精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

挟み撃ち

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 一瞬の事だった。

 妹尾が女性の声に変わって、変わったと思ったら急に迷彩服の連中と共に体が光りだして、

 そして、爆発した。

 体がバラバラに破裂した? でも血も肉片も飛んでこない。

 慌てた表情をしたアグニルは僕に駆け寄ってきた。



「主様、大丈夫ですか!?」

「あ、うん、シウネのおかげで助かったよ。ありがとうシウネ」

「いえ、なんとかこちら側は守れましたが……向こうは」



 シウネの咄嗟の判断に救われた、滝のような水を出現させ、僕達、それに他の精霊召喚士の体も守ってくれた。

 でも向こう側は血の海と化してる、本来人間だったのか、それがなんとかわかる程度だ。
 そして、妹尾や迷彩服を着た者達の姿は見えない、見えるのは粉々になった謎の破片。



「主様、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ、ちょっとこういうのは初めて見たから、もう大丈夫だよ、それよりこれは人形なのか?」

「そう……ですか。多分人形の精霊だと思います、それも上級精霊の仕業かと……ただ、人形をこんなに本物らしく、それに遠隔で操作できるのは、かなりの実力だと思います」



 カノンはそう言って、僕の体を心配してくれてる。
 こういうグロいのは苦手ではない、テレビや映画とかで見る分には何の問題もない、でも実際に目の前で見てしまうと正直具合が悪くなりそうだ。

 他の召喚士も慣れていないようで、その場に座りこむ者や嘔吐する者もいる。
 そんな中、エンリヒートは彼らだった物に近付き、



「主様! こりゃあ半分くらいは人形だな! 他は……あちゃー、これは人間だな」

「おそらく人間だった者達は巻き添えをくらったんだと思いますね、人間と人形は半々ですね!」



 エンリヒートの言葉にアグニルが続く。
 彼女達にとってこの状況は余裕みたいだ、人形と人間の死体の身辺を物色して、何かを探している。

 そして、志磨さんの叫び声が聞こえた。



「どうなってるんだこれは! なんで彼らが人形だって気付けなかったんだ。妹尾さんとはもう五年近くの付き合いになるのに……」

「志磨……」



 隣にいる心咲は、荒れている彼の肩に手を乗せる。
 五年の付き合い、それなら人形だと気付いてもいいと思うのだが、完璧な人形だったという事なのか?



「いや、これは……」



 エンリヒートは何か考えるようにして唸る。
 気付いたらカノンとシウネも、死体に群がり何か物色していた。
 何をしているのか、この離れた位置からではよくわからない。
 エンリヒートの答えはまとまったのか、立ち上がり、僕のとこまで来る。




「これは精霊の能力で生み出した人形だけど、たぶん一週間前くらいに本物と入れ替わったんじゃないかな?」

「えっ、どういう事?」

「んー、私もこういうのはあんま詳しくないんだけど、五年もずっと人形が人間の体を維持し続けるのは不可能なんだよ、これ見てくれよ主様」

「これは?」



 エンリヒートから野球ボールのような物を手渡された。
 少し血が付いていて、水晶のように透明でツヤツヤした物、これは、



「これは水晶、おそらく主様の知ってる人形を操る精霊とは異なる━━多分だけど、この水晶で体を作れる精霊だと思うな」

「……私はそんな精霊聞いた事無いですね、アグニルお姉ちゃんはありますか?」

「私もないかな……。主様、こんな少ない情報だけじゃあ、はっきりとどんな精霊かはわからないですね」



 四人とも首を横に振り、知らないと言った。
 そこへ立ち上がった志磨が、



「その精霊はわからないけど、入れ替わったんだったら、本物の妹尾さんは別のとこにいるかもしれないのかな?」



 志磨の表情は少し明るくなったが、エンリヒートは首を横に振る。



「たぶん、もう既に殺されてる、そう思った方がいいと思うぜ、悲しい言い方だけどさ」

「……そうか。まあ、そうだよね」



 もし入れ替わっているのなら、本物の妹尾を含め、彼らを生かしておく必要は無い。
 悲しいようだがこれが現実だ、そして、



「妹尾さんの体と人形を入れ換えた奴は、僕達にどうさせたかったのか、ただこの場所に立ち止まらせたかったのかな?」

「んー、それは違うと思いますけど。他に理由はあるとは思いますが、それが何なのか……」



 僕の言葉に、アグニルはわからないと答え、他の三人も、それに周りの者達もわからない様子だ。
 そして志磨は「あっ!」と、慌てた声を出し周りを見る。
 その探していた相手はさっき入ってきた女性だ。



「そういえば稚内地点の様子を聞いていいか!?」 

「あ……はい! 現在稚内地点の精霊召喚士達は、北からの謎の精霊召喚士と交戦中と報告を受けました……」



 彼女は見たくないものを見て具合が悪いのだろう、苦しそうな表情を我慢して報告する。
 稚内はこの日本第一支部の最北端、それよりも北の場所は、



「……ロシアの方向からか」



 志磨はそう言った。
 ロシア、全く日本と関わりを持たない国だが、当然精霊召喚士は存在する。
 ロシアが攻めてきた? 何の為に?

 そう聞こうと思ったが、先にエンリヒートが慌てて僕を見る。



「主様、妹ちゃんや雫や小人達が旧稚内地点にいるよな!?」

「そうだよ、志磨さん、妹達は大丈夫なんでしょうか!?」



 大事な事を忘れていた。
 妹や雫、それに小人達が旧稚内地点に向かう事になっていた、かなり距離があるからまだ到着してはいないと思うけど。

 志磨は僕の言葉を聞いて報告した女性に命令している。



「すぐにここまで引き返すように指示して」

「はい! わかりました!」



 女性は走って、来た道を引き返す。
 その姿を見届け、志磨は、



「おそらくまだ到着していないから無事だと思うよ、そこんとこは安心してほしい」

「そう……ですか、ありがとうございます」

「それじゃあ僕達も動こうか、これ以上ここに居ても、皆の具合が悪くなるだけだからね」



 志磨はそう言って、僕達と他の精霊召喚士達と一緒にこの部屋を後にした。

 元の部屋に戻ると、そこは慌ただしい雰囲気だった、それは当然か、旧稚内地点を狙われているのだから。

 だけど、慌てている理由はそれだけじゃなかった。
 パソコンを操作している男性は志磨を見るなり、慌てて伝える。



「志磨さん! 旧函館地点にも精霊召喚士達が、これは反日本政府だと思います!」

「なっ! ……挟まれたか」



 報告を受ける志磨は落胆した。
 北からも南からも敵が迫ってくるこの状況。
 どうしたらいいのか、というよりどちらから迎え撃てばいいのか、



「如月君、悪いんだけどどっちかに向かってもらえないか? すぐにでも動いた方がいいと思うんだ」

「わかりました……じゃあ」



 近接戦闘向きの精霊召喚士は旧函館地点に、援護や支援が得意な精霊召喚士は旧稚内地点にいる。
 当然、向かうべき場所は旧稚内地点だ、だけどここからでは距離が遠い。

 迷ってる僕に、アグニルは僕の右足を両手で掴み、



「主様……旧稚内地点に向かいましょう、本当にロシアから来た者か気になります」

「私も賛成です、助けに行くべきなのは戦える者の少ない方だと思います」

「そうだね、でも遠いのが……」

「それなら私が一緒に向かいましょう!」



 知らない声が聞こえ、その方向を向くと、そこには仁王立ちする女性。

 黒髪を後ろで束ねたポニーテールに、少し小麦色の日に焼けた肌、それに白と黒のチェックの上着と無地のジーパンを履いた女性。

 そんな女性は、何故だか自身満々の表情をしている。



「セイナ……今まで何処に行ってたんだ!?」

「えっ、いやーはははっ、ちょっとお手洗いに、ねっ」

「はあ、まあ如月君、彼女の精霊がいればあっという間に旧稚内地点に到着できるから大丈夫だよ」
 
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