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第1幕
第3話 生贄ではなく花嫁? 1-1
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(ええっと、これってもしかして生贄ですら私は及第点じゃない、ってこと?)
「確かに。こんなに弱って……。ハッ、オリビア、もしかしてここに来る前にどこか怪我をしているのですか!?」
「あ、はい。ただ命に関わるほどの──」
「なんてことだ。アドラ!」
「御身の前に」
「!?」
いつの間にか燕尾服に身を包んだ執事風の竜魔人が傅いていた。
みなねじれた角が二本あり、腰のあたりからトカゲに似た鱗のある尻尾が見える。羽根は邪魔なのか見当たらない。外見は三十代だろうか。セドリック様とはまた違った美丈夫だった。
「宮廷治癒士を応接室に呼ぶように。それと侍女長も」
「ハッ!」
「みな宴はまた日を改めて行うがよいな」
「ハハッ!!」
みな恭しく首を下げた。
「怪我が早く治ったらお祝いをしましょう!」「ようこそ我が国へ」「歓迎いたします!」「セドリック様おめでとうございます!」
非力で見窄らしい私に対しても気遣って温かい言葉や、笑顔を向けてくれる。その一つ一つがじんわりと胸に響く。
(これは夢? それともここが天国? だってフランが幼名だと名乗る竜魔王様がいるなんておかしいもの……)
「オリビア。本来であれば神殿で夫婦の契りを交わすのが条例ですが、先に手当をしましょう。痛くはないですか?」
「は、はい」
「貴女は昔から無理をしすぎるのですから、これからは私を頼ってくださいね」
「は、はい」
「絶対ですよ。隠したら……たぶん、私が泣きます」
「(泣くんだ)え、えっと、わかりました……?」
ひとまずこのまま生贄として殺されることはなさそうだ。安堵したような、いっそさっさと死んでしまった方がいいのでは──と思ってしまう。
ふと熱い視線に気づき視線を向けた瞬間、セドリック様と目が合った。深い紺青の瞳に思わず吸い込まれそうになる。
セドリック様は顔が緩み、あまりにも蕩けた笑みにドキリとしてしまう。そのせいで「神殿」や「夫婦の契り」などの単語を聞き返すタイミングを失ってしまった。もう色々なことが起こり過ぎて許容範囲を超えてしまったというのもある。
一旦、状況を整理しよう。そう思っていたのだが、セドリック様に横抱き──つまりお姫様だっこされたまま、宮殿へと歩き出したため動揺してそれどころではなかった。
(え、これは。なんの思惑が? 私が逃亡しないため……?)
「オリビアは軽いですね。もう少しちゃんと食べないとだめですよ」
「えっと……あの……はい」
「ふふっ。昔は私のほうが抱っこや抱き上げられていたのですが、ようやく貴女を腕の中で抱き抱えられて嬉しいです」
(人違いなのでは……?)
生贄の連行なら兵士にさせればいい。
私の服装はお世辞にも綺麗とは言えないし、魔物の返り血も浴びている。
生贄になるまでは客人対応、来賓という扱いなのでは──と考えたが、それでも横抱きというのは距離感が近すぎる。何より先程から愛の告白めいた言葉がつらつら出てきているのは一体。
「今日のために部屋の充備は万端です。ドレスも色々用意したので、気に入ってもらえると嬉しいです」
(う……、曇りのない眼差し。本当に花嫁として迎えてくれたと勘違いしそう)
悶々と考えている間に奥の部屋へと案内された。
恐らく王族の居住区域だろう。
優美な扉を見た時から予感はあったが、調度品の質の良さとエレジア国王族の自室以上の広さにただただ驚く。
「今日からここがオリビアの部屋です」
「え。……あの、何かの間違いでは?」
どう考えも豪華すぎる。贅を凝らした空間に落ち着かず、拒絶反応がでそうになった。
清潔感もあり、芸術的な鏡や、カーテンの値段を考えただけでも卒倒してしまいそうだ。
「もしかして狭すぎましたか? それともオリビアの趣味じゃないとか」
「いえ、そんなことはありません! あのできればランクをもう少し落とすことは──」
「わかりました」
(すんなり快諾してくれた。……よかった。こんな豪華な部屋、汚したら弁償代とか考えて落ち着けないし……)
「オリビアの希望を聞いたうえで、新たに宮殿を建てましょう。申し訳ないですが、今しばらくお待ちいただけますか」
「!?」
「違うそうじゃない」と叫びたかったが、そんなこと言えるはずもなく──けれどここで否定をしなければ、確実に宮殿が急ピッチで建てられてしまう気がした。
「あ、あの……セドリック様」
「宮殿の設計図関係は後々話すとしましょう」
「そうではなく……」
壊れ物を扱うようにそっとソファに降ろしてくれた。たったそれだけのことなのに、優しくされたことが嬉しくて泣きそうだ。「違う、きっと裏がある」と自分の心を必死で押し殺す。
もう期待しないと決めたのだ。
フランがいない世界に居てもしょうがない。
だから死ぬためにここに来た。心が揺れ動くたびに裏切られる生き方は、もう嫌だ。
覚悟はできているのに、体の震えが──止まらない。
震えるな。お願い、止まって。
「確かに。こんなに弱って……。ハッ、オリビア、もしかしてここに来る前にどこか怪我をしているのですか!?」
「あ、はい。ただ命に関わるほどの──」
「なんてことだ。アドラ!」
「御身の前に」
「!?」
いつの間にか燕尾服に身を包んだ執事風の竜魔人が傅いていた。
みなねじれた角が二本あり、腰のあたりからトカゲに似た鱗のある尻尾が見える。羽根は邪魔なのか見当たらない。外見は三十代だろうか。セドリック様とはまた違った美丈夫だった。
「宮廷治癒士を応接室に呼ぶように。それと侍女長も」
「ハッ!」
「みな宴はまた日を改めて行うがよいな」
「ハハッ!!」
みな恭しく首を下げた。
「怪我が早く治ったらお祝いをしましょう!」「ようこそ我が国へ」「歓迎いたします!」「セドリック様おめでとうございます!」
非力で見窄らしい私に対しても気遣って温かい言葉や、笑顔を向けてくれる。その一つ一つがじんわりと胸に響く。
(これは夢? それともここが天国? だってフランが幼名だと名乗る竜魔王様がいるなんておかしいもの……)
「オリビア。本来であれば神殿で夫婦の契りを交わすのが条例ですが、先に手当をしましょう。痛くはないですか?」
「は、はい」
「貴女は昔から無理をしすぎるのですから、これからは私を頼ってくださいね」
「は、はい」
「絶対ですよ。隠したら……たぶん、私が泣きます」
「(泣くんだ)え、えっと、わかりました……?」
ひとまずこのまま生贄として殺されることはなさそうだ。安堵したような、いっそさっさと死んでしまった方がいいのでは──と思ってしまう。
ふと熱い視線に気づき視線を向けた瞬間、セドリック様と目が合った。深い紺青の瞳に思わず吸い込まれそうになる。
セドリック様は顔が緩み、あまりにも蕩けた笑みにドキリとしてしまう。そのせいで「神殿」や「夫婦の契り」などの単語を聞き返すタイミングを失ってしまった。もう色々なことが起こり過ぎて許容範囲を超えてしまったというのもある。
一旦、状況を整理しよう。そう思っていたのだが、セドリック様に横抱き──つまりお姫様だっこされたまま、宮殿へと歩き出したため動揺してそれどころではなかった。
(え、これは。なんの思惑が? 私が逃亡しないため……?)
「オリビアは軽いですね。もう少しちゃんと食べないとだめですよ」
「えっと……あの……はい」
「ふふっ。昔は私のほうが抱っこや抱き上げられていたのですが、ようやく貴女を腕の中で抱き抱えられて嬉しいです」
(人違いなのでは……?)
生贄の連行なら兵士にさせればいい。
私の服装はお世辞にも綺麗とは言えないし、魔物の返り血も浴びている。
生贄になるまでは客人対応、来賓という扱いなのでは──と考えたが、それでも横抱きというのは距離感が近すぎる。何より先程から愛の告白めいた言葉がつらつら出てきているのは一体。
「今日のために部屋の充備は万端です。ドレスも色々用意したので、気に入ってもらえると嬉しいです」
(う……、曇りのない眼差し。本当に花嫁として迎えてくれたと勘違いしそう)
悶々と考えている間に奥の部屋へと案内された。
恐らく王族の居住区域だろう。
優美な扉を見た時から予感はあったが、調度品の質の良さとエレジア国王族の自室以上の広さにただただ驚く。
「今日からここがオリビアの部屋です」
「え。……あの、何かの間違いでは?」
どう考えも豪華すぎる。贅を凝らした空間に落ち着かず、拒絶反応がでそうになった。
清潔感もあり、芸術的な鏡や、カーテンの値段を考えただけでも卒倒してしまいそうだ。
「もしかして狭すぎましたか? それともオリビアの趣味じゃないとか」
「いえ、そんなことはありません! あのできればランクをもう少し落とすことは──」
「わかりました」
(すんなり快諾してくれた。……よかった。こんな豪華な部屋、汚したら弁償代とか考えて落ち着けないし……)
「オリビアの希望を聞いたうえで、新たに宮殿を建てましょう。申し訳ないですが、今しばらくお待ちいただけますか」
「!?」
「違うそうじゃない」と叫びたかったが、そんなこと言えるはずもなく──けれどここで否定をしなければ、確実に宮殿が急ピッチで建てられてしまう気がした。
「あ、あの……セドリック様」
「宮殿の設計図関係は後々話すとしましょう」
「そうではなく……」
壊れ物を扱うようにそっとソファに降ろしてくれた。たったそれだけのことなのに、優しくされたことが嬉しくて泣きそうだ。「違う、きっと裏がある」と自分の心を必死で押し殺す。
もう期待しないと決めたのだ。
フランがいない世界に居てもしょうがない。
だから死ぬためにここに来た。心が揺れ動くたびに裏切られる生き方は、もう嫌だ。
覚悟はできているのに、体の震えが──止まらない。
震えるな。お願い、止まって。
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