17 / 56
第1幕
第8話 王弟セドリックの視点1-2
しおりを挟むなんとも酷い告白だった。贈り物はおろか花束の一つもなく、彼女にどれだけ惚れているかとかいろいろな段階をすっ飛ばして告げたのだから。オリビアは驚いていたが、嬉しそうに頬を赤らめて「ありがとう。私もフランが大好きよ」と承諾を得た──と当時の自分はそう思っていた。
もっともオリビアは、こんな子供に告白されて本気ではなかったのだろう。彼女は優しいから、子ども特有の気の迷い程度に受け取っていたはずだ。幼い私は番になることを受け入れてくれたと思って無邪気に喜んだ。
それから怪我が完治するまで私とオリビア、そして数人の他種族となんやかんやあったけれど、楽しく暮らしていた。私とは別にこの別邸に住み着いていたのは悪魔族のダグラスと、天使族のスカーレットだった。歳は私とニ、三歳しか違わず、二人はオリビアのことを母親か姉のように慕っていた。どちらも訳あって彷徨っていたところをオリビアに救われた。
二人にとってもオリビアは命の恩人で、本当の家族のような存在だったのだろう。だからこそダグラスやスカーレットに対して恋敵という認識はなかった。
秋になると森が赤と黄と色を変えた。マナが濃いからか作物は豊富で様々な果実が収穫できた。
「オリビア。畑のしゅうかく、手伝う」
「リヴィ。オレも手伝う」
「アタシも!」
ダグラスは三歳前後で最近は階段も普通に上がり降りができる。悪魔族の特徴と言えば鹿のような枝角に蝙蝠の羽根、黒髪に金色の瞳だ。
逆にスカーレットは真っ赤な長い髪に、真っ白な羽根、頭に王冠に似た環がある。彼女は三人の中では一番の年長者で八歳。
対して私は青空のような髪に、捻じれた角、蝙蝠の羽根にトカゲの尻尾とダグラスと似通っている部分はある。三人ともオリビアが大好きなところは一緒だった。二人はオリビアのことを愛称である「リヴィ」と呼んでいたが、私は「オリビア」で通した。単に彼女の名前を独占している気がしてそう呼んでいた。
「じゃあ、今日はサツマイモを収穫するから、スカーレットとフランは蔦を引いて、ダグラスはサツマイモを籠の中に入れてくれるかな」
「任せて!」
「わかった」
「オレ、がんばる」
一事が万事こんな感じでオリビアの手伝いをする。思えばこの時の私はオリビアが一人で森の別邸に住んでいるのか彼女の家族関係について何も知らなかった。
「オリビア。元気にしていたか?」
「まあ、ローレンス。ちょうどいい時期に来てくれたわ」
当時人間の国で治癒の研究と商売をしていたローレンスだった。竜魔人であるというのは一部の人間しか知らないらしく、オリビアとは薬草や治癒魔法の研究の協力者だったらしい。
そのときローレンスに会った私は、オリビアが取られるのではないかと内心ハラハラした。
リビングで向かい合わせに座るローレンスを警戒して、オリビアの膝の上に抱っこしてもらっても安心できなかった。
「ほしいものリストを見たけれど、また君の分の服や靴が入ってないだろう」
「私の分は大丈夫よ。でも子供たちはまだ小さいし、汚したりもするでしょう」
「それでも人族は他種族に比べて脆弱なのだから、頑張り過ぎも我慢もよくない。だからオリビアの傍を離れないこの子は、いつも心配しているのだろう」
「そう。……フランは私のことを思ってくれるのね」
「うん。オリビア、無理し過ぎ」
「ほら、その子の言う通りだ。……まったく、少し目を離している間に奪われてしまうとはな」
「ローレンス?」
「いや、なんでもない。……祝福するよ、オリビア」
「ありがとう?」
ローレンスは、オリビアが作った回復薬や治癒魔法の研究結果レポートを通常の倍近くの金を出して、食料や備蓄品、洋服や日用品などを送っていた。
おそらくローレンスはオリビアのことを好いていたのだろう。竜魔人にも個人差があり、伴侶を選ぶ際、大人になると直感よりも周囲の環境や立場によって判断が鈍ることがある。一度伴侶と決めたら生涯思いは変わらない。ローレンスには悪いが、オリビアは渡さない。「ぐるる」と喉を鳴らしながらオリビアに擦り寄る。
今思えば本当に大人気ないというか、必死だったのだと思う。オリビアから見ればただの甘えん坊だと思われていただろう。だが察しのいいローレンスは気づいたのだろう。私に柔らかく微笑み、「貴方が彼女を守るのならきっと幸せでしょう」と呟いたのだから。
「そういえばヘレンはグラシェ国で侍女に推薦、ジャクソンは料理の腕を見込まれて料理人──と上手くやっているようだ。これは預かっていた手紙」
「ありがとう。……そう、ヘレンは気遣いができるいい子だし、ジャクソンは器用だからきっと料理も繊細で相手を気遣える素敵な料理人になるわ」
63
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
悪妃になんて、ならなきゃよかった
よつば猫
恋愛
表紙のめちゃくちゃ素敵なイラストは、二ノ前ト月先生からいただきました✨🙏✨
恋人と引き裂かれたため、悪妃になって離婚を狙っていたヴィオラだったが、王太子の溺愛で徐々に……
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる