精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

始まりは突然

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 これから三時間後、一八時頃か。
 外は暗くなる時間帯で、あまり戦いやすいとは言えないな。

 静かにしていたシウネは、冷たい目をしながら妹尾に聞いた。



「部下からの報告という事ですが、それはどうやって聞いたのですか?」

「ああ、あらかじめ私の部下達には通信機を持たせていたんだ、それで先程、この人数の報告と共に連絡がきたんだよ」



 妹尾はシウネの表情を見ながら言った。
 シウネは「そうですか」と、何か考えているのか、少し不思議そうにしながら返事をする。
 そんなに簡単に連絡ができるのか? そう思って詳しく聞こうとしたが、妹尾は立ち上がり、



「一応、これからの作戦を決めたいんだけど、場所を変えてもいいかな?」

「えっ、ああはい。大丈夫ですよ」



 僕の言葉に白い歯を見せ、ニコリと笑った。

 僕達は妹尾の後ろをついていく途中、カノンの声、それも頭の中に響く声が聞こえた。



『主様、聞こえますか?』

『えっ、ああ聞こえてるよ?』



 なんでこの話し方?
 そう思ったが、僕達は入ってきた廊下とは別の廊下を歩いている、その道には当然人の姿がある、誰かに聞かれたくない内容なのかな、そう思って僕は口を動かさず返事をした。

 あらかじめシウネにもカノンの霊力術、精神感応《テレパシー》を使った。
 シウネにもこの声は聞こえている、なのでシウネの低い落ち着いた声が聞こえた。



『私の主様……私はさっき言った三時間後に来る、という言葉に信憑性を感じません』

『それは、どうしてかな?』

『私もそう思うなー、ちょっと向こうさん、無用心すぎる気がする、それになんだかおかしいな』



 シウネの言葉にエンリヒートが反応する。
 エンリヒートの言葉は、おそらくさっき話した通信機を持たせていた事だろう。
 向こうがどこにいて、どんな生活をしているのかわからない、だけど、



『確かに通信機で話せるなんて変だね。反日本政府はテロを考えている組織なんだよな、それなのに無用心というか、少しおかしいね』

『ですね……それにその妹尾って人の話だと、潜入した部下は一人じゃないって言ってました、もし全員に通信機を持たせていて、ちょくちょく連絡をしているなら、見つかってもおかしくないと思うんですが……』

「さあ着いたよ」



 前を歩く妹尾の足が止まり扉が開いた。
 そこには大きなテーブルと液晶モニター、作戦室のような部屋だろうか。

 そしてその中には男性や女性、迷彩服や私服と、バラバラな人達が僕達を見ている。



「彼らはこの旧札幌地点防衛施設内の幹部、って事になるかな。信頼していい人達だよ」



 僕はそう言われ頭を下げた。
 それを見て部屋にいた人達も頭を下げる、探り探り、といった状況なのか、部屋の中には妙な緊張感がある。

 そんな中、妹尾はテーブルに大きな地図を広げ、周りの者を集める。
 その地図にはこの旧北海道である、日本第一支部が記されていて、妹尾は僕達のいる旧札幌地点を指差す。



「まず私達はこの旧札幌地点にいる、そして私の部下からの報告では、奴らは旧函館地点を最初に攻めるそうだ。
そしてそこを攻め落とし拠点にする、その後に日本第一支部全域を占領する作戦らしい」

「では、私達は離れた位置から攻撃する、という事ですね?」



 迷彩服を着た女性が妹尾に言うと、妹尾は頷き「そうだ」とはっきりと答え、



「人数では圧倒的に不利だが、相手の手の内を知っていれば我々が勝てる、旧函館地点に攻めてきたところを一斉に攻撃する!」



 妹尾は声を張り上げる、その様子を見ていた迷彩服を着た大人達も自信満々の表情をしている━━だけど、他の私服を着ている、つまり精霊召喚士達は険しい表情をしている。
 その険しい表情をしている者には当然、僕の精霊の四人も含まれている、エンリヒートの呆れた声が頭の中で聞こえる。



『こいつら……何か駄目っぽい匂いがすんなー』

『私もそう思います。なんか【報告】ってのを一切疑ってないような雰囲気ですよね』

『うん……。それは僕でもわかるよ』



 エンリヒートの言葉にカノンの呆れた声が続く。
 その潜伏しているという部下とやらがもし、操作する精霊に操られていたり、脅されていたりしていたら、完全に信じるのは軽率なような気がする。



「それじゃあ、如月君は私と一緒にここで戦況を見つめてもらっててもいいかな?」

「はいっ!?」



 妹尾の予想外の言葉に、僕は驚いてしまった。
 それには他の四人も、そして志摩と心咲、他の精霊召喚士も反対した。



「いやいや、ちょっと待ってくださいよ。如月君は強力な精霊を四人も契約してるんですよ? それなのにここでって、おかしくないですか?」

「そうですよ……僕も志磨さんから彼の精霊は力強いって聞きました、それなのに現場に出ないって」



 周りの精霊召喚士は一斉に反対の言葉を口にした。
 その言葉を聞いて、首を横に振る妹尾。



「彼は狙われているのだよ、それなのに現場に向かわせるのは可哀想だ。如月君には私の側で待機してもらう」

「いやだから━━」

「妹尾さん?」



 志摩さんが再び反論しようとした、だけどその時、カノンが妹尾に言葉をかける。
 妹尾は少し驚いたようにしながらカノンを見つめる、時間にして約五秒くらいか。

 そして、頭の中でカノンの声が聞こえた瞬間、アグニルとエンリヒートは雷と炎の剣を出し、妹尾の首もとに当てる。

 一瞬、ほんの一瞬の動作だ━━妹尾も、そして他の誰もが動けなかった。
 カノンは小さな声を出し、妹尾を睨み付ける。



「妹尾さん……あなたは反日本政府の者ですね?」

「……いやいや何を言ってるんだ? 如月君、君の精霊は急にどうしたのかな? 刃物を私の首もとに向けて━━止めてくれないか?」



 僕を見つめる妹尾の表情は、さっきまでの優しい表情から一変した、鬼のような形相、僕が何か声を発したら怖くて震えてしまうかもしれない。
 だけど、カノンは五秒くらい妹尾を見つめた、だからおそらく、



「妹尾さん……僕の精霊は相手の心を見て、相手が何を考えているのかわかるんです。あなたは反日本政府の者ですね?」

「……チッ!」

「我の問い掛けに応え━━」

「遅いんだよ精霊召喚士!」



 その瞬間、他の精霊召喚士達は僕の近くに寄り精霊を呼ぼうとする。
 迷彩服を着た者達は妹尾側に寄り、僕達に銃を向けている。
 銃の引き金を引く動作と精霊を呼び出す召喚詠唱、どちらが早いか、それは一目瞭然で引き金を引く動作だ。
 そんな中、不意にシウネの声が響く。



「動きを封じろ━━水《アクア》の包帯《バンデージ》」



 いつでも撃たれる状態だった僕達。
 だが、周囲に現れた大量の水が彼らの体に巻き付く、まるで水でできた縄のようだ。
 宙に吊り上げられた迷彩服の連中は、何かを言っているようだが、シウネは彼らを縛る水の威力を上げる。



「私の主様に何をする、このクソムシ共が」



 シウネの声はいつにもまして低く、汚物を見るような眼差しを彼らに向けている。

 彼らの手から銃がポロリと落ち、必死に抵抗しているように見えるが、手足は全く動いていない。
 彼らの状態はなんとか息をし、話ができる程度の状態だ。

 そんな中、何を思ったのか、妹尾は急に笑いだした。



「馬鹿だな如月君は……こんな事をしてももう遅いんだよ、何もかもな!」

「何を言って━━」

「し、失礼します!」



 志磨の言葉の途中、扉が勢いよく開いた。
 私服の女性、おそらく精霊召喚士だろう、その表情は焦り、息が荒かった。

 彼女を見て、志磨は、



「どうした! 今は忙しいから後に」

「報告です! 旧稚内地点に謎の精霊召喚士の集団が現れました!」



 驚く僕達をよそに妹尾は声を発する。

 ━━それも女性の声だ。



「ふふ、ふふふ、今さら気づくなんて馬鹿ばっだね。まあいいや、それではさよなら如月柚木、また後で会いましょう」



 その瞬間、妹尾と他の迷彩服の仲間達は粉々に爆発した。
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