精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

文字の大きさ
61 / 68
第2章

リドーニャ捜索

しおりを挟む

『ようこそ、旧稚内市へ』

 という看板を通り過ぎてから、生々しい音が耳の中に響く。
 精霊同士の乱戦の音、銃火器を乱射してる音、そのどれもが、一歩、さらに一歩奥へと進むにつれ、次第に大きくなり、そして、



「……いるね」

「はい、人数は……一五、いや二〇はいますね」



 カノンは小さな声でそう答える。
 黄色のスプレーを前後に付けてる者が約六人、それ以外は全員スプレー無しだ。
 スプレー無し連中の服装は軍服のようにピシッとしていて、紫色の服で統一されている。
 その中に数名だが、私服でラフな格好の者もいる。

 僕達の存在はまだ目視できていない、なら、



「……アグニル、それにシウネ。君達の術で奴らを狙えるかい?」

「もちろんです、主様」

「私もです」



 二人は僕の問いかけに頷き、静かに詠唱を始める。



「唸れ雷、全ての障害を凪ぎ払い、敵を伐て━━」

「水竜よ、我の呼びかけに応え、害意を喰らいつくせ━━」

「千本《サウザンド》の落雷《ライトニング》!」

「水竜《アクア》の暴虐《レステナント》!」



 二人の詠唱は同時に終わった。

 アグニルの術は彼らの頭上から無数の雷を落とす。

 シウネの術はシウネの背後から水竜を生成し、彼らへと向けて放つ。

 予想外の所からの襲撃を受け、彼らは混乱し、一切の避ける動作をしない。
 そして、そのまま地面に倒れ伏せ、精霊は消えていった。
 彼らが息をしているのか、それは確認しないでおいた。
 僕は覚悟を決めている、だけど、確認するのは嫌だからだ……もし彼らの息が無かったら。



「もしかして……如月君かい!?」



 黄色スプレーがはっきり見える私服の男性に声をかけられた。
 彼はこちら側の精霊召喚士のようだ。
 そして、一気に敵がいなくなった事に驚き、周りにいた者達も集まってくる。



「初めまして、如月柚木です、こっちは僕の精霊達です」

「うわっ、本当に多くの精霊と契約しているんだね……ありがとう助かったよ。君が来たって事は【旧札幌地点】から、他の精霊召喚士の人達も来てくれているんだよね?」 



 男性と女性の精霊召喚士、その六人は嬉しそうにしている。
 ずっとここを守り続けてきて、苦戦を強いられてきた、そこに僕達が現れたとなれば━━そう考えるのも不思議ではない、だけど、



「旧札幌地点から来たのは僕達、それに白崎《しらさき》星菜《せいな》さんだけです、他の方達は……」

「えっ? どうして!? ここが一番手薄なのに……」

「焦るなよ! 他の人達は向かってる途中、そういう事だよね?」

「それは……」



 僕の言葉を聞いて、六人は一気に動揺を見せ、僕の続きの言葉を待っている。

 ここに来る前、志摩に言われた言葉。

「おそらく、旧稚内地点に到着できるのは数名、それも到着はかなり遅くなると思うんだ、どうしても旧稚内地点はここから遠いから。それに、色々あってここの立ち直しにも人員を割かなきゃいけない、だから移動できる人員は少ないんだ……。すまないが、それまでは君達と、それから既に旧稚内地点にいる者達でなんとか堪えてくれ」

 と、この事を彼らに伝えると、彼らは落胆した表情に変わった。
 戦況がどうなっているのか、それは聞かなくても彼らの表情を見ればわかる、だからこそ、僕が来た事によって期待させてしまった、という事か。

 だが、最初に話かけてくれた人は「よしっ!」と一声上げた。



「落胆する内容ばかりじゃない! 皆もさっきのを見たはずだ、あんな大勢いた連中を一撃で崩壊させてくれた、なら、彼らが来てくれただけで、俺達にはプラスじゃないか!?」

「……そうね、元々少ない人数だし、それにいつになるかわからないけど、少しでも援軍が来るなら……なんとかここを守りきるしかないわね!」



 彼の一言で、暗い雰囲気が一気に明るくなった。



「如月君……俺はこの旧稚内地点を任されてる、篠崎《しのざき》 南《みなみ》だよ。すまないが力を貸してくらないかな?」

「あっはい、僕達で良ければ、よろしくお願いします」



 差し出された手を握り、握手をした。
 そこで初めて気づく、彼の手が震えている事に。
 あんなに大きな声を出したのも、他の皆を鼓舞したのも、もしかしたら自分自身の恐怖心を脱したいからなのかもしれないな。



「それじゃあ、別の場所にいる仲間の所に向かいながら、今の状況を説明するね」



 そう言って、僕達は走り出した。



「まず……この攻めて来てる者達はロシアの人間で間違いないようだ」

「やっぱり、ロシアの人達なんですね」

「そうだと思うよ、なんどか戦闘になった時に日本語じゃない言葉を喋ってたから、多分ロシア語だと思う」



 走りながら彼は言った。
 ロシア語がどんな特徴があるのかはわからないが、日本語を喋らないのなら、ロシアの者達で間違いないだろう、それに、あの統一された服装は見た事が無い。



「それから、見てわかると思うけど俺達は圧倒的不利な状況だ、さっきいた所はまだあまり攻められてなかったけど、ここから先、北に行けば行くほど、敵の数は増えていくよ」

「ここはまだ比較的少ない方だったんですか?」

「そうだよ、ここから先は━━見えてきたよ。地獄のような戦況が」 



 僕達の目の前に現れた光景、それは本当に地獄だった。
 海側にさっきの人達と同じ格好をした者がいて、陸地側に黄色のスプレーが塗られたいる者がいる。
 そして、海側にいる者達は全員、なぜか空を飛んでいる。



「えっと、空を飛んでますけど……」

「おそらく、空を飛ばす事のできる精霊がいるんだと思う。だけど、そいつが何処にいるのか、それが全くわからなくてね、だから向こうは上空から攻撃してくるんだ」



 空を自由に飛び回っている召喚士達。
 それを見て、ずっとおとなしくしていたアグニルが、



「主様……その空を飛ばす事のできる精霊を、私は知ってるかもしれません」

「本当に?」

「ええ、おそらく重力の精霊━━リドーニャ。そいつをなんとかしないかぎり、これは厳しい状況になるかもしれません」

「そうだなー、私の日本刀じゃあ空を飛んでる奴には攻撃できないし、そんな攻撃手段も持っていないからな」



 エンリヒートは堂々と答えた。
 そして、アグニルはため息をつき、悲しそうな表情で、



「主様残念ですが、ここは二手に別れましょう。私とシウネはここで空を飛ぶ者を狙います、主様はエンリヒートとカノンと一緒にリドーニャを探してください」

「えっ……私の主様と離れるのは嫌なんだけど」

「そうだな、そうした方がいいぜ主様」

「……いや、離れるなんて絶対に嫌なんだけど」

「そうですね、それの方が絶対に良いと思います」

「いや、だから」

「それでいいですか、主様?」



 シウネを無視して、話がどんどん進んでいく。
 それが確かにいいのか、空を飛ばれていたらエンリヒートの攻撃が効かないから。
 だが、シウネが僕の目の前まで歩み寄り、うるうるさせた瞳を向けられた。



「……私は離れたくない!」

「わかった! そうしようか!」

「そんな……私の主様が捨てるなんて……そんな、あり得ない」

「まてまて、僕は捨ててないよ。ちゃんとシウネとアグニルの事を信頼して任せるんだから」

「はうぅ、わかりました」



 シウネの頭を撫でると、嬉しそうにしながら何度も頷く。
 シウネの扱いが簡単な事がわかったところで、アグニルが精霊の特徴を教えてくれた。



「重力の精霊リドーニャは、主様の手の大きさくらいの精霊なので。それに彼女自身は空を飛べません、なので陸地の何処かに隠れていると思います」

「わかったよ! なんとか探してみるよ━━そういう事なので南さん、アグニルとシウネの事をお願いできますか?」

「わかったよ、そっちはお願いするよ」

「じゃあ二人とも、すぐに見つけてくるよ!」

「わかりました、くれぐれも気をつけてください」

「……カノン、くれぐれも私の主様に如何わしい事しないでよ」

「なっ! しませんよ! ……たぶん」



 小さな声で反論したカノンはほっといて、僕達は二人と別れた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

処理中です...