精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

決戦

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 僕は気を取り直し前に走り出す。

 というよりも、これから起きるであろう惨劇を考えるのが嫌だった。
 これからとは、アグニルとシウネと再会した時に怒られる時の事だ。

 だから目先の事をクリアにする、今はその事が重要だ。



「柚木お兄ちゃん、こっちです!」



 本当にアイーシャは道を覚えていたらしい、僕達は彼女に誘導されるまま、この豪華客船のような船を走っている。



「おそらくですが、お姉ちゃんの側にはこの船の、いいえ、今日本に攻めるように指示している、アーネ・ヴァレンチノという方がいます」

「アーネ・ヴァレンチノ? その人がここのボスなの?」



 僕の問い掛けに、アイーシャは走りながら頷く。



「如月君……中は案外静かだね。まるで誰もこの船にいないように」

「そう、ですね……」

「いいえ主様、誰かいますね。奥の方から小さいですが物音が聞こえます、気をつけた方がいいですよ……主様」



 星菜はこの船から脱出する時、ピナギクと私が必要だと思う、そう言ってついてきてくれた。

 外では轟音が鳴り響いていたが、周りからは音が聞こえない。
 だけど、どうやらカノンの耳からは物音が聞こえるみたいだ、僕の隣を走る少女は周りを警戒している。



「柚木お兄ちゃん、ここです!」



 アイーシャは大きな扉の前で足を止める。

 ここにいるのか、そう思って皆を見る、皆は頷き、エンリヒートは炎を纏った日本刀を握りしめている。

 僕は覚悟を決め扉を開いた。



「お姉ちゃん!」

「ガネーシャ……大丈夫か?」



 入った瞬間、目の前の光景を見てアイーシャとリドーニャが叫ぶ。

 ここはおそらくこの船の操縦席だろう、僕の嫌いな機械の類いが横にずらっと広がっている。

 そして、ガネーシャと呼ばれた女性は僕達の目の前に両手を縛られた状態で椅子に座らせられている。

 アイーシャ同様、金色の綺麗な髪を三つ編みにまとめ、そのまとめた髪を左肩から出す髪型。
 肌は白く、年齢は僕と同い年くらいだろう、少し大人の雰囲気がする。

 ガネーシャは二人の声を聞き、慌てて大声を出した。



「……アイーシャ、来ちゃ駄目!」

「えっ、お姉ちゃん?」

「━━危ない!」



 ガネーシャの声と共に、僕達の真上から人が降ってきた。
 拳を地面に叩きつけ、その箇所がひび割れる。
 これは人間の力ではない、おそらく精霊召喚士で、精霊の力で威力が増しているのだろう。



「あれ……外したか?」



 随分と日本語が流暢な男性。
 だけど、その顔つきは日本人じゃない。
 鮮やかな金色の髪を短く揃え、身長は僕と同じ、いや、向こうの方が少し大きい。

 そして、この部屋の端に隠れていたのであろう、他に三人いる、全員で四人だ。

 服装は外にいた連中同様、紫色の軍服姿を身に纏っている。
 だけど、左胸に勲章《くんしょう》のような小さく、四角い物が左肩付近までびっしり付いている、あれは軍隊とかでよく見るやつで、旧札幌地点防衛施設にいた迷彩服姿の者達も付けていた。

 もし本当に勲章なら、相当偉い人なのか、そしてあの中にさっきアイーシャが言っていた、アーネ・ヴァレンチノがいるのか。

 そして四人が集まり、先程天井から落ちてきた奴が眉を寄せながら、アイーシャに悲しそうな表情を見せる。



「アイーシャ、私は悲しいよ。まさか日本人をここまで誘導してくるなんて」

「それは……それよりお姉ちゃんを返してください!」

「何回も説明したはずだよ? 私は今回の作戦が上手くいけば解放するって」

「……そう言って、そう言って半年も解放してくれなかったじゃないですか!」

「あれ? そうだっけ? 私は忘れっぽいからなー」



 男性はそう言って周りの連中と笑い出す。
 元から約束を守るつもりはなかったのだろう、ケラケラ笑う四人を見ていれば理解できた。

 そんな四人を見て、エンリヒートは警戒体勢で言った。



「ふざけた連中だが、あれは隙が無いな……どいつもこいつも笑いながらこちらをチラチラ見てる」

「私達だけでは厳しいかもしれませんね、早く二人が来ないと……」



 カノンも苦しい表情をしながら、腰を下げ、いつでも動ける体勢。

 二人とはアグニルとシウネの事だ、二人は今、ここに向かってると思うんだけど……まだ来る気配がない。

 そして、四人は僕の方をじっと見ながら、ロシア語で何か話している。
 何を言っているのかわからなかったが、リドーニャが小さな声で教えてくれた。



「……あれが標的か? って言ってるぞ」

「そうか……」



 ロシアの者達も僕が目的なのか。
 モテる男は辛いよ、なんてカッコいいセリフを言う場面なのだが……今はそんな余裕は無い。

 相手は四人、おそらくアイーシャとリドーニャは戦えない。
 星菜はよくわからない、戦ってくれると思うが実力は不明だ。
 現在戦えるのはエンリヒート、かろうじて僕とカノンが一人を相手できるかどうか、といった感じか。
 最低でも二人足りない、やっぱり彼女達が早く来てくれないと。



『アグニル、シウネ! まだ着かないのか!?』

『━━えっ!? いきなりそんな……すいませんが場所がわからなくて。何か問題でもあったんですか!?』

『少し厄介な奴らがいてね、できれば急いでほしいんだ』

『私の主様の危機でしたら急ぎたいのですが、こちらも邪魔な連中を排除して向かっている最中、それに場所が……』



 場所がわからないという事か、確かに外で見た時には船は沢山あった。
 そこから見つけだし、なおかつこの場所を探し出すのは厳しい。
 雫に僕達の場所を二人に教えてもらうか? だがそんな時間は……。



「君がMr.如月、で間違いないかな?」

「……ええ、そうですが」

「そうかそうか、私はアーネ・ヴァレンチノ。いやーアイーシャ良くやったよ! 標的を連れてきてくれるなんて」

「あなたの為じゃありません! 柚木お兄ちゃんが助けてくれるって言ったからです!」

「そうなのか? まっ、どうでもいいけどありがとう。じゃあご褒美にこいつを返してあげるよ」



 そう言って、アーネはガネーシャの背中で結んだ縄をほどき、そこ背中を蹴った。
 ガネーシャは大きくぶっ飛び、僕達と四人の間で止まる。
 それを見てアイーシャは姉の方へ走り出した、だが、



「アイーシャ危ない!」



 ガネーシャの背後から四人の内の一人である長身の男が剣を向け走り出す。
 明らかに狙っていた行動、その行動を瞬時に理解したエンリヒートは日本刀で応戦する。



「へえー、以外と速いね、君」

「レディに対して君扱いする奴は嫌いなんだよ」

「そうか……残念だよっ!」



 エンリヒートは剣を持った者の相手をしている、残り三人、その者達もこちらにゆっくり歩いてくる。

 なんとか、なんとかしないと。



「カノン、弓を!」

「はいっ!」



 僕はカノンから金色の弓を受け取り、奴ら三人の天井に矢を放つ。
 威力は天井を破壊する程度でいい、これは、



『二人とも! この矢の場所に急いで来てくれ!』



 これは目印だ、僕達がここにいるという。
 だから早く来てくれ━━二人とも。

 少し怯んだ体勢のアーネ達三人、だが何もないとわかり再び歩き出す。

 そして、待ち人は固いであろう窓ガラスを破壊し、僕達の目の前に現れた。



「お待たせしました主様!」

「私の主様に危害を加えようとしているゴミは何処ですか」



 この時、二人はかっこ良くてヒーローのように見えた。


 
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