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第4話「主人公ミケの特殊能力」
しおりを挟む男を惑わせる特殊なフェロモンを放っているのだとしたら、レイがミケを好きになっていてもおかしくない。もしこのままレイを殺さずにストーリーが進めば、レイも攻略対象に入ってしまうのだろうか。今この状況が異世界転移だったら現代に戻れる可能性も十分にあった。でも俺は異世界転生。命を絶ってこの世界に来てしまった。主人公目線でレイルートを展開することができても、そのプレイを俺ができなければ意味がない。
俺はレイを絶対に殺さない。けれど、ミケとくっ付けることも絶対にしない。誰かれ構わずフェロモンをまき散らしているミケなんかに、レイは絶対に渡さない。そう強く思いながらも分かったことが一つある。ミケは誰もが愛する主人公。なのに、ミケに対してどうしても人たらしと思ってしまう。
「ハチミツ、ごめん。俺はミケが人間として大嫌いだ」
こう吐いてしまう俺自身、紛れもなく悪なのだと確信した。
前世では学生の頃喧嘩で親を困らせた。その後改心して大学に進んだはいいものの、就活が上手くいかずに諦めてニートに成り下がった。大学時代に貯蓄していたお金が底をついたら親のすねをかじらせてもらおうなんてことも思っていたクズ野郎だ。そんな俺が主人公のような正義の味方に転生できるわけがなかったんだ。
ハチミツは困った表情をしながら俺の顔を覗き込んだ。
「ソウル様は、ミケさんを殺めますか?」
「いや、ミケを殺したりなんてしたらそれこそこの世界は終わりそうな気がする。殴ることがあるかもしれないが、殺人犯になる気はない。そこまで落ちぶれたくはない」
「さつ……? 言葉の節々が理解し難い時があるのですが、ソウル様は誰も殺めない。それが分かってハチミツめは大変嬉しいでございます」
「うん。ミケのフェロモンが特殊能力の一つで仮に無自覚だとしても、それを制御していないのはミケの大きな過ちだ。逆に分かってフェロモンを放出しているのであれば、本当の悪はミケだと思う。色んなヤツの目を惹かせてしまうアイツは正義の味方を気取った悪党だよ」
「あく……ミケさんが、悪……? 悪者ですか?」
「分かってて制御していないんならっていうことだ」
どうにかレイに近づける方法をひたすら考える。ソウルになってしまった俺の特殊能力は三メートル以内の人物を一瞬で殺めることができてしまうこと。これを上手く利用すればレイと会えるかもしれない。
「ハチミツ分かった! 俺の特殊能力を利用しよう!」
「どうしましょうかねぇー」と悩むハチミツに今閃いたことを伝えてみる。
「……へ!? ソウル様の……能力を、ですか? 人を殺めるのです!?」
「ハチミツめ、嫌です! せっかくシャドウ国は良くなっていて、ソウル様の評価が天と地ほどひっくり返っているんです!」と否定するハチミツの肩に手を置き、落ち着けと宥める。
「違う。殺しはしないがこの能力の本来の使い道は、最大に思い通りにできることなのかも。いいから、ハチミツ黙ってついてきて!」
状況が理解できていないハチミツを抱え、城の入り口に近寄る。呑気に花を摘んでいるミケと目が合った。
くっそ、コイツ……近づいたら余計に分かる。すげぇフェロモンだ。視界がグラつく。動機が激しくなる。心なしか、ミケがキラキラして見えるような気がする。あんまり目を合わせてはいけないと思い、ミケの口を見ながら話すことにした。
ミケは俺を見るなり驚いてその場で尻もちをついてしまった。
「……来られるのは夜のはずでは?」
どうやらミケにはソウルが来る時間帯が分かっていたようだ。
今、ミケと俺の距離は三メートル以内。特殊能力を使えばいつでも殺すことができる。
「今のこの状況、俺はおまえをいつでも殺すことができる。だから殺されたくないならレイのところへ案内しろ!」
「な、なにをおっしゃってるんです? 僕は殺さないと言ってくださったじゃないですか!」
「…………は?」
ーー以前、ソウルがそう言ったのだろうか。 恐らく、そのときもこんな風に怖がっていたのだろうと想像できる。ミケの表情からしてみて怖気づいてしまって動こうとしない。
「以前お見受けした際、ハッキリと『次は王を殺る』と言っていたではないですか!」
「そのストーリーは見てないから分からない。安心しろ、俺はレイと和解をしにきた」
「わ……和解!?」
「仲良くなるということだ。悪いことをしようなんて思っていない。いいから俺の言うことを聞いてほしい」
ミケの口元に真剣な目を向けるも、当のミケからは「分かりました」という了承は得ない。ミケとは反対に、やっと状況が理解できたらしいハチミツが「そ、そういうことだったのですか!」と大声を出した。ハチミツは俺の腕から潜り抜け、ぴょんと踊るように地に足をつけた。そして、
「ミケ様、ご安心ください。ソウル様は誰一人として殺めません! このお言葉、ハチミツめの命に代えてでもお約束できます!」
俺と一緒にミケを説得してくれた。だが、ミケのフェロモンにあてられたのか「ハチミツめ、胸の高鳴りが……!」とその場に蹲ってしまった。やっぱりミケのフェロモンは厄介だ。だから今までレイの側近として傍にいることができたのだろうか。
こんなフェロモンをまき散らしたヤツの傍にいて、レイは大丈夫なんだろうか。
ミケは渋々だが頷いてくれたため、俺は再びハチミツを抱えミケの後をついていくことになった。
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