天使と悪魔はお嬢様を溺愛する

夢幻惠

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パーティーまで少し時間があるので、私は大広間を出てベランダのテラスで椅子に座った。

今日は天気も良く、風が心地良く吹いている。

しばらく椅子に座っていると、そこへ私と歳が近そうな女性がドレス姿で近づいて来た。
深紅で大人っぽいドレスを着こなしている。
とても美しい女性だが、意志の強そうな眼差しで、とても気が強そうに見える。
ストレートの長い黒髪が、艶やかに光を反射していた。

「初めまして。私は神宮寺家の次男の娘で沙織と言います。」

「…あっ…私は…神宮寺恵美です。よろしくお願いします。」

沙織と名乗ったその女性は、私の頭のてっぺんから足元までを舐めるような視線で見ている。
何を言われるのか不安になってしまう。

「貴女が恵美さんですね。亡くなった恵さんと…顔だけはそっくりね。」

何を言って良いか分からず、黙っている私に沙織はさらに話を続ける。

「貴女は一般の家庭で育てられたのでしょ?それで神宮寺家の跡取りが務まるのかしら。貴女が無理と言うなら、いつでも私が変わって差し上げるわ。」

とても棘のある言い方だ。
きっと沙織は私を神宮寺家の跡取り娘とは認めたくないのだろう。

沙織に対して、何を言ったら良いのかわからない。
私自身も神宮寺家の娘としてやっていける自信はまだないのだ。

その時、早乙女が私達のほうに近づいて来た。

「沙織様、ご無沙汰しております。」

早乙女が沙織の手を取り、跪いて手の甲に口づけた。
沙織は嬉しそうな表情で頬を赤くした。

「早乙女さん、お久しぶりね。お会いしたかったわ。」

沙織は早乙女の腕に自分の腕を絡ませて、恥じらうように微笑んでいる。
先程の表情の女性とは思えない別人のようだ。

龍崎は私の横に立ち、沙織に気づかれないように耳打ちをした。

「私と早乙女は、どうやら沙織様から妙に入られているようなのです。恵美様、お気を付けください。」

沙織は以前から龍崎と早乙女に夢中だったのだ。
恵さんが亡くなり、自分がその代わりになるチャンスを狙っているようだ。
そこに私が来てしまったのだから、面白くないのは当然かもしれない。


パーティーが始まり会場には沢山の人が続々と入って来る。

皆が神宮寺家の親族や関係者ということになる。
そこには私でも知っている政治家の顔もあり、錚々たるメンバーが集まっているようだ。

少しすると皆がグラスを持ちながら、久しぶりの再会に話を弾ませているようだ。
中には難しい顔で仕事の話をしている人たちもいる。

そして驚いたのは、早乙女と龍崎の思った以上の人気ぶりだ。
二人の周りには、いつしか女性たちがたくさん集まっているではないか。

確かにこれだけカッコよければ、人気が出るのも当然といえば当然だ。

少しして、何かの合図のように音楽が流れ始めた。

すると、それまで騒がしかった会場が、いきなり静かになったのだ。
一瞬のうちになぜか張りつめた空気に変わったようだ。

次の瞬間、一度閉ざされていた大きな扉がゆっくり開いたのだった。

白い手袋の男性がドアを開け、一礼した。

そして扉から入って来たには、お父さんとお母さん、さらにその真ん中には両側から手を引かれて、年配のとても上品な女性が会場に入って来たのだった。

恐らく、真ん中の女性はお祖母様だ。

お祖母様は神宮寺家の別荘で静養しながら今は静かに暮らしているそうだ。

初めてお会いする私のお祖母様だ。

なぜかとても緊張する。
何とも言えない存在感と威厳がある。

お祖母様はゆっくりと会場内を見渡した後、そして大きく息を吸うと、一呼吸して皆を見ながら話し始めた。

「皆さま、今日はお忙しい中、お集り頂き有難うございます。今日は初めに、私の孫娘を紹介したいと思います。」

お祖母様は私を見つけてこちらを見た。

「恵美さん、前へ出てください。」

私の名前がいきなり呼ばれた。
余りにも突然すぎて、体が一瞬固まってしまった。

すると、お母さんはそんな私に気づき、私の所へ近づいて優しく手を引いてくれたのだ。

この会場には既に200名程の人が集まっていた。
前に出ると、その視線が刺さるようでさらに緊張する。

皆が私に注目しているのが分かる。



お祖母様は私の肩に優しく手を置いた。

「みなさん、この子が神宮寺恵美です。私の孫で正式な後継者となってもらいます。神宮寺家の後継者は数百年に一度、家の繁栄のため、古くからの言い伝えにより、人ならざる力を持つ天使様、悪魔様の血を受け継ぐ子供を産んでもらうことになります。恵美にはその役目を担ってもらいます。」

会場中がザワザワとどよめいている。
頷く者、顔を横に振る者、溜息をつく者など様々な反応だ。


神宮寺家に来るまでは、天使や悪魔という存在は全て作り話だと思っていた。
しかし、現実に存在したのだ。
古くから莫大な力や権力を持つ神宮寺家は、人ならざる力を頂き繫栄してきたのだ。


天使は博愛の象徴。人を癒し、優しく包み込む。
悪魔は人を惑わすが、人を魅了して止まない力を持っているのだ。
どちらも美しい。人ならざる者の美しさなのだ。

それが早乙女と龍崎の本当の姿なのだ。
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