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4話
しおりを挟む━━15時10分
授業が終わると、周りの生徒達は楽しそうに放課後の用事について話していた、「これから遊びに行かないか?」や「これから部活だ」など、学生生活を楽しむ声が聞こえる。
当然この二人にも聞こえてきたが、二人にはそんな時間は無かった、放課後になるとすぐに学校を出て走りだす。
「……朝の時点ではフェーズ2だったのに、こんな急に段階が上がるなんて」
走りながら奈瑞菜《ナズナ》は焦った表情を見せる。
放課後に入る少し前、魔巣隊《まそうたい》の隊長である、剱崎《ケンサキ》から、奈瑞菜へと連絡が入った。
用件は今日行くはずだった巣食い魔に侵食された女性、その女性のフェーズが3へと変更したというもの。
なので二人は大慌てで魔巣隊の本部へと向かう、あるメンバーと合流する為に……。
「すいません、遅れました……」
「はぁはぁ、白兎《ハクト》に、負けた」
競っていたつもりはないのだが、二人は━━というよりは奈瑞菜は白兎よりも前を走りたかったのだろう、結果的に競う形になっていた。
だが結果は見ての通りで、
少し汗をかいているが余裕そうな表情の白兎の勝利。
汗を流し、膝に手を付け息を切らしてる奈瑞菜の敗北。
だけどそんな事はどうでもいい。
二人の目の前には椅子に座る隊長の剱崎、その横に奈瑞菜の母で観測室のメンバーである東雲《シノノメ》、そして小さな二人の少女と大柄な男性の姿があった。
「遅かったな二人とも!」
「蓮司《レンジ》……蓮司も来てたんだね!」
屈託のない笑顔を向ける男性、芝崎 蓮司。
身長が一九〇とかなり大柄な体格に、短く揃えた黒髪、日に焼けた肌の蓮司。
普段は大学生で、年齢は今年で二〇になったばかりだ。
蓮司は人生も魔狩り人でも先輩で、高いフェーズの時は一緒に組む事が多く、パーティーのリーダー的存在だ。
だが蓮司は年上だからといって敬語を使えなんて言わない、逆に「パーティーでは背中を預ける仲間なんだから敬語を使うな」と言っている為、メンバーは彼にため口で話している。
そしてパーティーは普通なら五人一組からなる、それが一番最適な人数だ。
という事はこれで三人、後二人は、
「白兎《うさぴょん》さん遅い! 私達待ちくたびれちゃったよ!」
「ちょ、ちょっと心愛《ミア》……白兎さんをそ
んな呼び方したら駄目だって何回も言ってるじゃない」
「んー、うさぴょんさんはそんな事でいちいち怒るタイプじゃないから大丈夫だって、それに、私だって仕事中はちゃんと白兎先輩って呼んでるからねー、なーうさぴょんさん」
「ん……まあ、そうだね」
「なっ? だから言っただろ莉愛《リア》!」
「今の返事を困ってないと受け取るとは……相変わらず何処か抜けてるわね、心愛《ミア》」
「━━げっ、奈瑞菜先輩もいたんですね……知りませんでしたよー、はははっ」
「私が受注した仕事なんだから私がいて当たり前だと思うんだけど? それとも、私がいたら何か問題でも?」
「いえいえー」
首を何度も横に振る心愛。
この二人は姉妹だが双子ではない、姉の五月雨《サミダレ》 心愛《ミア》は四月生まれ、妹の莉愛《リア》が一月生まれで、一年くらい違う。
二人共、白兎と奈瑞菜と同じ、私立神栄《しんえい》高校に通う高校一年だ。
髪型、そして表情、二人はよく似ている。
アクアブルー色の髪を長く伸ばし、白い肌、大きな目元、身長は一五〇と同じ。
ここまでは似ている、見分ける方法はある、それは、
アクアブルー色の髪を右側で縛り、瞳の色が赤色、陽気な性格なのが姉の心愛《ミア》。
アクアブルー色の髪を左側で縛り、瞳の色が緑色、少し臆病なのが妹の莉愛《リア》だ。
「それじゃあ全員が集まったとこで、今回の任務について説明する」
いつまでも楽しい空気、とはいられず、剱崎の低い声が室内に響く。
この声が聞こえた瞬間、この場にいる全員に雷が落ちたように、背中をピシッとする。
「今回の被害者は宍戸《シシド》 ライカ。神栄大学に通う一年だ」
「神栄大学って……確か蓮司の通ってる大学だよね?」
そう言って白兎は蓮司を見る。
「ああ、俺と同じ大学に通ってる、それに同い年で何度か話した事があるよ」
「へえー、じゃあ蓮司はその被害者がそうなる前に止める事はできなかったの?」
誰が相手でも堂々としている心愛。
そんな心愛の質問に、腕を組んでいる蓮司は首を横に振って答える。
「いや、ライカは明るい子だったから……全くそんな雰囲気は出さなかったんだよ」
「蓮司さんでもわからないなんて、でも明るい女性ほど、心の中で何考えてるかわからないって言いますからね……」
莉愛はそう言って、隣で「そうだなそうだな」と笑っている心愛を見る。
他の者も同様だ、その視線を感じ、心愛はキョロキョロと周りを見て自分を指差す。
「えっ、えぇー! 私!? なんでそこで私なのさ!?」
「だって、心愛が一番明るいから……」
「ない、ないない、ぜっーたいないって! 私に悩む事なんて何もないから!」
「まっ、心愛は悩んで巣食い魔に侵食される前に、その悩みすら忘れちゃいそうだものね」
「なっ、ちょっと奈瑞菜先輩! それはいくらなんでも酷くない!?」
「あら、事実じゃないの?」
「ぐぬぬ……」
女の戦い、二人の間には見えない火花が散っていた。
別に二人の仲は悪くはない、ただ、会う度にこんな争いをする、おそらく奈瑞菜は心愛をからかうのが面白いのだろう、いつもからかっている時は楽しそうだから。
だけど、そこに冷たくそして恐ろしい爆撃が落ちる。
「……お前ら、俺の前で随分楽しそうに話しているが、今はお前らに楽しく話していいと命じたか?」
剱崎だ、この恐ろしい声に、先程まで騒がしかった各員が一斉に小さくなる。
剱崎はため息をつき、
「次、無駄口を叩いたら……わかってるな?」
「「「「「 はい! 」」」」」
五人は一斉に大きな返事をする。
なんで僕まで……。
何も言葉を発しなかった白兎は、少し納得いかなかったが、ここで口答えをすると後が怖い、そう思って黙る。
「聞いている通り、被害者のフェーズは3に移行した。本来ならもう少し人数を増やしたいんだが、他の魔狩り人は今、別の任務に出ている。だからお前達でなんとかしろ」
「はい、それで被害者は今どこにいるんですか?」
「……付いてこい」
剱崎はそう言って部屋を出ていく。
この隊長室を後にして、隔離室と呼ばれる、フェーズ3以上の者を隔離する場所に移動する。
そこには私服の女性がベッドに縛られていた。
口には大きめのタオルが巻かれ、手足は鉄製の鎖で動かないようにされていた。
その周りには医者のような白衣姿の男性と女性、剱崎を見た瞬間、素早く頭を下げる。
「お、お疲れ様です」
「ああ、それで被害者の容態は?」
「今は薬で眠らせてるので落ち着きましたが……さっきまではかなり暴れてましたね」
フェーズ3━━既に自我は失いかけ、全ての者に対して怒りが芽生える。
そして周りの者全てが自分の敵に見え、非常に危険な状態だ。
フェーズ3からフェーズ4への移行は速い、すぐにでも巣食い魔を退治しなくてはいけない状態だ。
「お前ら、準備は良いか?」
剱崎の言葉に、各々が頷く。
「フェーズ4に移行するまで時間がない、急いでいけ。まあ━━お前達がばか騒ぎしたからだがな?」
「は、はい! じゃあ行くぞ━━開け」
ここで失敗したら巣食い魔じゃなく、目の前の剱崎に殺される。
そう全員が思っただろう、蓮司は慌てて被害者である、宍戸ライカに手をかざす。
その瞬間、五人は彼女の心の中に入っていった。
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