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四辻にいるのは死神
神は奪う、あますところなく
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姫さんは、いつものように小首を傾げて口元で笑みを作った。
「……手形」
姫さんの呟きに、ボスがぎょっとしたように肩をふるわせる。
「程度のものでしたら、いくらでも差し出せますね。
はじめから、支払う気がない場合」
どうやら図星のようだ。
つまりはこういうことか。
俺たちに切符をすべて押さえさせ、別グループに襲撃させてモノを奪う。
切符が手に入らなかったとして、取引は御破算。
手形は無効にされる。
まんまと踊らされたって寸法だ。
もっとも、真実、そういうことだったのかは分からない。
「わたくしが欲しいのは、明朝出発のシルバーバレットエクスプレスの乗車券。
残っているそちらのお手持ちのものをすべて。
定価の一・五倍で引き取ります」
ひでえ。
それじゃこっちには、ほぼ儲けがない。
だが、初めに雇い主の裏切りをちらつかされていると、断るのにはかなりの勇気が要る。
ボスは唸った。
本当なら断ることを迷う余地などない取引だが、一度疑い出すと止まらなくなったんだろう。
「それ以外の切符については……」
「こちらに関係のないものについては関知いたしません。
払い戻しをされるも如何されるも、御自由に」
姫さんの答えは口調こそ柔らかいが、一片の情も感じられない。
当たり前だけどな。
今まで妨害しておいて、買い取ってくれるのかなんて打診されても、ふざけるなとしか言いようがないだろう。
だがボスとしちゃ、このまま唯々諾々と相手に従ったんじゃ面目が立たない。
昼間の一件もあって、姫さんへの心証は最悪だしな。
素直に負けを認めるとは思えなかった。
「昼間、そちらもおっしゃったじゃないですかね。
今後の取引に響かないようにすべきだ、と」
「それは、どういう意味でしょうか」
「確かに海上輸送については、海軍をお持ちのウェストブルック家に敵うものはないでしょう。
ですが、陸はどうです?」
「……」
姫さんは、無言のまま表情を変えない。
ボスは勢い込んで、身を乗り出した。
「今回のことはね、奇禍だったが親しくなるきっかけとしてね。
お互いに上手くやっていこうじゃありませんか」
「……」
「今後はそちらの国に、陸上輸送の便宜をはからせていただく用意があります」
「……それは。
わたくしの国の領民に鉄道切符の転売の片棒を担げということでしょうか」
あえて、はっきりと言葉にした姫さんは、不快なのを隠さない。
だがボスはそんな機微は読まなかった。
「民衆なんてものは、金でなんとでも操れるもんでしょう。
上手くやっていきませんか。
そいつがお互いのためですよ」
「……」
姫さんは、笑顔を崩さない。
だが、俺にはあたりの気温が一気に下がったように感じた。
静かな怒り。
俺は感じた寒さに身震いする。
こいつはマジで怒らせたんじゃねえかなあ。
姫さんが、ゆっくりと立ち上がる。
そして目の前に座ったボスを見下ろし、冷たく言い放った。
「下郎」
まったくもって耳慣れない言葉に、俺は、俺たちは戸惑った。
だが、姫さんの様子から意味は通じた。
このクソ野郎。
姫さんはそう言ったんだ。
「今、わたくしの領民を侮辱されましたね。
転売などという汚らわしいものに手を貸す性根のものだと」
「は……」
ポカンとして姫さんを見上げて居るボスの背後で、俺はまた笑い出したくなる。
「……手形」
姫さんの呟きに、ボスがぎょっとしたように肩をふるわせる。
「程度のものでしたら、いくらでも差し出せますね。
はじめから、支払う気がない場合」
どうやら図星のようだ。
つまりはこういうことか。
俺たちに切符をすべて押さえさせ、別グループに襲撃させてモノを奪う。
切符が手に入らなかったとして、取引は御破算。
手形は無効にされる。
まんまと踊らされたって寸法だ。
もっとも、真実、そういうことだったのかは分からない。
「わたくしが欲しいのは、明朝出発のシルバーバレットエクスプレスの乗車券。
残っているそちらのお手持ちのものをすべて。
定価の一・五倍で引き取ります」
ひでえ。
それじゃこっちには、ほぼ儲けがない。
だが、初めに雇い主の裏切りをちらつかされていると、断るのにはかなりの勇気が要る。
ボスは唸った。
本当なら断ることを迷う余地などない取引だが、一度疑い出すと止まらなくなったんだろう。
「それ以外の切符については……」
「こちらに関係のないものについては関知いたしません。
払い戻しをされるも如何されるも、御自由に」
姫さんの答えは口調こそ柔らかいが、一片の情も感じられない。
当たり前だけどな。
今まで妨害しておいて、買い取ってくれるのかなんて打診されても、ふざけるなとしか言いようがないだろう。
だがボスとしちゃ、このまま唯々諾々と相手に従ったんじゃ面目が立たない。
昼間の一件もあって、姫さんへの心証は最悪だしな。
素直に負けを認めるとは思えなかった。
「昼間、そちらもおっしゃったじゃないですかね。
今後の取引に響かないようにすべきだ、と」
「それは、どういう意味でしょうか」
「確かに海上輸送については、海軍をお持ちのウェストブルック家に敵うものはないでしょう。
ですが、陸はどうです?」
「……」
姫さんは、無言のまま表情を変えない。
ボスは勢い込んで、身を乗り出した。
「今回のことはね、奇禍だったが親しくなるきっかけとしてね。
お互いに上手くやっていこうじゃありませんか」
「……」
「今後はそちらの国に、陸上輸送の便宜をはからせていただく用意があります」
「……それは。
わたくしの国の領民に鉄道切符の転売の片棒を担げということでしょうか」
あえて、はっきりと言葉にした姫さんは、不快なのを隠さない。
だがボスはそんな機微は読まなかった。
「民衆なんてものは、金でなんとでも操れるもんでしょう。
上手くやっていきませんか。
そいつがお互いのためですよ」
「……」
姫さんは、笑顔を崩さない。
だが、俺にはあたりの気温が一気に下がったように感じた。
静かな怒り。
俺は感じた寒さに身震いする。
こいつはマジで怒らせたんじゃねえかなあ。
姫さんが、ゆっくりと立ち上がる。
そして目の前に座ったボスを見下ろし、冷たく言い放った。
「下郎」
まったくもって耳慣れない言葉に、俺は、俺たちは戸惑った。
だが、姫さんの様子から意味は通じた。
このクソ野郎。
姫さんはそう言ったんだ。
「今、わたくしの領民を侮辱されましたね。
転売などという汚らわしいものに手を貸す性根のものだと」
「は……」
ポカンとして姫さんを見上げて居るボスの背後で、俺はまた笑い出したくなる。
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