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第五章 今川と織田
第五十一矢 虹
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雨はさらに激しさを増す。それに比例するかのように戦も激しさを増していた。
織田軍が攻勢に出たと思えば、今川軍が攻勢に出る。
そんな拮抗状態が続き、両者ともに一進一退の攻防を繰り広げていた。
織田信秀は最前線で槍を振るいながら左側を見やる。
信秀はがむしゃらに強襲を仕掛けたわけではなく、ある軍に狙いを定めていた。
(さすがは今川、そう簡単には打ち崩せぬか。それに比べ…)
「三河武士共が…蹴散らしてくれるわ!!」
信秀が目をつけたのは松平軍であった。
一方、その松平軍はというと、
「三河武士の維持、今こそ見せる時ぞ!」
大将の松平広忠が大声を上げると松平兵は途端に勢いづき、松平軍は死守の構えを見せた。
しかし、それも長くは持たなかった。
「くっ…これまでか…!」
「広忠様、お下がりください!」
広忠の目先には信秀を先頭に織田兵が迫っていた。これ以上、織田軍と戦えば広忠は命を落としかねないだろう。
最終的に今川・松平軍が勝ったとしても、その時点で広忠が生きていなくては意味がない。
「……撤退する!」
苦渋の決断を下して、松平軍は撤退を開始する。これにより、今まで織田軍の猛攻を耐えに耐えていた松平軍がついに潰走を始めたのだ。
(もう少し踏ん張ってくれると思ったのだが…)
少々想定外だったが終わったものは仕方ないと崇孚は思い直して、
「松平の分を埋め合わせよう。」
と後方にいた今川兵らを松平軍がいた所に回した。
その間に起こる一瞬のゴタゴタを信秀は見逃さない。
今川軍に疲れの色があると踏んだ信秀はここで一気に勝負に出た。
「信光、信実、回り込め!」
信秀は弟の織田信光と織田信実に指示を出し、それぞれ三百ほどの兵を率いさせて今川軍の両側を挟撃させようとした。また、自身も今川軍への攻勢を強める。
信実は左から、信光は右からと視界が悪い中をそれぞれ自軍の勝利を信じ今川軍の両側の茂みの中を突き進む。
すると、突如目の前に今川兵が現れた。雨と茂みで全く気づかなかったが、それは今川兵も同じのようだった。
織田両隊は目の前に現れた敵兵を殲滅しようとするが、逆に出会い頭に二、三人ほど一撃で倒される。
そう、崇孚は織田軍の動きを見越してこれに対抗して兵を送り出したのだ。
信実と対峙したのは久野宗能。
そして信光と対峙したのは岡部元信。あの岡部親綱の息子であり、今川軍の次世代を担う若手武将だ。とはいえ、両者ともにまだ元服したての若僧。血の気が多く、自らの武功を上げようとそれぞれ率先して織田両隊へと突撃していった。
崇孚は今回、生きのいい若手を登用した。
のちに今川軍を支える人材の育成をしたかった。というのも本心だが、何よりも若手の『若さ』を有効に使いたかった。
織田軍は速く、そして気迫が溢れている。よって恐れを知らず果敢に挑む者。そういった者こそが織田軍を倒しうる人材だと崇孚は考えたのであった。
その点で二人は若手武将の中で最上の武将と言える。ただ、一方で崇孚は不安要素もあるのを理解していた。
(その分、若手は戦の経験が浅い。それが吉と出るか凶と出るか…)
しかし、今さら後悔しても遅い。
「下地はできた。後はおぬしらの腕次第じゃ。」
崇孚は二人の若き武将に勝利を託した。
「まだまだぁ!」
その二人の内の一人、元信は父譲りの武力と荒々しい性格で次々に織田兵を葬っていく。
この大雨で茂みがうっそうとしているのにも関わらず、織田兵を一切寄せつけない。
経験や策、それらを一蹴するような力が元信にはあったのだ。
信光は思わず歯がゆさを全面に出していた。
(今川を叩く絶好の機をこのような小僧ごときに阻まれてたまるか!)
「突撃じゃ!」
信光の号令とほぼ同時に織田兵が元信らに突撃してきた。
「そうこなくては!」
元信は武者震いをして、襲い来る織田兵を今川兵と共にあっという間に斬り倒していく。
(こんな、小僧ごときに…)
別に信光が侮っていたわけではない。ただ、元信が信光以上に強かった。たったそれだけのことであった。
信実もまた同様に苦戦していた。
兵の損失が甚大となった織田両隊はやむを得ず全滅する前に撤退した。
逆に織田両隊を退けた宗能と元信の隊はその勢いのままに、織田軍の両側を挟撃する。
それに乗じて、今川軍が攻勢に出た。
(伏兵がおったとは…完全に出し抜かれたわ…!)
信秀は気づけなかった自分への怒りと悔しさで顔が歪んでいた。
ここぞと言うときに攻め切れなかった織田軍は瞬く間に総崩れとなり、撤退を余儀なくされたのだった。
しかし、戦はまだ終わらない。
「信秀の首は取れたか?」
「いえ、惜しくも信秀は取り逃がしてしまい申した。」
「そうか…」
崇孚は勝利したのにも関わらず、信秀の首を取ることができず悔しがっていた。
(今後、今川の害となり得る輩を討ち取りたかったが…)
雨は先ほどの激しさが嘘のように降り止み、空には虹がかかっていた。
今川軍大勝の一報は田原城を包囲する俺たちにも伝わった。
「マジで?今川軍勝ったの?」
俺が聞き返すと、吉田氏好が嬉しそうにうなずく。
「確かにございます…!」
「おぉーやったね、俺たちも続きたいな。」
俺はひとまず自軍の勝利を喜んで、未だ落城しない田原城を見やった。
織田軍が攻勢に出たと思えば、今川軍が攻勢に出る。
そんな拮抗状態が続き、両者ともに一進一退の攻防を繰り広げていた。
織田信秀は最前線で槍を振るいながら左側を見やる。
信秀はがむしゃらに強襲を仕掛けたわけではなく、ある軍に狙いを定めていた。
(さすがは今川、そう簡単には打ち崩せぬか。それに比べ…)
「三河武士共が…蹴散らしてくれるわ!!」
信秀が目をつけたのは松平軍であった。
一方、その松平軍はというと、
「三河武士の維持、今こそ見せる時ぞ!」
大将の松平広忠が大声を上げると松平兵は途端に勢いづき、松平軍は死守の構えを見せた。
しかし、それも長くは持たなかった。
「くっ…これまでか…!」
「広忠様、お下がりください!」
広忠の目先には信秀を先頭に織田兵が迫っていた。これ以上、織田軍と戦えば広忠は命を落としかねないだろう。
最終的に今川・松平軍が勝ったとしても、その時点で広忠が生きていなくては意味がない。
「……撤退する!」
苦渋の決断を下して、松平軍は撤退を開始する。これにより、今まで織田軍の猛攻を耐えに耐えていた松平軍がついに潰走を始めたのだ。
(もう少し踏ん張ってくれると思ったのだが…)
少々想定外だったが終わったものは仕方ないと崇孚は思い直して、
「松平の分を埋め合わせよう。」
と後方にいた今川兵らを松平軍がいた所に回した。
その間に起こる一瞬のゴタゴタを信秀は見逃さない。
今川軍に疲れの色があると踏んだ信秀はここで一気に勝負に出た。
「信光、信実、回り込め!」
信秀は弟の織田信光と織田信実に指示を出し、それぞれ三百ほどの兵を率いさせて今川軍の両側を挟撃させようとした。また、自身も今川軍への攻勢を強める。
信実は左から、信光は右からと視界が悪い中をそれぞれ自軍の勝利を信じ今川軍の両側の茂みの中を突き進む。
すると、突如目の前に今川兵が現れた。雨と茂みで全く気づかなかったが、それは今川兵も同じのようだった。
織田両隊は目の前に現れた敵兵を殲滅しようとするが、逆に出会い頭に二、三人ほど一撃で倒される。
そう、崇孚は織田軍の動きを見越してこれに対抗して兵を送り出したのだ。
信実と対峙したのは久野宗能。
そして信光と対峙したのは岡部元信。あの岡部親綱の息子であり、今川軍の次世代を担う若手武将だ。とはいえ、両者ともにまだ元服したての若僧。血の気が多く、自らの武功を上げようとそれぞれ率先して織田両隊へと突撃していった。
崇孚は今回、生きのいい若手を登用した。
のちに今川軍を支える人材の育成をしたかった。というのも本心だが、何よりも若手の『若さ』を有効に使いたかった。
織田軍は速く、そして気迫が溢れている。よって恐れを知らず果敢に挑む者。そういった者こそが織田軍を倒しうる人材だと崇孚は考えたのであった。
その点で二人は若手武将の中で最上の武将と言える。ただ、一方で崇孚は不安要素もあるのを理解していた。
(その分、若手は戦の経験が浅い。それが吉と出るか凶と出るか…)
しかし、今さら後悔しても遅い。
「下地はできた。後はおぬしらの腕次第じゃ。」
崇孚は二人の若き武将に勝利を託した。
「まだまだぁ!」
その二人の内の一人、元信は父譲りの武力と荒々しい性格で次々に織田兵を葬っていく。
この大雨で茂みがうっそうとしているのにも関わらず、織田兵を一切寄せつけない。
経験や策、それらを一蹴するような力が元信にはあったのだ。
信光は思わず歯がゆさを全面に出していた。
(今川を叩く絶好の機をこのような小僧ごときに阻まれてたまるか!)
「突撃じゃ!」
信光の号令とほぼ同時に織田兵が元信らに突撃してきた。
「そうこなくては!」
元信は武者震いをして、襲い来る織田兵を今川兵と共にあっという間に斬り倒していく。
(こんな、小僧ごときに…)
別に信光が侮っていたわけではない。ただ、元信が信光以上に強かった。たったそれだけのことであった。
信実もまた同様に苦戦していた。
兵の損失が甚大となった織田両隊はやむを得ず全滅する前に撤退した。
逆に織田両隊を退けた宗能と元信の隊はその勢いのままに、織田軍の両側を挟撃する。
それに乗じて、今川軍が攻勢に出た。
(伏兵がおったとは…完全に出し抜かれたわ…!)
信秀は気づけなかった自分への怒りと悔しさで顔が歪んでいた。
ここぞと言うときに攻め切れなかった織田軍は瞬く間に総崩れとなり、撤退を余儀なくされたのだった。
しかし、戦はまだ終わらない。
「信秀の首は取れたか?」
「いえ、惜しくも信秀は取り逃がしてしまい申した。」
「そうか…」
崇孚は勝利したのにも関わらず、信秀の首を取ることができず悔しがっていた。
(今後、今川の害となり得る輩を討ち取りたかったが…)
雨は先ほどの激しさが嘘のように降り止み、空には虹がかかっていた。
今川軍大勝の一報は田原城を包囲する俺たちにも伝わった。
「マジで?今川軍勝ったの?」
俺が聞き返すと、吉田氏好が嬉しそうにうなずく。
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