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第2章
アイーシャ
しおりを挟むどうしてここに星菜がいるのか、そう思ったが、星菜は苦笑い気味の表情をしながら、
「いやー、ここに来る途中に如月君達を見つけてね。何かあるのかな、って思って後を付いていったらこの洞窟の中に入ってくのを見かけて、それで如月君達を待ってたんだけど……これ、何?」
「えっと、それを僕達は探していて、あの……それ一応精霊ですよ?」
「えっ! この小さいのが精霊なの!?」
星菜は驚き、その手に持つ精霊をじっと見ている。
緑色の爬虫類系生物、トカゲと呼ぶべきなのか、トカゲは舌をチョロチョロ出し、そして言葉を話した。
「小さいって言うな! 俺様だってちゃんと精霊なんだからな!?」
「うわっなんか喋った!」
星菜は驚いて指を離し、真っ逆さまにトカゲは落ちていき、そのまますぐに立ち上がる。
まずい逃げられる、と思ったが、トカゲは綺麗な着地をして、星菜に小さな三本指を向ける。
「おいっ! 危ねぇじゃねぇか! 持つならちゃんと持ってろよ!」
「えぇ、なんかはい、すみません」
星菜は驚き、咄嗟に謝ってしまった。
どうやらこのトカゲは僕達から逃げるつもりは無いみたいだ。
そんなトカゲに驚いたものの、僕は核心の事を聞く。
「あの、君がリドーニャでいいのかな?」
「んっ? そうだよ、俺様がリドーニャだ!」
「は、はあ」
堂々と答えるトカゲ。
その姿は小さいながらも風格があり、仁王立ちするその姿にはかっこよさもある。
エンリヒートは「そうか」と言い、手に持つ日本刀の先端をトカゲの首もとに向ける。
「じゃあ、お前がいなくなればあの空飛ぶ者達は落ちるよな?」
「えっ? あのーその、俺様に向けてる長いそれは何、かな?」
「んっ? これは日本刀って言ってな、日本では結構有名なんだが……知らないか?」
「いや、そうじゃなくて」
「ああ、そういう事か! お前を黒焦げにする事はできるぜ?」
日本刀を向けられたトカゲは後退りしながら汗を流す。
エンリヒートの表情は不気味だった、僕が見ても少し怖く感じたということは、小さい体のリドーニャにしてみれば、自分よりも大きな体のエンリヒートに向けられた日本刀は、驚異に感じるだろう。
「いやいや待て! ちょっと待ってくれよ! なっ、なっ?」
「何を待てばいいのかわからないんだが? それとも、あのおかしな術を解いてくれるのか?」
「それは……俺様だけじゃあ解けないんだよ、アイーシャがいないと」
「アイーシャ?」
「俺様の主だよ……」
トカゲは洞窟の中を指差す。
アイーシャ、一人だけ女性がいたから、あの人の事を言ってるのか? それとも中にまだ人がいるのか?
まあ、とりあえず中に入って確認するしか方法はないか。
僕はしゃがみ、リドーニャに聞く。
「そのアイーシャがいれば止めてくれるんだよね?」
「……さあ、俺様が首を縦に振るかどうかは」
「そうか、残念だけどエンリヒート……」
「はいよ主様、それじゃあ」
「わかったわかった! 許してくれ、俺様は理想郷《シャングリラ》には帰りたくないんだよ!」
「じゃあ最初から余計な事を言わないでください、それに私達の主様に舐めた態度は今後とらないでください」
カノンは呆れた表情でリドーニャに言い、リドーニャは「はい」と小さな声で言う。
その様子を見ていた星菜も苦笑いを浮かべていた。
そして僕達は再び洞窟の中へと入っていく。
中にいた奴らは起きてないだろうか、そう思ったが、物音は聞こえない、どうやら起きてないみたいだ。
そして、僕は寝ている三人を見て、
「どれが君の主?」
「いや、俺様の主はこんな大きくないぞ?」
「えっ? じゃあ」
「こっちだこっち!」
ついてこい、という事なのか?
リドーニャはペタペタと二足歩行で奥へと歩いていく。
ここ道だったんだ、と思えるぐらい小さな穴が横の方に空いていて、その穴に僕達はしゃがんで入っていく。
狭くて足が痛くなるような体勢で進んでいくと、広い空洞に出た。
「今戻ったぜアイーシャ?」
「……リドーニャ、うわーん、怖かったよー」
そこには金髪の少女がわんわん泣いていた。
金色の綺麗な髪を一本にまとめ、そのまとめた髪を右肩から出す髪型。
肌は雪のように白く、年齢は中学生くらいだろう、そして━━日本人っぽくない輪郭だ。
「アイーシャ、ちょっと問題があってな、紹介するよ」
「ひっ、だれ……この人達!?」
「んー、俺様もよくわからん!」
紹介するならちゃんと紹介してくれよ。
と思ったが、そういえばリドーニャにも自己紹介をしていなかったと気付く。
「初めましてアイーシャちゃん、僕は如月 柚木。こっちは僕の精霊でエンリヒートとカノンだよ」
「私は白崎 星菜。よろしくねアイーシャちゃん」
僕達は警戒心の無いように笑顔で名乗るが、どうやら臆病な子なのだろう、抱かれているリドーニャが潰れそうに苦しい声を出している。
少しでも彼女に近付こうものなら、その力を強め、脅えた表情を向け後ろに下がろうとする。
どうしたものか、悩んでいる僕達だが、抱かれているリドーニャが言う。
「なぁなぁ、アイーシャ、もうあいつらの味方をするのは辞めにしないか?」
「私達が裏切ったらお姉ちゃんが、それは絶対にできないよ!」
「だけどアイーシャだって手を貸すのは嫌だって言ってたろ? そんなアイーシャを俺様は見たくないんだけどな」
アイーシャとリドーニャは意味深な話をしている。
「何かあったの?」
「それがな……」
「━━駄目!」
「ぐへっ……アイーシャ。これ以上あいつらに従っててもガネーシャは帰ってこないぞ!?」
リドーニャが潰れてしまいそうになり、慌てたアイーシャの手が緩む。
その隙をついてリドーニャは飛び降り、僕達に教えてくれた。
「知ってると思うが、アイーシャはロシア人だ。といってもロシア人の父と日本人の母だから……人間でいうとこのハーフって事になるな」
「やっぱりハーフだったんだね、だから日本語がこんなに上手いんだ」
彼女は僕達にしっかりとした日本語で話している、だから彼女の言葉が理解できる。
「アイーシャには七つ上の姉がいるんだが、名前はガネーシャっていって、ロシアで精霊召喚士をしてるんだけど……ある事が問題で捕まっちまってな」
「捕まった?」
「ああ、半年前にガネーシャが日本のスパイだっていう噂が流れたんだよ━━それで捕まってるってわけだ」
アイーシャは抱く物が無くなったからか、下を向いて悲しそうな表情をしている。
「それで、アイーシャが姉の潔白を晴らそうとしてここに来たんだが……見てくれたらわかるように、アイーシャは臆病な子で争う事を嫌うんだよ。だからずっとここに隠れたまま、動こうとしないんだよ」
「そうなんだね、それでガネーシャさんは今どこに?」
「今はあの戦場の船の中だよ」
「船の中って……じゃあここにいないで助けに行けばいいじゃない? 皆船の中なんて気にしてないんじゃない? こんなチャンス無いわよ?」
星菜の言葉を聞いても全く動こうとしないアイーシャ。
そんな彼女を見て、少しため息混じりにリドーニャが言う。
「俺様とアイーシャは人を飛ばす事しかできない、言ってしまえば他人の援護しかできないんだよ、そんな俺様とアイーシャが行ったとこで……」
「じゃあ僕達が助けに行ってあげるよ!」
「えっ主様!?」
カノンが驚く。
だけどその驚く理由はわかる、どうして敵を助けるのかと。
ここでリドーニャを倒せば、あの空飛ぶ人間達は一気に真下に落ち、戦況はこちらの有利になる、だけど、
「なんか可哀想だなって……それにどちらにしろあの船を破壊するなり、追い返したりしないといけないんだから、どうかな? 僕は手を貸した方がいいかなと思ったんだけど」
僕の問いかけに、エンリヒートとカノン、それに星菜は少し呆れていたが、
「まっ主様はそういう人だからなっ! いいんじゃねえか? 私もその案に乗るぜ!」
「私は元々主様に従う者ですから、主様の行く所には私も行きますよ?」
「それじゃあ、私は皆をその船まで運んであげるよ!」
三人も納得してくれたみたいだ。
そんな僕達を見て、ずっと脅えていたアイーシャは、
「本当に? でも私はあなた達の敵で」
「その代わり、助けだしたら君達の術を解いてくれないかな?」
「ああもちろんだ! なっアイーシャ!?」
「……うん! ありがとう━━お兄ちゃん!」
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