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第2章
リドーニャ捜索
しおりを挟む『ようこそ、旧稚内市へ』
という看板を通り過ぎてから、生々しい音が耳の中に響く。
精霊同士の乱戦の音、銃火器を乱射してる音、そのどれもが、一歩、さらに一歩奥へと進むにつれ、次第に大きくなり、そして、
「……いるね」
「はい、人数は……一五、いや二〇はいますね」
カノンは小さな声でそう答える。
黄色のスプレーを前後に付けてる者が約六人、それ以外は全員スプレー無しだ。
スプレー無し連中の服装は軍服のようにピシッとしていて、紫色の服で統一されている。
その中に数名だが、私服でラフな格好の者もいる。
僕達の存在はまだ目視できていない、なら、
「……アグニル、それにシウネ。君達の術で奴らを狙えるかい?」
「もちろんです、主様」
「私もです」
二人は僕の問いかけに頷き、静かに詠唱を始める。
「唸れ雷、全ての障害を凪ぎ払い、敵を伐て━━」
「水竜よ、我の呼びかけに応え、害意を喰らいつくせ━━」
「千本《サウザンド》の落雷《ライトニング》!」
「水竜《アクア》の暴虐《レステナント》!」
二人の詠唱は同時に終わった。
アグニルの術は彼らの頭上から無数の雷を落とす。
シウネの術はシウネの背後から水竜を生成し、彼らへと向けて放つ。
予想外の所からの襲撃を受け、彼らは混乱し、一切の避ける動作をしない。
そして、そのまま地面に倒れ伏せ、精霊は消えていった。
彼らが息をしているのか、それは確認しないでおいた。
僕は覚悟を決めている、だけど、確認するのは嫌だからだ……もし彼らの息が無かったら。
「もしかして……如月君かい!?」
黄色スプレーがはっきり見える私服の男性に声をかけられた。
彼はこちら側の精霊召喚士のようだ。
そして、一気に敵がいなくなった事に驚き、周りにいた者達も集まってくる。
「初めまして、如月柚木です、こっちは僕の精霊達です」
「うわっ、本当に多くの精霊と契約しているんだね……ありがとう助かったよ。君が来たって事は【旧札幌地点】から、他の精霊召喚士の人達も来てくれているんだよね?」
男性と女性の精霊召喚士、その六人は嬉しそうにしている。
ずっとここを守り続けてきて、苦戦を強いられてきた、そこに僕達が現れたとなれば━━そう考えるのも不思議ではない、だけど、
「旧札幌地点から来たのは僕達、それに白崎《しらさき》星菜《せいな》さんだけです、他の方達は……」
「えっ? どうして!? ここが一番手薄なのに……」
「焦るなよ! 他の人達は向かってる途中、そういう事だよね?」
「それは……」
僕の言葉を聞いて、六人は一気に動揺を見せ、僕の続きの言葉を待っている。
ここに来る前、志摩に言われた言葉。
「おそらく、旧稚内地点に到着できるのは数名、それも到着はかなり遅くなると思うんだ、どうしても旧稚内地点はここから遠いから。それに、色々あってここの立ち直しにも人員を割かなきゃいけない、だから移動できる人員は少ないんだ……。すまないが、それまでは君達と、それから既に旧稚内地点にいる者達でなんとか堪えてくれ」
と、この事を彼らに伝えると、彼らは落胆した表情に変わった。
戦況がどうなっているのか、それは聞かなくても彼らの表情を見ればわかる、だからこそ、僕が来た事によって期待させてしまった、という事か。
だが、最初に話かけてくれた人は「よしっ!」と一声上げた。
「落胆する内容ばかりじゃない! 皆もさっきのを見たはずだ、あんな大勢いた連中を一撃で崩壊させてくれた、なら、彼らが来てくれただけで、俺達にはプラスじゃないか!?」
「……そうね、元々少ない人数だし、それにいつになるかわからないけど、少しでも援軍が来るなら……なんとかここを守りきるしかないわね!」
彼の一言で、暗い雰囲気が一気に明るくなった。
「如月君……俺はこの旧稚内地点を任されてる、篠崎《しのざき》 南《みなみ》だよ。すまないが力を貸してくらないかな?」
「あっはい、僕達で良ければ、よろしくお願いします」
差し出された手を握り、握手をした。
そこで初めて気づく、彼の手が震えている事に。
あんなに大きな声を出したのも、他の皆を鼓舞したのも、もしかしたら自分自身の恐怖心を脱したいからなのかもしれないな。
「それじゃあ、別の場所にいる仲間の所に向かいながら、今の状況を説明するね」
そう言って、僕達は走り出した。
「まず……この攻めて来てる者達はロシアの人間で間違いないようだ」
「やっぱり、ロシアの人達なんですね」
「そうだと思うよ、なんどか戦闘になった時に日本語じゃない言葉を喋ってたから、多分ロシア語だと思う」
走りながら彼は言った。
ロシア語がどんな特徴があるのかはわからないが、日本語を喋らないのなら、ロシアの者達で間違いないだろう、それに、あの統一された服装は見た事が無い。
「それから、見てわかると思うけど俺達は圧倒的不利な状況だ、さっきいた所はまだあまり攻められてなかったけど、ここから先、北に行けば行くほど、敵の数は増えていくよ」
「ここはまだ比較的少ない方だったんですか?」
「そうだよ、ここから先は━━見えてきたよ。地獄のような戦況が」
僕達の目の前に現れた光景、それは本当に地獄だった。
海側にさっきの人達と同じ格好をした者がいて、陸地側に黄色のスプレーが塗られたいる者がいる。
そして、海側にいる者達は全員、なぜか空を飛んでいる。
「えっと、空を飛んでますけど……」
「おそらく、空を飛ばす事のできる精霊がいるんだと思う。だけど、そいつが何処にいるのか、それが全くわからなくてね、だから向こうは上空から攻撃してくるんだ」
空を自由に飛び回っている召喚士達。
それを見て、ずっとおとなしくしていたアグニルが、
「主様……その空を飛ばす事のできる精霊を、私は知ってるかもしれません」
「本当に?」
「ええ、おそらく重力の精霊━━リドーニャ。そいつをなんとかしないかぎり、これは厳しい状況になるかもしれません」
「そうだなー、私の日本刀じゃあ空を飛んでる奴には攻撃できないし、そんな攻撃手段も持っていないからな」
エンリヒートは堂々と答えた。
そして、アグニルはため息をつき、悲しそうな表情で、
「主様残念ですが、ここは二手に別れましょう。私とシウネはここで空を飛ぶ者を狙います、主様はエンリヒートとカノンと一緒にリドーニャを探してください」
「えっ……私の主様と離れるのは嫌なんだけど」
「そうだな、そうした方がいいぜ主様」
「……いや、離れるなんて絶対に嫌なんだけど」
「そうですね、それの方が絶対に良いと思います」
「いや、だから」
「それでいいですか、主様?」
シウネを無視して、話がどんどん進んでいく。
それが確かにいいのか、空を飛ばれていたらエンリヒートの攻撃が効かないから。
だが、シウネが僕の目の前まで歩み寄り、うるうるさせた瞳を向けられた。
「……私は離れたくない!」
「わかった! そうしようか!」
「そんな……私の主様が捨てるなんて……そんな、あり得ない」
「まてまて、僕は捨ててないよ。ちゃんとシウネとアグニルの事を信頼して任せるんだから」
「はうぅ、わかりました」
シウネの頭を撫でると、嬉しそうにしながら何度も頷く。
シウネの扱いが簡単な事がわかったところで、アグニルが精霊の特徴を教えてくれた。
「重力の精霊リドーニャは、主様の手の大きさくらいの精霊なので。それに彼女自身は空を飛べません、なので陸地の何処かに隠れていると思います」
「わかったよ! なんとか探してみるよ━━そういう事なので南さん、アグニルとシウネの事をお願いできますか?」
「わかったよ、そっちはお願いするよ」
「じゃあ二人とも、すぐに見つけてくるよ!」
「わかりました、くれぐれも気をつけてください」
「……カノン、くれぐれも私の主様に如何わしい事しないでよ」
「なっ! しませんよ! ……たぶん」
小さな声で反論したカノンはほっといて、僕達は二人と別れた。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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