アークの涙 -転移した者たちの戦争物語-

Usuta96

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第弐章 イグニス帝国編

井の中の蛙

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こちらのアークエナジーの残量はそう多くない。おまけに腕を1本持ってかれた。運がいいのか、さっき作って大量の槍で壊された壁はまだある。まるでサバゲーのフィールドのようだ。

「兄貴…。」
カールはため息を吐くようにつぶやいた。


カールとエリックは正確には腹違いのため異母兄弟である。サファイアシュラン王国では一夫多妻も認められており、一部の古くから続く上流貴族は後継ぎを残すためにも妻を多く持つ。ほとんどの人は一途な国民性もあり一夫多妻はしていない。

生まれた時からいたエリックはカールにとって間違いなくかけがえない存在だった。
エリックはヴィクマン家の本家で二枚目で文武両道なこともあり、一族からもそうでない人間からもとても好かれていた。

そんな賢明で面倒見のいい兄を持ったカールは必死に追いつこうと努力をした。だがどんなに勉強をしても体術やアークを鍛錬しても、その当時のカールの年齢のエリックにすら適わなかった。
目の前にいる大きすぎる壁を目にして、日々カールは独りでに悔し涙を流していた。夜寝る時も、豆が潰れて血だらけの幼い手で敷布団を握りしめて泣き、朝や夕方の自主練の時も壁を感じて崩れ落ちて泣いていた。だが、決して誰にも見せなかった。
他人に見られない努力をしていたため、アークエナジーの感知能力はエリックを越えていたが、カールは気付いていなかった。

そしてある日、二年に一回の学園の筆記と体術とアークの総合試験があり、そのためにカールはずっと今まで以上に寝る間も惜しんで涙を静かに流しながら努力していた。もちろん最優秀の成績だったが、やはりその歳のエリックも越えられず自分をひたすら責めていた。

そしてエリックは偶然、夜中にカールの泣いている姿を見てしまった。カールはあまりの悔しさにエリックの大きなアークエナジーですら気が付かなかったのだ。
エリックはそっとカールの方に近づき、そっと肩に手を置いた。

「あ、兄貴…。俺、必死に頑張ったけど、どうしても出来損ないで、兄貴を越えられなくて、それで、それで!」
「いいんだよ。お前は俺の大事な弟ってだけで。そんなに頑張らなくても十分俺は幸せだよ。」
「……。」
「お前は凄いよ。スゴすぎる。お前に誇れる兄でいたいから、俺はずっとずっと努力してた。それがお前を攻めていたなんて、ごめんな。お前はとっくに俺なんかより凄いんだぞ。」

そのとき、カールは気が付いた。いつの間にか大好きだった兄を敵として見ていて越えてやると燃えていた。でもそんなのは大きな間違いだった。兄は1番好きな家族で、この世で最も頼もしい存在だ。小さい頃から大好きだった兄は、その頼れる兄貴像を実現するために隠れて努力していたのだ。

それに気付いてからエリックとカールは共に切磋琢磨していき、周りからは不屈の最高の兄弟として知られていった。

それは2人が王国軍に入ってからも変わらなかった。王国の名門一族から次期当主とその弟として入隊した彼らは周囲から一目置かれる存在だった。
それは決して心地よいものではなく、妬みや嫉妬のような負の感情が突き刺さるような目線を常に感じていた。

だが2人はそれを跳ね除けるようにのし上がっていった。特に2人が合同でする任務はどんなものでも必ず成功させた。
そしてカールは中将になり、エリックは大将になり2人は若くして大きな称号を得た。2人はたくさんの人間から認められ、エリックは名門ヴィクマン家の当主となった。
次第に周りも彼らを認めていき、仲間も増えていった。エリックは特にマリアと親しく、付き合っていたことを知っていたのはカールだけだった。

そんな幸せな日々は突然終わりを告げた。

数年前のイグニス帝国が突如攻めてきた。疫病の影響で混乱しているかに思えたイグニス帝国は、攻めてこないと油断したサファイアシュラン王国の隙を突き攻めたのだ。そのため主戦力は他の任務出て払っていた。
だがエリックとカールは帝国軍と応戦し、戦争は優勢に見えた。しかしそこに突然王家の末裔であるルドラ・クシャトリアが疫病で亡くなった貧民街の住民の死体を操り従えて現れた。その影響で王国軍の総勢1万弱に対し、帝国軍は6万と圧倒していた。

エリックは弟を含めた1万弱の兵とその家族のために自分を犠牲にすることを選んだ。もちろん弟には何も言わずに。

だが、賢いカールはそれを察して数万の敵を前に兄が闘うのを阻止しようとする。
エリックは静かにカールの手に自分のドッグタグを握らせ、弟との間に氷で大きな壁を作った。まるであの時のように。
そこに幼い時から2人を慕っている同じく名門一族マクレガー家の当主マックス・マクレガーが全力で止めた。

エリックは死に際に最期の力を振り絞ってアークを使い切った。そのせいで彼は息絶えてしまったが、見事に6万の軍勢を1人で攻略した。

その後王国では彼を英雄として称え、子供たちの憧れとなり歴史の教科書にも大きく載せられた。人々は彼の死を嘆き、そして大いなる感謝をしてエリック・ヴィクマンを称えた。

しかし弟のカールだけはそれをできなかった。あの夜誓ったはずの兄弟の誓いが、いくら国のためとはいえ、なぜ破ったのか。裏切られたと思う反面、かけがえのない存在を失った喪失感に苛まれた。

エリックの葬儀は大々的に行われ、救われた兵とその家族も出席した。だが弟であるカールだけは出席せず、独りでにエリックの形見のドッグタグを握りしめていた。

以来その形見を自分のドッグタグと共に首に提げ、戦い続けた。やがてカールはエリックの後を追うように武功を上げていき、同じ大将と当主の座に着いた。


「くだらないことを思い出しちまったな。」
カールはまた、小さく呟いた。
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