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第七章 栄耀栄華
第八十矢 花見
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それは春も中頃に差しかかった頃、俺は自分の部屋でゴロゴロとくつろいでいた。
部屋内には春の日差しが差し込んでいた。
「花見日和だね~」
すると、花見という聞き慣れない言葉に俺のそばにいた多恵が首をかしげた。
「殿、花見とは何にございましょう?」
「えっ、花見知らないの?」
俺は驚き、思わずガバッと起き上がる。
俺の問いに多恵がうなずいた。
「はい、知りませぬ。」
それを聞いた俺は多恵に簡単に花見の説明をした。
「花見っていうのは、桜を見ながら料理食べたりお酒を飲んだりして楽しむことだよ。」
「それはさぞかし楽しゅうございましょうなあ。」
多恵は想像を張り巡らせて、笑みを浮かべた。
「あ~何か久しぶりに花見したくなってきた。でも近場で花見ができる場所なんて…」
俺はそう言いかけて、ピタリと動きを止めた。
「どうしたのですか?」
「…そうだ、庭で花見をすればいいじゃん!」
というわけで、俺は急遽駿府館の庭園で花見をすることにしたのだ。
多恵や氏真など家族はもちろんのこと、ちょうど駿府館にいた崇孚や朝比奈泰能などの重臣も花見に呼んだ。
俺たちはさっそく、庭園の桜が咲いている場所まで向かった。
庭園では桜の他にも陽気な花が咲いており、春が訪れていた。
そして、俺たちは桜の木の下にたどり着いた。
「おお~…」
桜の美しさに、俺たちは感嘆の声を漏らした。
おそらく、駿府館をずっと見守ってきたであろう庭園の桜は、歴史を感じさせるような濃い桃色に彩られていた。
「じゃ、ここらへんで食事しよっか。」
俺は小姓たちに持たせていた藁で作られた大きな敷物を桜の下に広げさせると、その敷物の上であらかじめ作らせておいた弁当を食べ始めた。
蓮嶺姫や福姫は弁当をおいしそうに食べ、寿桂尼は昔では信じられないほど穏やかな表情で孫たちを暖かく見守る。
その傍らでは、武田信虎が溺愛する氏真と酒を酌み交わしている。
それぞれが花見を楽しむ中、泰能が純粋に思った疑問を俺に聞いてきた。
「おそれながら殿、食事は庭でしなくともよいのでは…?」
「まあね。でも桜の下で食事をするのもまた花見の醍醐味かなと思ってさ。」
「なるほど、花見とやらは奥が深うございますなあ…」
泰能はしみじみと俺の言葉を噛みしめていた。
一方、多恵は花びらがヒラヒラと散る桜を見上げて、駿府館に来た頃を思い出していた。
多恵はつぶやく。
「そういえば、あの頃も桜が美しゅう咲いておりました。」
「あの頃?」
俺が聞くと、多恵は俺の方を向いてうなずいた。
「はい、まだ私が嫁いでまもない頃、初めて駿府の町に連れ出してくださった時のことを思い出しておりました。」
「あぁ、そんなこともあったね。俺も若かったなー、勢いのままに動いてたわ。」
「でもあの時、殿が連れ出してくださったおかげで、私は駿府と…殿のことが真に好きになりました。」
「何か、正面からそう言われると恥ずかしい。」
俺と多恵は互いに照れあった後、俺はため息を吐き桜を見上げた。
「…本当、いろいろなことがあったよね。」
「はい。」
多恵は駿府館の日々を思い出す。
最初は不安しかなかった駿府での生活。
しかし今や、ここは多恵にとっての愛すべき居場所となっていた。
愛しい夫に、愛しい子供たち。
(いつまでも、この心地よい時が永遠に続けばよいのに。)
多恵は目を閉じて、思いを心の中に秘める。
桜の花びらが舞い散っていた。
その中の一枚の花びらがヒラヒラと多恵の手に舞い落ちる。
多恵が倒れたのは、それから数日後のことだった。
部屋内には春の日差しが差し込んでいた。
「花見日和だね~」
すると、花見という聞き慣れない言葉に俺のそばにいた多恵が首をかしげた。
「殿、花見とは何にございましょう?」
「えっ、花見知らないの?」
俺は驚き、思わずガバッと起き上がる。
俺の問いに多恵がうなずいた。
「はい、知りませぬ。」
それを聞いた俺は多恵に簡単に花見の説明をした。
「花見っていうのは、桜を見ながら料理食べたりお酒を飲んだりして楽しむことだよ。」
「それはさぞかし楽しゅうございましょうなあ。」
多恵は想像を張り巡らせて、笑みを浮かべた。
「あ~何か久しぶりに花見したくなってきた。でも近場で花見ができる場所なんて…」
俺はそう言いかけて、ピタリと動きを止めた。
「どうしたのですか?」
「…そうだ、庭で花見をすればいいじゃん!」
というわけで、俺は急遽駿府館の庭園で花見をすることにしたのだ。
多恵や氏真など家族はもちろんのこと、ちょうど駿府館にいた崇孚や朝比奈泰能などの重臣も花見に呼んだ。
俺たちはさっそく、庭園の桜が咲いている場所まで向かった。
庭園では桜の他にも陽気な花が咲いており、春が訪れていた。
そして、俺たちは桜の木の下にたどり着いた。
「おお~…」
桜の美しさに、俺たちは感嘆の声を漏らした。
おそらく、駿府館をずっと見守ってきたであろう庭園の桜は、歴史を感じさせるような濃い桃色に彩られていた。
「じゃ、ここらへんで食事しよっか。」
俺は小姓たちに持たせていた藁で作られた大きな敷物を桜の下に広げさせると、その敷物の上であらかじめ作らせておいた弁当を食べ始めた。
蓮嶺姫や福姫は弁当をおいしそうに食べ、寿桂尼は昔では信じられないほど穏やかな表情で孫たちを暖かく見守る。
その傍らでは、武田信虎が溺愛する氏真と酒を酌み交わしている。
それぞれが花見を楽しむ中、泰能が純粋に思った疑問を俺に聞いてきた。
「おそれながら殿、食事は庭でしなくともよいのでは…?」
「まあね。でも桜の下で食事をするのもまた花見の醍醐味かなと思ってさ。」
「なるほど、花見とやらは奥が深うございますなあ…」
泰能はしみじみと俺の言葉を噛みしめていた。
一方、多恵は花びらがヒラヒラと散る桜を見上げて、駿府館に来た頃を思い出していた。
多恵はつぶやく。
「そういえば、あの頃も桜が美しゅう咲いておりました。」
「あの頃?」
俺が聞くと、多恵は俺の方を向いてうなずいた。
「はい、まだ私が嫁いでまもない頃、初めて駿府の町に連れ出してくださった時のことを思い出しておりました。」
「あぁ、そんなこともあったね。俺も若かったなー、勢いのままに動いてたわ。」
「でもあの時、殿が連れ出してくださったおかげで、私は駿府と…殿のことが真に好きになりました。」
「何か、正面からそう言われると恥ずかしい。」
俺と多恵は互いに照れあった後、俺はため息を吐き桜を見上げた。
「…本当、いろいろなことがあったよね。」
「はい。」
多恵は駿府館の日々を思い出す。
最初は不安しかなかった駿府での生活。
しかし今や、ここは多恵にとっての愛すべき居場所となっていた。
愛しい夫に、愛しい子供たち。
(いつまでも、この心地よい時が永遠に続けばよいのに。)
多恵は目を閉じて、思いを心の中に秘める。
桜の花びらが舞い散っていた。
その中の一枚の花びらがヒラヒラと多恵の手に舞い落ちる。
多恵が倒れたのは、それから数日後のことだった。
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