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第2章
精霊王
しおりを挟む「主様、無事ですか!」
颯爽と現れた二人、その姿は少女なのに、何処かかっこ良く感じる。
そして向こうの四人は急に現れたアグニルとシウネに驚き、
「チッ……仲間か。ゼファー、シリウス、お前らは来た奴らをやれ!」
アーネはそう言って後ろの二人に指示を出す。
茶色の髪に低い身長、どこか頼りなさそうな風貌の男ゼファー。
彼はアグニルに走り出し、狼の精霊を出す。
どうやら彼の精霊はシルフィー同様、風の精霊みたいだ。
ゼファーと狼の周りには小さな風が現れる。
そして薄い金色の髪を腰まで伸ばし、少し大人っぽい女性シリウス。
彼女の精霊は雷か、雷を身に纏った普通よりも大きめの鳥を呼び出し、シウネに向かって走り出す。
そしてエンリヒートの相手をしている長身、前髪を後ろに纏めた黒髪、オールバックヘアーの男性。
その周りには精霊が見えない、だが、おそらくはあの大きな刀が精霊なのだろう。
刃先がギザギザになっている。
この三人の精霊、おそらくだが上級精霊だろう、他の連中とは雰囲気が違う、そして、
「いい感じに分かれてしまったね、君の相手は私が務めさせてもらうよ……Mr.如月」
アーネは僕を見る。
後ろにはアーネと縦幅は同じだが、横幅がアーネ二人分くらいの黒いオーラのような人の形をした精霊。
あれは何の精霊だ? 黒い人、まるでアーネの影のような。
「主様……あれは影の精霊です、それも上級精霊です」
「そうか……だから」
カノンの言葉を聞いて思い出した。
あれは父さんと同じ影の精霊、ということは、
「影縫《シャドウバインド》い」
アーネは地面に手を付け、精霊術を発動する。
影縫い━━父さんが前に使った動きを止める精霊術。
じわりじわりと地面から侵食する影、この影に触れれば動きを止められてしまうのか?
だけど動きを止められても、術者も動けないはずだが、
「おいでおいで、私の可愛い羊さん達! 贖罪《スケープ》の山羊《ゴート》!』
カノンは羊の群れを召喚する。
その羊が一匹、二匹、影に触れた瞬間、時が止まったように動かなくなる。
それを見てアーネは小さく舌打ちをして、地面に触れていた手を離す。
だけど羊の動きは止まったまま、たしか手が地面から離れたら動けるはずではなかったのか?
それを見たカノンは僕の隣まで後退し、
「理由はわかりませんが……どうやら手を触れてなくても止められるようです、なので影に触れないようにしてください」
「……わかったよ」
他の三人は目の前の相手に集中している。
星菜の姿はこの部屋にはいない、逃げた? とは思いたくないが、たぶん空間の中にいるのだろう。
アイーシャとガネーシャは脅えて端の方に丸まっている。
僕とカノンでこのアーネという男をなんとかしなくちゃいけないのか……。
「影の精霊……何処かで見た事があるみたいだね?」
「ええ、まあ。それより一つ聞いていいですか?」
「……何かな?」
「どうして、僕を狙っているんですか?」
率直な疑問、だがアーネは手を止め少し悩んでいた。
どうして即答しない、理由があってこんな事をしたんだよな。
それから少し経って、アーネは思い出したように明るい表情をして、うんうん、と何度か頷いた。
「……そうそう、私達は君の力に興味があるんだった」
「力……ですか」
「そうなんだ、多くの精霊と契約できる君の力の正体をある女から教えてもらってね……私は、いや、ロシアのお偉いさん方は非常に興味を持っているんだ、良かったら私達と一緒にロシアに来てくれないかな? 決して悪いようにはしないよ?」
ニコニコ笑うアーネ。
その言葉を聞いて疑問に思う事がある、僕の事をロシアに教えた女の事、そしてロシアが僕にどういう理由で興味を持っているかだ。
だけど話を聞くつもりはない。
「僕はあなたを信じる事はできません、すみませんがロシアには手ぶらで帰っていただけないでしょうか?」
「そうかい? それは無理な相談だよ。じゃあ無理矢理にでも連れて帰るとしようか……」
アーネはそう言って僕の後ろを指差す。
僕の後ろに何が、そう思って振り返ると、そこには黒い影が。
話に夢中になっていた? いや、そんなはずない、警戒はしていた。じゃあなんで。
「━━主様!」
カノンの声が聞こえた。
そこ瞬間、ドスッという鈍い音が体内から聞こえた。
なんだろう、お腹が凄い熱い。
僕は熱い箇所のお腹に触れてみた。
あれ、なんか濡れている、それになんで僕のお腹から短い剣が出てるの?
もしかして、これ刺さっているのか?
その瞬間、感じた事のない痛みが腹部を襲った。
多くの血が吹き出し、口からも血が溢れ出る。
「主様……主様!」
カノンの声が遠退く。
これはもしかして、いやもしかしなくてもまずいかな。
なんでこうなった? 僕はどこで間違えた?
意識が薄くなっていく、目の前も色が無くなる、ただ真っ白な、まるで真っ白な紙の世界に来たみたいな、そんな感じ。
僕は四人を守らないと、四人の力にならないと。
なのに体が動かない、というよりも自分の体がどうなっているのかわからない。
立っているのか、それとも座っているのか、それすらわからない。
ああ、僕はここで死ぬのかな?
『……力が欲しい?』
誰?
知らない声が聞こえる。
アグニル? エンリヒート? カノン? シウネ?
いや、四人の声じゃない、こんな寂しそうな声じゃない。
それじゃあ、ここは死の世界なのか?
『力が欲しいなら願って、あなたにはその才能があるから』
「僕に才能? そんなのあったらここで死んでないよ」
僕は何も見えない白画面に笑って返す。
だが、女性の声は続く、僕は彼女と会話をする。
『まだあなたは死んでいない、まだ戻れるよ』
「戻れるっていっても……こんな状況で僕が戻ってもさ」
『じゃあ……四人を置いていくの?』
「……」
『あなたを信頼して、そして愛してくれている四人を』
「……それは」
『そんなに弱い人間だったの? 違うでしょ? あなたは誰よりも強い人間のはず』
「君に何がわかるのさ! 僕は……」
『僕は普通の学生、まだそんな事思ってるの?』
「違う! ただ……僕は皆に守られてるだけなんだ、カノンの弓以外、僕は彼女達の力になった事が無い」
『……そうかもしれない、でもそれは自分の才能に気付いていないだけだよ?』
「だから、僕に才能なんてないんだって!」
『……エンリヒートと出会った時、彼女はあなたに【精霊王】って呼んでたけど、それをまだ覚えてる?』
「それは……。でもあれはエンリヒートが勝手に言った事だってアグニルが」
『あの子は適当な事をよく言う子だけど、その言葉はあながち間違ってないのかもよ?』
「間違ってない? どういう事?」
『あなたは精霊王になる資格があるの、まあ、精霊王といっても想像する形は人それぞれだけど、そうだな━━あなたは精霊王って言われてどんなのを想像した?』
「どんなのって、そうだね、沢山の精霊を従える者……かな?」
『うん、それも一つの考えだけど、私の考えている精霊王の形は少し違うかな?』
「……じゃあどんなの?」
『私は精霊、そして召喚士も従えられる者、それも多くの精霊と召喚士を従えられる者、そんな人が精霊王だと思うかな?』
「人を従える……か。まるで国を作った王様みたいだね」
『そうそれ、あなた国を作りなさいよ!』
「はっ!? いきなり何を言って━━」
『だって、このままじゃああなたは色々な人に狙われるのよ? なら自分の身を守れる国を作ればいいのよ!』
「そんな無茶苦茶な、第一、そんな国を何処に作るの?」
『あなたが今いる日本第一支部? あれカッコ悪い名前だから変えて自分の国にしちゃいなさいよ!』
「そんな馬鹿な話……。君の妄想の世界じゃないか、それに日本第一支部は国じゃないからね」
『……まあ。じゃあ、あなたはこれから先ずーっと狙われ続けて生きていくの? いつになったら幸せな生活を迎えられるの?』
「それは……」
『まあいいわ! 今ははっきりと答えなくて、だけどこれだけは覚えていて? あなたはずーっと狙われ続けて生きていくの、それはあなたの周りの人も同じ、あなたは自分を、そして大切な人達を守っていく、その為には何か行動しなくちゃ駄目なの』
「そりゃあそうだけど」
『僕には力が無い、僕は彼女達に守ってもらってる、僕は……。そんな弱気じゃあ、またすぐに殺られちゃうよ?』
「じゃあ、やっぱり僕は一回死んでいるの?」
『そう、私がギリギリのとこで助けてあげたの! だから感謝しなさい、そして、あなたに四人の力になれる物をあげるわ!』
「四人の力になれる物?」
『いい、戻ったら頭に浮かんだ言葉を唱えなさい。そしたら、この剣があなたの力になってくれるから』
「えっ? えっ? それより君は? 君は誰なの?」
『会って言いたいけど、できないから戻ったらアグニルとエンリヒートに伝えて……』
そう言って僕は彼女の伝言を受け取り、元の場所に戻っていた。
腹部の血は止まり、僕の周りにはカノンとアイーシャ、それにリドーニャとガネーシャが、他の三人も戦いながらも心配そうにこちらを見ている。
「主様……あるじさま、あるじさま、あるじさま! 心配しましたよ」
「柚木お兄ちゃん! 良かった……」
「ああ、ごめんね。ところで僕はどれぐらい眠ってたのかな?」
「……眠ってた? いえ、倒れてからすぐに起きましたけど」
驚いているカノンの瞳からは涙が溢れ出てる。
かなりの時間、知らない女性と話をしていた気がするんだけど、どうやら時間は経っていないよう。
それに、話をした事は僕の勘違いじゃないみたいだ、だって僕の頭の中には知らない言葉が浮かんでいるのだから。
「もう大丈夫だから……少し待ってて」
起き上がってみるが、さっきまで血が出ていた辺りは赤く滲んでいるだけで、全く痛みはない、まるで何もなかったように感じる。
僕は名も知らない女性に言われた通り、頭に浮かんだ言葉を発する。
「我は精霊王、我が精霊の力をこの剣に、そして目の前の者達を一瞬で葬りされ━━ハーブド・ア・ルイン!」
唱え終えると、僕の手には剣が。
それは普通の剣とは違って、木や鉄でできた剣ではなく、神々しい光を放つ剣だった。
僕はその剣、ハーブド・ア・ルインを一振りする。
その瞬間、目の前は広々とした景色が広がる。この部屋を囲んでいた壁が一瞬にして消えた。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
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