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4 吸血鬼スタッフについて同僚と話す
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「要するに、酔っ払いを大人しくさせたかかっただけなのに、イリヤさんの力が強すぎて相手を大怪我させてしまったってことか?」
「そうなんだ。壁までぶっ飛ばされた患者は全治4週間。右腕が複雑骨折。背骨と肋骨はヒビだらけ。でも、あれだけの衝撃なのに内臓の損傷はなかったんだ」
「ひええ。オレが夜勤の時じゃなくてよかった」
同僚の言葉に家泉は、苦笑いするしかない。
イリヤが患者の暴力に対処してから数日後の昼休み。家泉は同期である月森颯と昼食を食べながら夜勤で起きた出来事をざっくり話した。
月森は家泉と同じ時期に共に受付として配属された男性だ。見た目は細身で明るい茶色の髪に、勝ち気そうな大きな瞳は活発な印象を受ける。物事に真正面から取り組む家泉と違い、月森は要領よく物事をこなすタイプで、性格も正反対と言ってもいい。
だが、なんとなく気が合うので時間が合えば一緒に食事をするのが当たり前になっていた。
月森は食べ終わったコンビニ弁当を片付けながら家泉の話を聞いていたものの、しばらくして深刻そうな顔をした。
「そのうち、ケガしたヤツが訴えてくるんじゃないか?賠償しろとか言ってきそうだぞ」
最もな問いかけだったが、サンドイッチを飲み込んだ家泉は大丈夫だと続ける。
「うちの部長が昨日から向こうと話し合いをしてるみたいだけど、なんとかなるって言ってた。イリヤさんのことも保険に入ってるから心配ないって」
保険という言葉に、月森が驚く。
「吸血鬼に対応した保険があるのかよ?!」
「おれも今回のことで初めて知った」
吸血鬼と一緒に働いていると知らないことがたくさんある、と家泉は思った。異世界の人々と仕事をするなら、これからもっといろいろな知識が必要になるだろう。
月森はペットボトルの緑茶を飲んで口を開いた。
「でもイリヤさんの話を聞いただけだと、想像してた吸血鬼と違うよな。漫画とか映画で見た吸血鬼ってもっとこう、力を誇示して当たり前みたいな、プライド高いイメージがあるけど」
その言葉に、家泉は男に怪我を負わせてしょんぼりとしていたイリヤの顔を思い出す。
「おれも初めはそう思ってた。でも、イリヤさんは違うんだよ。患者に怪我させた時にすごく落ち込んでた。人間相手に力加減が上手くできなかったのを、へこんでる感じだった。ちゃんと仕事はしてても、力が強いことを見せつけたい感じはなかったな」
「へー。吸血鬼にもいろいろいるってことか。でも、イリヤさんが採用されたのは防犯面の対策のためだし……そういえば、今思い出したんだけど」
不自然に沈黙をはさんで話を続ける月森に家泉が問いかける。
「どうしたんだ?」
「オレ、イリヤさんが来る前に、総務と人事の部長が話してたの聞いてたんだ。暴漢が来てもいいように力の強い吸血鬼を採用したいって言ってた。で、その時のオレも最近は物騒だからパワフルな吸血鬼がいいなって思ったんだ。そしたら、やってきたのがイリヤさんだった」
「と言うことは」
「元々人間よりもパワーがある吸血鬼たちの中から、イリヤさんが選ばれたんだ。つまり」
そこまでの会話で、家泉はイリヤが酔った患者を簡単に壁に叩きつけた瞬間の記憶が蘇る。まるで飛んできた木の葉を手で払うかのように、わずかに動いただけなのだ。それだけで男は大怪我を負って意識を失った。
あの時は、トラブルを収めることで頭がいっぱいだったが、今にして思えばとてつもない力だった。人事がパワー重視で採用したとなれば、イリヤが全力を出した場合は病院の建物など軽く壊されてしまうのではないか。
うっかりその様を想像してしまった家泉は、自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じたが、気付かないふりをした。
「そ、そこまで深く考える必要はないんじゃないかな。夜間の危険を考えると、イリヤさんがいてくれた方が安心して夜勤できるわけだし。あとは慣れて力加減さえ覚えてくれたら」
「……そうだな。慣れてもらうしかないよな」
2人が話をしているうちに、昼休みは終わった。
「そうなんだ。壁までぶっ飛ばされた患者は全治4週間。右腕が複雑骨折。背骨と肋骨はヒビだらけ。でも、あれだけの衝撃なのに内臓の損傷はなかったんだ」
「ひええ。オレが夜勤の時じゃなくてよかった」
同僚の言葉に家泉は、苦笑いするしかない。
イリヤが患者の暴力に対処してから数日後の昼休み。家泉は同期である月森颯と昼食を食べながら夜勤で起きた出来事をざっくり話した。
月森は家泉と同じ時期に共に受付として配属された男性だ。見た目は細身で明るい茶色の髪に、勝ち気そうな大きな瞳は活発な印象を受ける。物事に真正面から取り組む家泉と違い、月森は要領よく物事をこなすタイプで、性格も正反対と言ってもいい。
だが、なんとなく気が合うので時間が合えば一緒に食事をするのが当たり前になっていた。
月森は食べ終わったコンビニ弁当を片付けながら家泉の話を聞いていたものの、しばらくして深刻そうな顔をした。
「そのうち、ケガしたヤツが訴えてくるんじゃないか?賠償しろとか言ってきそうだぞ」
最もな問いかけだったが、サンドイッチを飲み込んだ家泉は大丈夫だと続ける。
「うちの部長が昨日から向こうと話し合いをしてるみたいだけど、なんとかなるって言ってた。イリヤさんのことも保険に入ってるから心配ないって」
保険という言葉に、月森が驚く。
「吸血鬼に対応した保険があるのかよ?!」
「おれも今回のことで初めて知った」
吸血鬼と一緒に働いていると知らないことがたくさんある、と家泉は思った。異世界の人々と仕事をするなら、これからもっといろいろな知識が必要になるだろう。
月森はペットボトルの緑茶を飲んで口を開いた。
「でもイリヤさんの話を聞いただけだと、想像してた吸血鬼と違うよな。漫画とか映画で見た吸血鬼ってもっとこう、力を誇示して当たり前みたいな、プライド高いイメージがあるけど」
その言葉に、家泉は男に怪我を負わせてしょんぼりとしていたイリヤの顔を思い出す。
「おれも初めはそう思ってた。でも、イリヤさんは違うんだよ。患者に怪我させた時にすごく落ち込んでた。人間相手に力加減が上手くできなかったのを、へこんでる感じだった。ちゃんと仕事はしてても、力が強いことを見せつけたい感じはなかったな」
「へー。吸血鬼にもいろいろいるってことか。でも、イリヤさんが採用されたのは防犯面の対策のためだし……そういえば、今思い出したんだけど」
不自然に沈黙をはさんで話を続ける月森に家泉が問いかける。
「どうしたんだ?」
「オレ、イリヤさんが来る前に、総務と人事の部長が話してたの聞いてたんだ。暴漢が来てもいいように力の強い吸血鬼を採用したいって言ってた。で、その時のオレも最近は物騒だからパワフルな吸血鬼がいいなって思ったんだ。そしたら、やってきたのがイリヤさんだった」
「と言うことは」
「元々人間よりもパワーがある吸血鬼たちの中から、イリヤさんが選ばれたんだ。つまり」
そこまでの会話で、家泉はイリヤが酔った患者を簡単に壁に叩きつけた瞬間の記憶が蘇る。まるで飛んできた木の葉を手で払うかのように、わずかに動いただけなのだ。それだけで男は大怪我を負って意識を失った。
あの時は、トラブルを収めることで頭がいっぱいだったが、今にして思えばとてつもない力だった。人事がパワー重視で採用したとなれば、イリヤが全力を出した場合は病院の建物など軽く壊されてしまうのではないか。
うっかりその様を想像してしまった家泉は、自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じたが、気付かないふりをした。
「そ、そこまで深く考える必要はないんじゃないかな。夜間の危険を考えると、イリヤさんがいてくれた方が安心して夜勤できるわけだし。あとは慣れて力加減さえ覚えてくれたら」
「……そうだな。慣れてもらうしかないよな」
2人が話をしているうちに、昼休みは終わった。
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