海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

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第一章 幼少期

第四矢 葬儀

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今川氏親を乗せた輿〔こし〕が増善寺という寺に向かっていた。その輿の近くを俺と承菊は歩いていた。後ろには大量の人々が続いている。

紫陽花が咲き乱れる季節、俺の父親である今川家当主・今川氏親が亡くなった。
俺たちはそれによる葬儀に参列しているのだ。
また、後方にはたくさんのお坊さんや今川家の家臣と見られる人々が参列している。

今川氏親の遺骸が乗っている輿の近くには、氏親に親しいものたち…つまり今川一族が配置されている。
俺の周囲を見渡すと、病弱そうな少年となぜかふんぞり返っている少年、そしてキリッとした目をしている女がいた。

「あの人たちは?」

俺が承菊に小さな声で聞くと、記憶喪失になっていると勘違いをしている承菊は俺にそれぞれ小声で紹介してくれた。

「右から長男の氏輝様、三男の天陽丸様。そして、あの一番輿の近くにおられるお方はおぬしの母君であられる寿桂尼様だ。」

すると、こちらの視線に気づいたのか氏輝がニコッと元気がなさそうに笑いかけた。

輿は無事に増善寺に到着して、葬儀の準備を僧侶たちがする。
その間、天陽丸は大して悲しみもせず、あまり父親の死に興味がなさそうにしていた。一方で、氏輝や寿桂尼は悲しそうに輿を見ていた。
しばらくして準備が整い氏親の葬儀が始まった。

人々のすすり泣く声が聞こえる。

「父上ぇ…」

氏輝はグスングスンと涙を流している。普段は泣かない承菊まで目には涙が浮かんでいる。涙を流していないのは、経を唱える僧侶と一度も父親と面識のない俺、そして寿桂尼と天陽丸ぐらいだ。
俺に焼香の順番が回ってきた。

(俺の葬式もこんな感じだったのかな。)

俺は焼香をしながら元の時代の家族を思い出し、なんとなく寂しさを覚えた。
葬儀が終わると、ぞくぞくと家臣たちは新当主・今川氏輝、いや、正確には氏輝を補佐する寿桂尼に挨拶をしようと集まってきた。

「じゃ、帰りましょか。」

俺はそそくさとその場を後にしようとすると、突然ドンッと背中を押され危うく転びそうになった。

「芳菊丸は相変わらずどんくさいのう~」

後ろを振り返ると、天陽丸がニヤニヤと俺を見下すような目をして笑っていた。

「今わざと押したよね?」
「フンッだからなんじゃ。押される方が悪いのじゃ!」
「やっぱり俺のこと嫌ってる?」
「ああ、そうじゃ。今さら気づいたのか。」

天陽丸は隠しもせず、また悪びれもせず言い放った。
そんな天陽丸の手を俺はガシッと掴んだ。

「なっ…」
「俺、家族とは仲良くしたいからさ、今までのこと水に流して仲良くしましょうよ。」
「だ、誰がお前となんか!」

天陽丸は手を振り払うと、タタタと去っていった。承菊は堪えていた笑いを吹き出した。

「ははは、見事にあのねずみを撃退したな。」
「本当に仲良くしたいんだけどなー」

帰り道、俺はふと気になったことを承菊に聞いてみた。

「てかさー、何で次男がいなかったの?」
「それはおそらく、青擁丸様はまだ幼いからだろうな。」
「え、でも俺たち三男四男は出席してるけど。」
「それはおぬしらが仏門に預けられ、出家して公的身分を得ておるからだ。青擁丸様は出家をなさってないからまだ公的身分がないのだ。」
「ふーん。」

この年、今川家は新たなる当主が誕生した。
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