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第壱章 サファイアシュラン編

まだ傍観

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2日目の朝が来た。用意された戦闘服を着て出発の準備をする。なぜだかサイズはピッタリだ。馬車と数十の騎馬隊の護衛が朝早くから外にいる。

馬車に乗ると水天様が先に乗っていた。
「おはよう渉くん。今朝はよく寝れたかのう?」
「はい、。実家よりベッドが良くてぐっすり寝れましたわ笑」
やっぱり乗る馬車は間違えていなかったか

「水天様も向かうんですか?」
「もちろんじゃ。普段は天獣討伐ごときでわしは出払わんのじゃがのう」
「嫌な予感でもしましたか?」
「まぁ、そんなところじゃな。」

「今回のは国境付近なんですよね?その隣国はどんな国なんですか?」
「火のアーク国家『イグニス帝国』じゃな。比較的資源や天候に恵まれず、そのため格差が広がり貧困層が多いのう。じゃが高いアークエナジーや強いアークライトを持っていると上にもあがれる制度もあって国民が必死に強くなろうとしている、言うなれば根性国家じゃな!笑」

一国の国王の割にかなり軽いな…

「お、そうじゃ。お主たちを襲った三門帝牙もイグニス帝国のアークエンジェルじゃよ。」
「…?!」
「三門帝牙は元々、土のアーク国家『ランドグラーベン』のアークエンジェルじゃったが、その東に位置するイグニス帝国に寝返ったそうじゃ。」

なにか訳がありそうだが、そこまではさすがに分からないか

「そのランドグラーベンはどんな国なんですか?」
「そうじゃのう。大地に恵まれた豊かな国じゃ。故に昔から発展してきたが、近年それがめざましく、伊藤中将が使うウィングエンジェルもランドグラーベンの技術じゃ。正直、現状4カ国が一斉に戦争をしたら、勝つのはランドグラーベンじゃろうなあ。」

これはこれで闇が深そうな気がする。

「聞いてもいいのか分かりませんが、私たちをここに呼んだ総大将はどんな人なんですか?」
「そうじゃのう。気づいてはいると思うが、総大将エリック・ヴィクマンはカールの兄じゃった。それは強い氷のアークライダーじゃったわい。じゃが、イグニス帝国との戦争で命を落としてしまったんじゃ、。」
「出現がイグニス帝国の国境付近ということは、もしかしてそこで…」
「あぁ、そうじゃ。やはり渉は頭がいいのう。」 

そんなところにこれから行く…。だからみんなソワソワしているのか。



そうこうしている内に、いつの間にか国境付近の農村地に来た。ここからは馬車では道が険しいようで、みんな馬を降りて歩きで行く。

 馬車を降りた瞬間広大な田園風景が拡がっていた。農民のみんなは自分たちの水のアークライトを使い農業をしているようだ。大変そうだが、奴隷のような感じではないように見える。

「水天様、ご到着でございます。」
いつの間にかマリアたち大将2人と伊藤がいた。
だが、この瞬間一気に働いていた農民たちの様子が変わった。かなりざわついている。

「うむ。くるしゅうないぞ、マリア。」
と、馬車を降りた瞬間、その場にいた王国軍、農民問わず全員頭を下げた。特に、農民たちは土下座をしていた。子供、老人、片足がない人までも、即座に土下座をしていた。
よく見ると、みんな顔を着いている地面が濡れていた。泣いていたのだ。悲しいからでは決してなく、尊敬や敬意などの類いの涙だ。

そこに、優しそうな少女が水天様に向かって走ってきた。
「水天様!これ今日のなおみのご飯なの!急いでおにぎりしたから、いっぱい食べてください!!」
と、荒れた手に乗った不格好な三角形のおにぎりを水天様に見せている。
後ろに両親と思われる2人がなにも出来ず慌てて静かにパニックになっている。

すると水天様は
「これはおいしそうなおにぎりじゃ!
じゃが、このご飯は、あっちのパパとママと一緒に食べるんじゃぞ、!」
と満面の笑みで言っている。

すると、少女はそれ以上の明るすぎる笑顔で
「うん!」とうなずき、両親の方へ帰った。

それから数キロ歩いたが、そこまで続いていた農村地域も土下座した農民たちの風景は変わらなかった。


そしてようやく到着した。俺がこの世界に来た時の湿地帯のように、ただなにもないまっさらな荒野だった。

「ほんとなんもねえな!」
「カール、油断は禁物だぞ。臨戦態勢でいろ。」
「はいはい、!」

しばらくすると中将の1人が駆け寄ってきたり
「水天様、まもなく出現時刻です。」
「うむ。頼むぞ。」

大型天獣がさっそく一斉に出現した。大きさにバラつきはあるが、およそ7~15mくらいだ。だいたい50体ずつくらい出現するようだ。

「水天様は出ないんですか?」
「わしが出ると下手したらイグニス帝国の検知に引っかかってしまうんじゃ」
なるほど。いきなりキングは難しいのかヨイ。

「どうじゃ?初めての軍隊戦は。怖いかのう?」
「正直、闘いたくてウズウズしてます」
「なんと!笑笑 さすが伊藤の聞いてた通りじゃ!」
「自分は参加しちゃダメですかね、?」
「そうじゃな。まだ早いかのう。」

「では、戦術としてはどう見るんじゃ?」
「そうですねぇ。ある程度の数の兵を少将がまとめて、5つの隊を中将がまとめて、出現地の端に大将の2人がいる感じでしょう。軍は基本的に端が少なからず弱いのに対し、天獣は満遍なく戦力が分散しているからその対策でしょう。」
「さすがじゃのう。じゃが、それだけではないぞ。中将の中で間違いなく1番強く、大将に近い伊藤を真ん中に置いているんじゃ。」

なるほど、やはり伊藤はかなり強いな。
益々戦いたくなってきた。

見ている限り、やはりマリアは霧のアークでカールは雪のアーク、ほかの兵は基本的に水のアークだがちょくちょく違うものもいる。中でも伊藤は特異な戦い方でかなり目立つな。


1、2時間した時徐々に天獣の数が減っていき、そして遂に最後の一体を倒した。

「水天様、通信失礼します。この討伐、なにかおかしいです。聞いていたアークエナジー反応より遥かに数が少ない…」
「やはり、この戦いなにかあるのう。数が減ったとて決して油断をするな。じゃが、無駄に体力とアークを消費するのも気をつけるんじゃ。」
「了解。」

さすが指揮官だ。冷静で適切な判断を迷わず下している。

数十分後、かなり数が減ったところで通信が入った。
「水天様!中将レクセル・ヤコブセンです!」
「要件はなんじゃ」
「奥の方に人影が見えます!!しかもかなりの人数です!」

どうやら嫌な予感は的中しそうだ。
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