【完結】悪役に転生した俺、推しに愛を伝えたら(体を)溺愛されるようになりました。

神代シン

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第43話「ユーデル」

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 服を着るレイを見ながらふとした疑問が俺の頭をよぎる。


 ……あれ、レイさっき媚薬を飲んでないって言った? いや、でもまさか……

 俺も服を正しながらレイに、

「レイ、さっきの錠剤飲んでいなかったってどういうことだ? 一番最初にした時飲んでたろ?」

 そう尋ねるとレイは「貴様が変な物を口に押し込むから、貴様が紅茶を口に含んでいるときに咄嗟に吐き出した」と、飲んでいなかったということを伝えてきた。


 俺はずっと錠剤を飲んだからレイが勃ったと思っていた。けど、レイの言い分としては飲んでいないということだった。


「な、なんで? だって……俺がいくら責めても勃たなかったろ」

「それは……いや、なんでもない」


 俺が質問したことにはぐらかすレイ。なんかこの違和感前にも抱いた。そうだ、アクアニア国に行ったときに定員からも途中言葉を遮られたんだった。あの定員とレイは多分、俺の何かに気づいている。気になるけれど、しつこく聞いても教えてくれそうにもないので一旦忘れることにしようと気持ちを入れ替える。


 レイとずっと身体を重ねているから、勘違いした俺は変に思い上がるんだ。変にレイに期待してしまう。今もそうだ。レイとは一度身体を重ねることをやめた方がいい。今毎晩していることはレイのためにもならない。


「レイ、明日から身体を重ねるとか当分やめよう」


 そう宣言するとレイの顔が一気に曇った。


「……は?」


 声のトーンも一段と下がり、イライラしているのが凄く伝わってくる。大好きなレイを怒らせたくないけど、でも、レイを幸せな道に導くという本来の目的を忘れてはいけない。


「俺思ったんだけど、ミケを自由にしたんだからレイの命が危険に晒されることもないだろ! じゃあな!!」

「おい、まて、ソウル」


 レイにこんな態度を取ることは初めてだった。


 レイと一緒にいると、抱かれれば抱かれるほど、どんどん自分が貪欲になっていくのが分かったから、こんなんじゃレイが行きつく先の幸せを喜べないと思った。例えそれが俺の望む幸せの形でなくても、それでも俺はレイが大好きだ。俺に本来持つ気持ちはこのくらいがちょうどよかった。


 半ば強引にレイの部屋を出て、長い廊下をひたすら歩く。レイの部屋を出てしまえば俺の部屋などない。今日はどこかしらの空き部屋で雑魚寝でもしようと、一室を開けた時、そこはミケの部屋となっていたようでぐーぐーと吐息を立てて眠っていた。そんなミケに襲い掛かろうとしているヤツが一人、身長が高くて優しそうな顔をしている緑髪のユーデルだった。


 俺に気づいたユーデルは、慌ててミケの寝床から退いた。『誰にも言わないでほしい』と言うような目で俺に訴えかけてくる。……コイツは見た時から気が弱そうだったことも踏まえ、ユーデルの元へ近づき腕を引っ張って立たせる。


「ソ、ソウルさん、なにを……私を殺す気ですか?」

「そうだな、勝手にミケに手出して。許されるわけないよな」

「も、申し訳ございません。我慢ができなくて……」

「アンタが俺の味方になれば黙っといてやってもいいが?」


 俺にはこの城で生き抜く、レイとは別の圧倒的な見方が必要だった。
 ここでユーデルを味方につけたいが、ユーデルは何か言いたそうな顔をして俺を見ている。


「……ミケさんから聞きましたよ。今まではミケさんに欲情してしまった者は王の元へ報告されておりましたが、もう王からの縛りは何もないのでしょう?」


 ミケのヤツもうベラベラしゃべりやがって。
 ーーそんなに不特定多数と身体の関係を持ちたいのかよ。ミケはレイが好きなんじゃないのかよ。それともレイが自分を抱かないから自暴自棄にでもなっているんだろうか。


「……そうだな、レイはもうミケに群がる奴らは興味ねぇみたいだな」

「私はやっとこの想いをミケさんにぶつけることができるのです。ソウルさんには頭が上がりません」

「だからって、寝込みを襲うのはどうなんだよ」

「……っ、あなたにはこのミケさんから放たれるフェロモンが分からないのですか!? だとしたら、ソウルさんの方が人として終わってます!」


 涙ながらに必死に訴えてくるユーデル。こんなところにいるから脳がバグルんだろうが。「とりあえずこの部屋から出るぞ」と、ユーデルを部屋から連れ出す。ミケの部屋から一歩も動こうとしないユーデルは、「わ、私がこの部屋から出ると……誰か違う者がミケさんを夜這いしに来ます」情けない声を出しミケへの想いを訴えた。


「げ、現に、レイ様がミケさんに飽きてしまいそういうことになったのかとも思っております。だとしたらミケさんが可哀想ではありませんか! ミケさんを独り占めするレイ様が以前から憎かったんです!」

「……はあ? 憎いって……おまえ、自分の立場分かってんのか?」

「分かってます! ソウルさんがここの城へやってきて、レイ様の命を確実に奪われるときがきたのかと心待ちにしていたのに、殺さないとは何ですか!? やはり金ですか!?」


 一番穏やかそうに見えて話が通じそうだと思っていたのに、コイツはさっきからいったい何を言ってるんだ? 分かることはただ一つ。ユーデルはレイが死ぬことを望んでいる。


「おい、俺が食事のときに言ったことを忘れてんのか? 『ここにいる者の中にレイを殺そうとか考えているヤツがいたら、そのときはそいつを瞬時に俺が殺す』って」


 ユーデルに顔を近づけると、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。そして、


「…………忘れていません」

 とても小さな声でそう呟いた。

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