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第2章
第18話 悪魔ダグラスの視点/王兄第三姫殿下リリアンの視点1-2
しおりを挟むスカーレットは天使族で慈愛に満ちた心穏やかな存在らしいが、直情型で自分の大切な者を傷つける連中には一切に容赦がない。悪魔のオレなんかよりも怒らせてはいけないタイプだ。スカーレットの言葉にセドリックは少し凹んでいたが、すぐさま復活する。どちらにしても竜人族が増長しているのは見過ごせない。ということで秘密裏かつ、外堀から悪魔の包囲網を狭め、追い詰めつつ一気にカタをつけるつもりだった。
そのためにもまずはリヴィの警護を増やす兼ね合いもあって、オレとスカーレットが護衛役として任命された。
会議解散後、いくつかあった仕事を速攻で片付けて、オレとスカーレットはわざとセドリックが来るタイミングを見計らってリヴィに会いに行った。オレたちのことは当然だけれど覚えていない。
けれど記憶がなくても人間というのは、根本というのはそう変わらないようだ。
得体の知れない生き物だというのに、警戒もせずに頭を撫でて──。
膝の上でゴロゴロするスカーレットなんて百年ぶりにみた。
オレも人のことはいえないが。
あの頃の記憶なんてないのに、あの頃に戻ったみたいに心地よかった。
セドリックの落ち込み具合は見ていて楽しかったが。いつも独り占めしているのだから、このぐらいの意趣返しはいいだろう。
それから《毒姫》の嫌がらせなどはオレ、スカーレット、侍女長で華麗に回避。
リヴィは気づいていないようだ。
フィデス王国の頃とは違う。
リヴィを心から慕う人たちに囲まれて、ようやく幸せな日々が始まる。
そのためにもリヴィに知られずに問題を解決して、色欲の呪縛を解く。そうオレとスカーレット。そしてセドリックは力強く頷いた。
だが悪魔を絞める前に《毒姫》がやらかした。リヴィに呪詛魔法をかけて呪い殺すという暴挙にでたのだ。
「くしゅん。……ああ、肌寒くなったものね」なんて暢気にリヴィが言っていたが、オレたちはもう戦々恐々だった。セドリックは動揺のあまりスプーンを落とすし、誰も彼もが慌てた。人族なんて呪詛であっさり死ぬ生き物だとみな分かっていたからだ。一刻も惜しい。
セドリックは急いでリヴィと婚約を結んでいる書面を作り、次期王妃殺害の未遂で《毒姫》とそれらを助長した竜人族を処断した。というかあの時のセドリックが怖かった。
普段怒らない奴を怒らせると凄いんだな。
セドリックが呪詛毒魔法を強制解除、というかリヴィの代わりに弾き返した結果、その呪いは術者である《毒姫》に返り呪い殺された。それはもう壮絶な死だった。《毒姫》の侍女シエナはいち早く消えており、スカーレットがエレジア国に逃げるのを見越して先回りしていた。
スカーレットの勘は見事に当たった。
激しい戦闘になり、七日七晩激しい戦いになった。大気は震え、雷鳴を轟かせて色欲の力を削いだ。オレも参戦できればよかったが、スカーレットの攻撃は悪魔族のオレに影響を及ぼすので後方支援がやっとだった。
真紅の長い髪に白亜の甲冑を身に纏って戦うスカーレットの姿は悪くない。むしろ有りだ。
(相手が悪魔じゃなきゃ共闘できたのに……)
ディートハルトと天使族のクロエに応援要請を頼んでいたが、援軍の気配に気づいて色欲は身代わりを盾にして逃走。
スカーレットの一撃を食らった身代わりは、リヴィを誘拐した実行犯だった。グラシェ国の牢屋に入っていたはずだが、やられた。
「流石に無傷じゃないけれど、潜伏先が分からないのは厄介ね」
「ディートハルトとクロエにはグラシェ国を探してもらい、オレとスカーレットはエレジア国を探すとしよう」
「あら、意外。リヴィの傍に居たいと思った」
「リヴィの傍には居たいが、お前を一人にさせられるわけないだろう」
首を掻きながら答えると、スカーレットは嬉しそうに笑った。
リディのことは好きだ。けれどセドリックがリディに向ける思いとは少し違う。
(まあ、セドリックに言って安心させるのは癪なので言わないが)
オレとスカーレットはエレジア国で情報を集めるため二週間ほど外出するはめになった。忌々しくも、しぶとい同族に苛立ちが募る。
(戻ってきたらリヴィに甘えて、セドリックに嫌がらせをしよう)
***王兄第三姫殿下リリアンの視点***
侍女シエナの助言通り媚薬を完成させた。妾にかかればこんなものは朝飯前だ。
後は侍女に支持をしてセドリック様に飲ませるだけ。
窓辺に座りながら晴れ渡る青空を眺める。太陽の日差しに目が眩みそうになるが、妾は透き通った青、雄大な雲、燦々と輝く太陽が好きだ。こんな体質でなければ外に出てお昼寝をしたいほどに。
(いつかセドリック様と一緒に──)
そう夢見ていた。
願っていた。
呪われた体質の妾の夢を、あの人族の女は打ち砕いたのだ。
偶然とはいえ、見てしまった。
セドリック様にお姫様抱っこされて庭園を散歩する二人を。
睦まじい姿を目にしてしまった。
刹那、理解する。
どうあってもあの人族の女に敵わない──と。
あんな風に笑うセドリック様を見たことがなかった。
あんなに幸せそうなセドリック様を妾は知らない。
セドリック様が生まれてから、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと見ていたのに。
妾の中で何かが壊れた。
たった一つの希望。
たった一つの願い。
妾に残ったのは憎悪と嫉妬。
燃え上がる感情を抑えることはできなかった。あの女がいなければ、妾が隣にいたのに。
あの女を殺して私がセドリック様の隣に立つ。
腐臭し、悪臭によって部屋が黒ずみ、周囲の侍女たちが死んでいこうと関係ない。
願わくば、あの女に凄惨な死を。
そしてそれすら叶わないのなら、セドリック様に妾の恋に終止符を打ってほしい。
これは予感だけれど、最期の願いだけは叶う気がする。
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