白い結婚三年目。つまり離縁できるまで、あと七日ですわ旦那様。

あさぎかな@コミカライズ決定

文字の大きさ
6 / 15

離縁できるまで、あと五日ですわ旦那様。

しおりを挟む
 結局昨日は離縁の話が遅々として進まなかったが、まずは呪いを解くことを優先することで意見が一致。

 昨日の疲れもあって今日は昼過ぎまで眠ってしまい、朝というか昼ご飯を取ることに。小竜に抱きついての添い寝は最高だったのだから、しょうがないわ。うん。

 ドミニク様は就寝まで小竜の姿だったが、終始上機嫌だった。呪いを解く名目もあり、私が常に傍にいるのが嬉しいらしい。
 微笑ましい……微笑ましいのだけれど……。
 離縁問題は保留となっているだけで、私はまだ離縁を諦めてはいない。その肝心な話をしたいのだけれど……。
 ドミニク様が話題にしない! 気付いていない──あるいは誤魔化そうとしているのかしら? それとも仲睦まじい夫婦として絆が深まったと認識している?
 私は場の雰囲気に流されることもあるけれど、なし崩しや白黒ハッキリしないのは好きではない。だから自分なりに決着をつけようと意気込むのだが、人の姿に戻ったドミニク様はというと──。

「フランカがすごく可愛かった」
「起きていらしたなら、言ってくだされば良いのに!」
「フランカが自分からキスをするのに、どうして止めようと思うのか」
「あれは……緊急事態だったからで……」
「じゃあ、他の男にも同じようなことをするのか?」
「そんな……ことは」

 途端に不機嫌になるドミニク様が若干面倒くさくなってきたが、「しません!」と答えて顔を逸らした。ドミニク様は満足したっぽいが、私を腕の中から離さない。今は食事中なので席を別々に座るべきなのに、膝の上に乗せてマナー違反だわ。

「ドミニク様。もうすぐ前菜が運ばれてきますから、席に着かせてください」
「本来の姿で食事に着けるのだから、このままで問題ない。竜人の習性で夫婦は料理を分かち合い、食べさせあう。だから自然と距離も近くなる必要があるのだ」
「しゅ……習性……ですか」

 そう言われてしまったら、そうなのかも? と納得してしまいそうなのは、竜人の習性について全くの無知だからだ。そのことを正直に告げるとドミニク様は嬉しそうに「私が手取り足取り教えるから何も問題ない」と耳元で囁く。
 し、心臓に悪い。なんて甘い声で言うの!?

 ドミニク様の鉄面皮は健在なため無愛想だが、尻尾の揺れ具合で感情の揺れを判別している。先ほどから尻尾がブンブンと揺れているので、上機嫌だわ。

 そういえば今日は心の声が聞こえなくなったような?
 思わずブレスレットに視線を向けると青々とした宝石が紺色に濁っている。もしかして使用回数あるいは時間制限があるのかしら?

「フランカ。一緒に食べるのは……駄目だろうか?」
「う……。その言い方は狡いですわ。……でも竜人の御作法はよく分かりませんから、お手柔らかにお願いします」
「では!」
「はい。食べさせ合いっこに挑戦致しますわ」

 ドミニク様は感極まったのかぎゅうぎゅうに抱きしめるし、ロータスを含む使用人たちは涙ぐんでいる。屋敷内が温かみのある空気に包まれて、いつもより部屋の中が明るく感じられた。
 少し前までは、こんな風に思うことなんてなかったのに……。

 食事はいつものコース料理とは違って、一口サイズで食べやすく切り分けられている。最初はステック状の野菜で手で掴んで、食べさせてほしいとハードルの高いお願いだった。
 スプーンやフォークではなく手!
 フルーツならなくはないけれど……。

「はい、どうぞ」
「ん…………、幸せな味がする」

 照れ照れで可愛い。ちょっと頬が赤いのがポイント高いわ。ぐぬぬ、狡いわ!
 尻尾も揺れて機嫌もいいし、いっぱい食べるわね。コンソメスープはゼリー状の物で口の中で溶ける食感は新鮮だったわ。なにより食べやすい! そしてとても美味しい。
 鮮魚の白ワイン蒸しは、風味がとても良くて口の中で蕩けるし、ほろほろとして食感も良い。

「んん、ドミニク様。このお魚、とっても美味しいですわ」
「私にも食べさせてくれ」

 全メニューを食べさせ合う感じかしら。そんな感じでデザートまで甘々な空気だったけれど、空気が変わったのは、食後のお茶を飲もうと少し席を移動した時だった。

「ああ、奥様と旦那様が仲むつまじく……。今日はなんと素晴らしい日なのでしょう」
「そうだな。……フランカとこうして話し合うことができてよかった。それに呪いの数も減り、一見バラバラに見えた小さな出来事にも意味があったこともわかった」

 和やかかつ一件落着──みたいな雰囲気になっているが、ドミニク様は自分から離縁の件について触れない。それがなんだか悲しかった。
 結局、なし崩しにして自分の都合を押し付けるのかと、そう思ったら少し悲しくて、途端にムカムカと腹が立ってきたのだ。

「ドミニク様のご事情はわかりました──が、昨日も述べたように私がパティシエールになることを旦那様が承諾しないなら、私は離縁を希望しますわ」
「!?」

 ドミニク様は固まり、ロータスの涙は引っ込んだ。

「……ふ、フランカ」
「私にとってその一点は妥協できませんもの。でもこれは私の我が儘で、貴族らしい考えでも、公爵夫人としての振る舞いとしても失格なのは分かっていますわ。それでも……私は自分の夢を捨てられません」
「フランカ。……君の望みなら何でも叶えたい。でも……竜人は番となる伴侶が見知らぬ誰かと話しているだけでも殺意が沸くというのに、何処の誰とも知らない男に伴侶の菓子を提供するなど……。知り合いのいるお茶会ならまだしも……看過できない」

 尻尾が垂れ下がっているドミニク様の姿はお労しいほど、悲しみと葛藤に悩まされていた。不覚にもキュンとしてしまい、危うく助け船を出しそうになった。危ない、危ない。なんて巧妙な罠かしら。
 ドミニク様と会話してみて、悪感情はないし、むしろ意外な一面もあって──ありすぎて重苦しい愛情にドキドキもしたし、好かれていたことも嬉しかった。この三年、色々とおざなりにされたのはショックだったし、凹んだ時もあるけれどドミニク様にも事情があったからと、その部分は呑み込むことはできた。
 でもパティシエールはね、呑み込めなかったの。だって私の原動力で、夢だったんだもの!

「……やっぱり、平行線ですわね」
「──っ、フランカ」

 ドミニク様は私を逃すまいと手を伸ばすが、その手を私は掴んで阻止した。

「今日のお話は、ここまでにしましょう」
「駄目だ。そうしたら君は──」
「勝手にいなくなりませんよ。昨日は色々なことがあったでしょう。幸いにも白い結婚三年目の記念日当日まで、まだ時間がありますわ」
「フランカ」
「二、三日の間に、お互いの妥協点を見つけてみましょう」

 ドミニク様の手を引いて自分から抱きつく。数日前とは違う、という意味だったのだけれど、少しは伝わったかしら?
 あっという間に私を腕の中に包み込んでしまう。もう、これじゃあ、席も立てないし、夫の頬にキスもできないわ。

「フランカ、愛している」
「わ、私もドミニク様のことが嫌いじゃないし、惹かれているわ」
「ありがとう。……私も君が傍にいてくれるように考えるよ」

 コツンと額を合わせて配慮する言い方はくすぐったいけれど、嬉しい。数日前とはまるで違うわ。そのキッカケは離縁から始まったのだと思うと少し複雑だけれど、私も限界まで我慢し過ぎていた。

 政略結婚かつ貴族社会では好きでなくとも家との繋がりを結ぶため、愛のない結婚だってよくある。よくあること。そう割り切って、ウエイトを恋愛ではなく趣味や領地運営に傾けて、ドミニク様と向き合うのをいつの間にか諦めてしまったわ。

「私、いい妻キャンペーンは終了しましたの」
「フランカ……それは」

 顔を青ざめるドミニク様に「ああ、言葉が足りなかった」と苦笑する。

「これから意見をたくさん言いますし、自分で納得しなければを旦那様と何度でも話し合いをして、結論を出していくと決めたのです」
「私を嫌になったとか、妻を辞めると言うのではなく?」
「ええ、『仕事だから』とか『忙しいから』を理由にドミニク様への言葉をそこで終わらせず、折り合いをつけていこうと思ったのです」

 ドミニク様は「ああ」と、頬にキスを落とす。次は瞼の上、鼻に額、たくさんキスをするのは、彼なりの思い──なのかしら?

「フランカ、愛している。今日も一緒に夜を過ごしてもいいだろうか」
「!?」

 んー、口下手でもなかった。ものすごく情熱的だったわ。そして言い方!
 単に昨日から添い寝しているだけなのに!
 白い結婚三年目を迎えるためにも、一線を越えないことをドミニク様には伝えていた。無理矢理ことにおよんだら、外聞も関係なくどんな手を使っても、離縁あるいは姿を消すと言ったら、誓約書にサインしてくれたのだ。私の本気度がわかって嬉しいわ。

 私だって今は……ドミニク様と離れたくはない。でも夢は諦めたくないの。我儘な妻でごめんなさい。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜

百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。 「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」 ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!? ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……? サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います! ※他サイト様にも掲載

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

処理中です...