精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

戦いが始まる前

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「それじゃあ、セイナさんよろしくおねがいします」

「オッケー! つっても、頑張るのは私じゃなくてピーちゃんなんだけどね!」



 大声で笑うセイナ。
 セイナの精霊、空間の精霊━━ビナギグ。
 小鳥のようなその姿は、精霊というよりは本物の鳥にしか見えない。



「ピー! ピピー!」

「じゃあ行きますよー! 空間の旅行へレッツゴー!」



 なぜか無駄に明るい彼女の掛け声と同時に、僕達は謎の空間に移動した。



* ** ** ** ** ** ** ** ** **


 空間の精霊は、行きたい場所まで空間移動できるらしく、この謎の場所が空間の間《はざま》らしい。



「私、初めて空間移動しましたよ主様!」

「アグニルお姉ちゃん、皆そうだと思いますよ? それに、あんまりはしゃがないでください、恥ずかしいので」

「さすがポンコツ精霊……私の主様の顔に泥を塗らないでもらえない?」



 アグニルは周りをキョロキョロして、少し嬉しそうにしながら歩き、それをカノンとエンリヒート冷ややかな目で見ている。
 空間移動といっても、謎の空間を飛んで移動するような、楽な移動方法ではない。
 一本道の洞窟をただひたすら真っ直ぐ進む、地に足を付けてだ。

 僕達は歩き続けていると、エンリヒートが、



「なあなあ、こんなにゆっくりしていていいのか? 現実では大変な事になってるのに」

「それは大丈夫だよ! この空間移動は外の時間の半分しか経ってないから!」

「半分……ですか、でもどれぐらいの時間で到着するんですか? さっきから同じ道ばかりで……旧稚内地点が見えないんですが」

「まあ焦らないでよ、あと少しで到着するからさっ」
 


 そう言ってセイナはおどけて見せた。
 この空間移動をする前に、念のためカノンの霊力術でセイナが敵ではない事を確かめた、だけど彼女は敵ではなかった、なので、彼女のこのゆったりとした感じは素らしい。

 そう思っていた。

 それから少し歩き、セイナは「あっ」と何かを見つけたみたいだ。



「ふう……これから醜い戦争が始まるけど、準備はいい?」

「えっ、あ、はい」



 急に話し方と表情が変わったセイナ。
 どちらが本当の彼女なのか、それはわからないが、気を引き締めろという事なのか。
 僕達は彼女を見て頷き、それに彼女も頷き返してくれた。



「……私は争い事が嫌い。だから早めに終わらせましょう、如月君」

「はい、僕もです……じゃあ行こうか皆」



 僕の言葉に、四人は合わせて頷く。
 誰だって争うのは嫌いだ、それも命を奪う争いなんて、できる事ならしたくない。

 だけど誰かを止めるためなら。

 争うしか方法がないのなら。

 僕らは争い、彼らを止めなくてはいけない、そう思ってる。

 洞窟の先に光る空間を見つけ、僕達はそこに入っていった。



「暗いな、ここは……」



 眩しい光から、一瞬にして辺りは暗くなった。
 夜だからだろう、街灯の明かりが付いていない。
 だけどここは街中のはずだ、時刻は一九時になろうとしている。それなのに家の明かりも付いていないなんて、少しおかしくないか。

 そんな中、周りを見渡しセイナが「こっち」と、小声で僕達を建物に隠れさせる。



「ここは稚内地点のすぐ側で、この地域も、もしかしたら戦場になるかもしれないと思って、あらかじめ住民の人には避難してもらってたらしいの……だから、ここで出会った人は仲間、それか敵だから、一般の人はいないわ」

「そうだったんですね。でもこんなに暗いと僕達みたいに面識無い人は味方か敵かの区別が付かないんですけど……何か見分ける方法はありますか?」

「そうだよね、ちょっと待ってて」



 すっかり先輩精霊召喚士の顔になったセイナは、肩にかけたバックから、人数分のコンタクトケースとスプレー缶を取りだし、それを僕達に渡す。



「このスプレーを自分の体に吹き掛けて、それでこのコンタクトレンズを片目に付けてみて」

「コンタクトレンズ、初めて付けるんですけど……えっと……これで……ふう、こんな感じでいいですか?」



 初めて付けるコンタクトレンズに緊張したが、なんとか付ける事ができた。
 カノンとシウネもすんなり付け、残る二人は……何回も地面に落とし、砂を水で取り除き、また付ける、そうして何回か繰り返し、やっと付ける事ができた。

 そしてスプレーを体に吹き掛けると、



「あれ、なんか色が付いてますね」 

「そう、味方の衣服には今の如月君のように黄色のスプレーが付いてるから……間違っても攻撃しちゃ駄目だよ」



 可愛い感じに人差し指を立てて言うセイナ。
 この状況でこんな風におどけられると、なんだか和むな。

 左目にコンタクトレンズを付けたから、左目だけで見ると黄色のスプレーが見え、右目だけで見ると黄色のスプレーが見えない。
 なるほど、こうやって仲間か敵の判別するのか、それに黄色だから暗くても見やすい。

 セイナは説明を終えると、おもむろに立ち上がり、



「この先に行ったら、すぐに戦場になってるから気を付けて。私は空間移動で負傷した人達の救助に向かうから」

「そうですか、わかりました」



 彼女の精霊の空間移動、これは戦闘にも救助にも、どちらにも向いていると思う。
 ここで別れるのはなんだか寂しいが、それは仕方ないのか。
 歩き出そうとしたセイナは立ち止まり、



「私の本名は白崎《しらさき》 星菜《せいな》。無事に帰ってきてね……如月君」

「あっはい、星菜さんも気を付けて」



 星菜は笑顔でそう言って、再び空間の中に入っていった。
 別れに本名を名乗るのは不吉な予感がするが、これが彼女なりの一時の別れの挨拶、そう受け止めよう。



「……主様、なんだか良い雰囲気でしたね」

「えっ、いやいや、別にそんなんじゃないからね」



 僕を見る四人の視線が痛い。
 目を細めた彼女達、そんな彼女達に全力の否定をする。
 アグニルの「まあいいですけど」、の一言でなんとか収まり、僕達は星菜が言っていた戦場へと歩く。

 少し歩いただけで、一瞬にして風景が変わった。



「これは……相当荒れてますね」



 カノンはそう言って周りを見渡す。
 暗闇にも少し目が慣れてきて、星が輝いてるおかけで街灯が無くてもこの街の惨状が見えてきた。
 さっきまでの街とは違い、荒れ果てた街中が、これまでこの場所で行われていた戦闘の荒々しさを物語っていた。
 建物は崩壊していて、暗くて判別しずらいが、おそらくは血である液体が、斑点状にアスファルトに付着している。

 そして、少し歩けば戦闘中だと思われる音も聞こえてきた。

 エンリヒートは嫌そうにしながら言った。



「そろそろ始まりそうだな……こればっかしは、殺さないといけない状況になりそうだぜ」

「そうですね……主様は、あまりそういうのはしなくていいですからね? 私達がしますから」



 カノンの言葉を聞いて、そういう、というのは殺す事を意味しているのだと理解した。

 前にシノに言った言葉。

『僕達の目指していた精霊召喚士は人を殺すような存在じゃなかったはずです』

 と、だけど、この状況で相手に情けをかけた場合どうなる? 代わりに四人が傷付くかもしれない。
 それは絶対にあってはいけない事だ。

 シノにあんな事を言っておきながら、真っ先に僕が約束を破る事になるとは。

 だけどやるしかない、僕の、僕を守ってくれる精霊の為にも。



「ありがとうカノン」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと主様! 急にそんな!」



 僕はカノンを抱きしめた。
 心配してくれてありがとうの意味を込め、少女のようなその体は小さく、すっぽり僕の胸に入ってくる。
 そして急に体温が温かくなり、顔を真っ赤にしながら、僕の胸をすりすりしてくる。

 そんな僕とカノンを見て三人は、



「一人だけはずるいです、不公平です、私の主様なのに」

「はっはっは、戦場に向かう前に私達も主様の愛情を貰っとくか!」

「私も私も!」



 少女達に抱き付かれる。
 その瞬間、皆の耳に付けた精霊石は光りだす。
 なんだか久しぶりな感じがする、以前はいつつだったっけ? 確かカノンとキスをした時か?

 そんな懐かしい思い出に浸っている時間はもう終わりのようだ。



「帰ってからもっとしてあげるから……みんな、行くよ!」

「「「「 はい! 」」」」



 かっこよく掛け声を発した。
 そう思ったが、四人は「もっとってどんな事かな?」とか「やっぱあれですよ、あれ」とか「ふふふ、ふふふん」と、全く集中していない様子だ。

 いらん事を言ってしまったと後悔してる。
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