だから……まあ、このご時世、どんな人が仲間にいるかわからないからね。念のためだよ」
「どんな人……というのは裏切り者だったり敵がもしかしたらこの施設内にいる、って事ですか?」
僕の言葉を聞いて、妹尾は真剣な表情をして頷く。
「ああそうだよ、そんな者がこの中にいないと信じたいが、まあ念のためにね。それに、私の部下も反日本政府に潜入している」
「えっ! そうなんですか!?」
この言葉に反応したのはカノンだった。
テーブルから身を乗り出す勢いの彼女。
反日本政府に潜入しているのは確かに驚いた、だけどそこまで驚くのか?
と思ったが、カノンは「すみません」と冷静になり、妹尾に質問する。
「……大丈夫なのですか? 精霊には相手の心を見たりする事ができる精霊もいます。私だって、五秒間目を見れば相手がどんな人間かわかります、それなのに潜入は……」
「まあ、危険は十分あるのは理解しているよ。だけど、誰かがこの任務をしないといけない、それに、反日本政府には比較的潜入しやすいんだよ」
「それはどうしてでしょうか?」
「柚木君も知っていると思うけど、あの組織は神宮寺が金で雇った召喚士ばかりだからね、実力さえあれば仲間になる事は容易だよ」
なるほどそういう事か、確かにカノンが相手の音を感じる事ができる、だから心配して驚いたのか。
それに妹尾の言ったとおり実力があれば簡単に入る事ができる。
そして、妹尾は一台のノートパソコンを操作し、その画面を見せてくれた。
「本題に移るけど、これは反日本政府に潜入した私の部下からの情報だよ」
「これは……凄い数字ですね」
画面には反日本政府に現在在籍している者の人数。
それにはそのメンバー内訳も載っていた。
全メンバーが約一〇〇〇人、そしてその中でも精霊召喚士が八〇〇人と、ほとんどのメンバーが精霊を召喚できる者だ。
それを見せた妹尾は少し苦しい表情になり、
「今……この日本第一支部全域に精霊召喚をできる者は約五〇〇人、そして使えない戦闘員が約六〇〇人。わかると思うけど、これはかなり厳しい状況だ」
「そうですね……精霊召喚士相手に、丸腰の人が立ち向かっても勝ち目は無いですから」
厳しい状況、それは理解できた。
おそらく、精霊召喚のできない者は銃での対人攻撃をするのだろう。
だけど召喚士が一人になる事などあり得ない。
ましてや精霊が隣にいる状況なら、人間のスペックを越えた精霊なら銃弾なんて容易に防ぐ事ができる。
そして、再び妹尾は口を開く。
「そして、私の部下からの報告だと、奴らが攻めてくるのは……今から三時間後、だそうだ」
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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