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悪党との交渉
ホテル・コールドウェル2
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「よろしければ、お酒の前に、お風呂など如何でしょう?」
は?風呂だあ?
俺を剥いて、どうしよっての。
「はっきり、汚いんで近づくなとでも言えば?」
笑って言ってやるが、女は顔色ひとつ変えなかった。
笑みの表情のまま、また少し小首を傾げる。
ならず者に噛みつかれても、毛ほども痛くないってか。
「このホテルには、このホテルのルールというものが御座います」
「ルール?」
「格式を保つため、この場を塵ひとつなく整えるというルールが。
見たところ、あなたは随分と汚れていらっしゃいます。
歩くたびに落ちる砂埃を係りの者が掃除して回るより、あなた御自身が埃を落とされた方が」
女は俺に向かって、楚々と微笑んだ。
厭味でも何でもない、ただあるがままの事実を伝えるだけの、笑み。
「――合理的ではありませんか?」
「……」
合理的ときた。
それは、まったくもって予想外の言葉だったので、俺は大きく肩を竦めた。
道理だ。
間違っちゃいねえ。
「もっともだ。仰せのままに。お姫様」
言うと、そこだけ見えている唇が綻ぶ。
「エフィメラ、と申します。
――エフィメラ・リザ・ド・ウェストブルック」
「エフィとかでいーの?」
しれっと言ってやると、傍らに居たチビメイドが殺しそうな目をして睨みつけてくる。
やだ、楽しくなってきたじゃん。
どのくらいまで馴れ馴れしくしたら撃たれるだろう。
そういう下世話な好奇心が、うずうずすんだけど。
「はい。そう呼ばれることが多いですから、かまいません。
……では、あなたのお名前を、お伺いしてもよろしくて?」
「ダーク・ブラッド。通り名だけどな」
「通り名……?」
怪訝そうに訊きかえされて、俺はかるく笑った。
「本名なんざ、俺も知らねえ。孤児だからな」
「そうですか――」
物怖じした様子もなく、女――エフィメラは俺を見上げる。
孤児だと言われて、同情っぽい言葉でも返してくるかと思ったのに、そんな気配は微塵もない。
いいね。
湿ったことを言われてたら、即、帰ってた。
「では、ダーク。案内をさせますので。どうぞ」
優雅に手のひらで示されたのは、階段上。
気付くと、そこには二十人ほども揃いのメイド服に身を包んだ女達がいた。
ウェストブルック家、だったか。
ここん家のメイドには、容姿の審査でもあるのかね。
メイドはいずれ劣らぬ美人揃いだ。
しかも、妙な迫力がありやがる。
「どーも」
軽く手なんぞ振ってみるが、にこりともしやがらねえ。
「この方は、わたくしのお客人です。お部屋に案内して差し上げて。
それと酒肴の用意に、まずは――湯浴みを」
エフィメラがさらりと命じたことに、メイド御一行さまは異を唱えることもなかった。
躾が行き届いてやがんな。
こちらへ、と声をかけられて階段を上がった正面の扉の前に立たされる。
チン、と何かの金属音がして扉が開いた。
中は小さな部屋だった。
部屋っつっても、人が五人ほども入れば一杯になりそうな広さだ。
え、まさか、これが案内される、お部屋ってやつか?
姫さんは慣れたように、部屋の中に入る。
戸惑って動かない俺に向かって、どうぞ、と差し招いた。
それでやっと、俺は思い出した。
そういやあ、駅にもこんなんがあったな。
エレベーターって奴だ。
たしか動力は風系の魔道だったか。
は?風呂だあ?
俺を剥いて、どうしよっての。
「はっきり、汚いんで近づくなとでも言えば?」
笑って言ってやるが、女は顔色ひとつ変えなかった。
笑みの表情のまま、また少し小首を傾げる。
ならず者に噛みつかれても、毛ほども痛くないってか。
「このホテルには、このホテルのルールというものが御座います」
「ルール?」
「格式を保つため、この場を塵ひとつなく整えるというルールが。
見たところ、あなたは随分と汚れていらっしゃいます。
歩くたびに落ちる砂埃を係りの者が掃除して回るより、あなた御自身が埃を落とされた方が」
女は俺に向かって、楚々と微笑んだ。
厭味でも何でもない、ただあるがままの事実を伝えるだけの、笑み。
「――合理的ではありませんか?」
「……」
合理的ときた。
それは、まったくもって予想外の言葉だったので、俺は大きく肩を竦めた。
道理だ。
間違っちゃいねえ。
「もっともだ。仰せのままに。お姫様」
言うと、そこだけ見えている唇が綻ぶ。
「エフィメラ、と申します。
――エフィメラ・リザ・ド・ウェストブルック」
「エフィとかでいーの?」
しれっと言ってやると、傍らに居たチビメイドが殺しそうな目をして睨みつけてくる。
やだ、楽しくなってきたじゃん。
どのくらいまで馴れ馴れしくしたら撃たれるだろう。
そういう下世話な好奇心が、うずうずすんだけど。
「はい。そう呼ばれることが多いですから、かまいません。
……では、あなたのお名前を、お伺いしてもよろしくて?」
「ダーク・ブラッド。通り名だけどな」
「通り名……?」
怪訝そうに訊きかえされて、俺はかるく笑った。
「本名なんざ、俺も知らねえ。孤児だからな」
「そうですか――」
物怖じした様子もなく、女――エフィメラは俺を見上げる。
孤児だと言われて、同情っぽい言葉でも返してくるかと思ったのに、そんな気配は微塵もない。
いいね。
湿ったことを言われてたら、即、帰ってた。
「では、ダーク。案内をさせますので。どうぞ」
優雅に手のひらで示されたのは、階段上。
気付くと、そこには二十人ほども揃いのメイド服に身を包んだ女達がいた。
ウェストブルック家、だったか。
ここん家のメイドには、容姿の審査でもあるのかね。
メイドはいずれ劣らぬ美人揃いだ。
しかも、妙な迫力がありやがる。
「どーも」
軽く手なんぞ振ってみるが、にこりともしやがらねえ。
「この方は、わたくしのお客人です。お部屋に案内して差し上げて。
それと酒肴の用意に、まずは――湯浴みを」
エフィメラがさらりと命じたことに、メイド御一行さまは異を唱えることもなかった。
躾が行き届いてやがんな。
こちらへ、と声をかけられて階段を上がった正面の扉の前に立たされる。
チン、と何かの金属音がして扉が開いた。
中は小さな部屋だった。
部屋っつっても、人が五人ほども入れば一杯になりそうな広さだ。
え、まさか、これが案内される、お部屋ってやつか?
姫さんは慣れたように、部屋の中に入る。
戸惑って動かない俺に向かって、どうぞ、と差し招いた。
それでやっと、俺は思い出した。
そういやあ、駅にもこんなんがあったな。
エレベーターって奴だ。
たしか動力は風系の魔道だったか。
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