海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿

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第八章 次世代へ

第九十八矢 実誓の寺

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時はさかのぼり、今川軍と吉良軍が交戦する少し前。
俺こと今川義元が率いる一向一揆の鎮圧軍は、順調に実誓の寺へと進軍していた。
しかし、この状況に俺は強烈な違和感を抱いていた。
遠江国に入ってしばらく経つが、一向一揆を全く見かけない。
そう、遠江国は異様なまでに平穏だったのである。

(不気味だ…)
 
とはいえ、もう実誓の寺はすぐそこ。
今さら引き返すわけにはいかない。
俺は一層警戒を強めながら、前へと進んでいく。
そうしている内に、ついに実誓の寺が見えてきた。
そこで違和感の正体を目の当たりにする。 

寺を中心として形成された町。
町を囲む二重の土塁や堀。
そして、おそらくは町に立て籠もっているであろう一向一揆の主力勢力。
その全てが明らかに寺の規模を越えていた。

「寺っていうか、小さな城じゃん。」
  
俺は思わず声を上げ、驚嘆する。
一向一揆側も無抵抗ではないとは分かっていたが、まさかこんな寺が築かれているとは思わなかったのだ。

「こりゃ攻めるのに苦労しそうだ。」

俺がそう呆れ気味に頭を搔くと、そばにいた犬丸が提案する。

「では兵糧攻めに致しまするか?」
「いや、一気に攻め落とす。」

おそらく、一向一揆側も兵糧攻めを見越して大量の兵糧を蓄えているはずだ。
例えそうでなくとも、一向一揆の士気は狂気的なほど高い。
降伏することはまずもってないだろう。
ならば早急に鎮圧し、国の混乱を治めた方が良いと考えたである。
俺は一度深呼吸をして、号令をかけた。

「よし、じゃあ寺を制圧しに行こう!」
「おおっ!!」

対する実誓の寺にいる一向一揆も、今川軍が町に向かってくるのに気づいた。
僧兵の一人が大声で呼びかける。

「今川共が来たぞ!」

すると今川軍に対抗するために、かねてより集めてられていた民衆や僧兵らが続々と姿を現した。
手に弓や槍などの武器を持ち、一向一揆の軍勢は内側の土塁へと配置につく。
かくして、今川軍と一向一揆の攻防戦が始まった。
今川軍は、まず最初に外側の土塁を攻める。
何故か一向一揆の妨害はなく、簡単に外側の土塁へ到達した。
そこで今川兵の視界に映ったのは、弓を構える一向一揆であった。 

(しまった…!) 

内側の土塁に比べ、外側の土塁は高さが低い。
これでは弓の格好の的となってしまう。
今川兵は慌てて退こうと背を向けたが時遅し。
次の瞬間、大量の矢が一斉に外側の土塁へ降り注いだ。

「ギャッ!」

悲鳴を上げながら、土塁の上にいた今川兵が一瞬にして動かぬ屍となっていく。
その屍となった味方を踏みつけ、今川軍は内側の土塁へと向かう。その間にも矢が降り注ぎ、倒れる兵が続出した。
それでも、足を止めずに堀を一気に駆け上がる。
ついに今川軍は内側の土塁にたどり着いた。

「仏に仇なす愚か者どもが!」

土塁にいた一向一揆が怒り狂ったように弓や槍を振り回す。
だが、今まで武器を扱った経験がない民衆らが練兵された兵に敵うはずがない。
今川兵は問答無用で民衆らを斬る。
それでも一向一揆は狂気的な士気の高さを見せ、必死の抵抗を続けた。

「我らは負けぬ!我らは負けぬ!!」

槍で貫かれようが、首を斬りつけられようが、一向一揆は最期まで果敢に戦う。 
果てには、今川兵を道連れに土塁から転げ落ちる者までいた。
しかしどれだけ倒しても、今川兵が途切れなくなだれ込んでくる。
それはまるで大きな波のようであった。
今川兵の波が押し寄せるごとに、一向一揆の兵数が減っていく。

(真に我らは勝てるのか…?)

今まで勝利を信じていとわなかった民衆らの心が揺れ始める。
心の迷いは周囲に伝染していき、士気の高さに少しだけ陰りが見えた。
その士気の低迷が今川軍をさらに後押しすることとなった。
一向一揆が必死の抵抗を見せるが及ばず。
今川軍はまもなくして、二重の土塁と堀を突破した。
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