大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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歓楽街の一夜

夜の街へ

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締め切った窓の外からは、小さく喧噪が届く。
部屋の中には何の変化もない。

 だが俺は、もそりと起き出すと、ホルスターと銃を身に着けて寝室を出た。
続き部屋となっている居間。
向かい側には姫さんたちの寝室がある。
けれど、俺はそちらではなく外の廊下に出るドアを開けた。
廊下から外が見える窓の側に佇んでいた姫さんが、驚いたように俺を見る。
それから、やんわりと表情をあらためて、少し笑う。

「……すみません。起こしてしまいましたか」

「まさか、外に出かけてみる気だったとか言わねえよな」

 訊ねると、姫さんは、まさかと苦笑する。

「そんな無謀な真似は致しません。
ただ少し……眠れなくて」

「こういう時、深窓の姫君ってのは無茶するもんと相場が決まってると思ってたぜ」

 言うと姫さんは首をかしげて、いつもみたいに笑う。

「それは、困らせてほしいということでしょうか」

 逆に訊ねられて、俺は肩をすくめた。
無茶しないでくれるのは、ありがたい。
我儘らしいことは何一つ言わないのも、助かる。
だが……。

「大人しくしててくれるなら、それにこしたことはないぜ。
……妨害のことが気にかかるのか?」

 俺は姫さんの側に歩み寄り、同じように窓の外を覗いた。
人の行き来は少なくはなく、こんな真夜中だというのに、いつまでも賑やかだ。
だがこの街では、これが普通なんだろう。

「それもあるのですが。
色々と……気にかかることはあります。
考え出すと、少し頭が冴えてしまって」

 姫さんが抱えているのは、ぼんやりとした不安なのかもしれない。
俺は彼女の、今は隠すもののない顔を見下ろした。
猥雑な明かりに照らし出されたそれは、瞳が揺れているようで頼りない。

「ちょっと、散歩にでも出てみるか?」

 言うと、驚いたみたいに瞬きする青色が面白い。
外に出ては駄目だと言われていた小さな子供が、思いがけずに許されて驚くような。

「……大人しくしていてくれと、今……」

「勝手に動き回られたら困るが、一緒に行くならいいだろ。
煩いのも、今なら寝てるだろうし」

 言って示すのは、ドチビがいるだろう寝室の方。
姫さんは少し考えてから、小さく笑った。

「……では。少しだけ、夜中の散歩に」

「少しくらい楽しめよ。真面目じゃつまんねえ」

 手を差し出すと、姫さんは慣れない様子で戸惑ってから、俺の手に自分のそれを重ねた。
装飾品なんて身につけない性質なのか、手袋をつけていない方の右手にあるのは古い指環くらいだ。

 ああ、そうか。
エスコートとかっていうんだったか、こういう場合の貴族は。
やり方が普通とは違って、戸惑ったのかね。
けど俺、そんなんのやり方、わかんねえし。
適当でいいかと、姫さんの手を握って階段を降りる。

 ホテルのフロントはこんな時間なのに、きちんとドアマンがいた。
出かけてくると言い置くと、何の不思議もなく、いってらっしゃいませと返された。
ほんと、時間の感覚が狂ってやがるな。

 ホテルを出て、アテはなかったから、そのまま大通りを目指す。
俺は姫さんに歩調を合わせて、のんびり歩いた。
行きかうのは、酔っ払いや娼婦らしい女や、雑多な人の群れ。
どいつもこいつも、無駄に陽気だった。
姫さんは物珍しそうに時々、足を止める。

「わたくし、城の外に出るのが初めてなのです」

 なんかまた、とんでもねえこと言い出しやがったよ、この姫さん。
どんだけ狭い場所で生きてんだよ。
そう言ってやると、姫さんは少し考えてから答えた。
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