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歓楽街の一夜
闇夜の銃声
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ついてきた爺さんを、背中で感じながら、わざと、ドアを蹴りあけた。
部屋の中にいた連中が、一斉に俺に注目する。
……上手くやれよ、ドチビ。
祈るような気持ちで考える。
部屋の中は、ろうそくの粗末な明かりが照らしていた。
ゆらゆら揺れる黄色い光に浮かんだのは、手にした斧を振り上げた男。
床に押さえつけられた姫さんの姿。それを取り囲んだ数人の男。
──手。
押さえつけられた、姫さんの手。
そこが真っ赤に見えて、俺は自分の中で何かがぷつんと千切れたような気がした。
何を考える暇もなく、ホルスターから二挺の銃を抜く。
身じろぎする間も与えず、奴らの頭を狙って引き金を引いた。
両肩に重く、銃撃の衝撃が伝わる。
けれど俺は構わずに撃ち続けた。
「貴様、なに……ッ!?」
「ぎゃあァァッ!!」
悲鳴と、銃声。
吹き飛ばした肉塊。血飛沫が辺りを紅く塗り替えた。
姫さんを押さえつけてた男が、姫さんの身体を盾にするようにして後じさりする。
俺は撃ち尽くした銃を、くるりと手の中で回す所作の後、ホルスターに戻した。
「ダーク……!」
後ろで援護してくれていた爺さんが俺を呼ぶ。
それが合図だったように、爺さんが銃を投げてよこした。
俺は男から視線を外さないまま、空で受け取ったそれを、そのまま姫さんを人質にしている男の眉間にぴたりと向ける。
男がわめく。
「う、動くな……!!」
叫んで、なおも姫さんを盾に、この場を凌ごうとする男に俺は目を細めて見やる。
殺してやりたい。
この手で。
だが俺が動けば、男は軽く引き金を引くかもしれない。
姫さんに向けた銃口を。
俺は視線で押しとどめようとするみたいに、男を睨みつけた。
そして、見た。
男の背後──ろうそくの明かりが届かないそこに、星明りを区切るように黒い影が舞い降りる様を。
音もなく、黒く禍々しい夜告げの鳥のように降り立った、それ。
黒いメイド服の、小さな影。
その手が構えた銃口。
抜く手も見せぬ早業は、音だけを残響のように夜空に残す。
正確無比に後頭部を撃ち抜かれた男は、自分に何が起こったのかも分からないまま逝ったのだろう。
悲鳴すら上げずに、ぐらりと身体がかしいだ。
俺は、意識が混濁している様子の姫さんの身体だけを抱きとめる。
どうっ、と鈍い音立てて男の身体がその脇に倒れこんだ。
「姫様……!!」
悲鳴のように叫んで駆け寄るドチビに、俺は大丈夫だと示すように手を上げた。
ざっと見ても怪我などはない。
そう、さっき姫さんの手に見えた赤いものは血なんかじゃなかった。
いつもは白い絹の手袋で覆われている掌には、ドチビの言う通り赤い宝石が生えている。
文字通り、爪や歯みてえに身体の内側から生えてるんだ。
「他にも仲間がいるかもしれん。移動しよう。
急がんと発車時刻にも間に合わなくなる」
爺さんの言葉に、俺は頷いた。
「俺がおぶさって走る。ドチビ、援護しろ」
俺は抱えた姫さんの身体を背に負い、ドチビに言う。
この場合はそれしか方法がないのも分かっているからだろう、ドチビは今は素直に頷いた。
「行くぞ」
駅へと向かう方向──明かりの多く灯る方へと走り出す。
狭い路地はどう走っても、人の気配は分かりやすい。
周囲があわただしくなるのが、肌に伝わった。
やっぱり他にも仲間がいやがるな。
気付けば空は明けはじめ、金色が藍色を消していく。
明るくなっていくそのせいで、地上の明かりは鮮やかさを失っていった。
部屋の中にいた連中が、一斉に俺に注目する。
……上手くやれよ、ドチビ。
祈るような気持ちで考える。
部屋の中は、ろうそくの粗末な明かりが照らしていた。
ゆらゆら揺れる黄色い光に浮かんだのは、手にした斧を振り上げた男。
床に押さえつけられた姫さんの姿。それを取り囲んだ数人の男。
──手。
押さえつけられた、姫さんの手。
そこが真っ赤に見えて、俺は自分の中で何かがぷつんと千切れたような気がした。
何を考える暇もなく、ホルスターから二挺の銃を抜く。
身じろぎする間も与えず、奴らの頭を狙って引き金を引いた。
両肩に重く、銃撃の衝撃が伝わる。
けれど俺は構わずに撃ち続けた。
「貴様、なに……ッ!?」
「ぎゃあァァッ!!」
悲鳴と、銃声。
吹き飛ばした肉塊。血飛沫が辺りを紅く塗り替えた。
姫さんを押さえつけてた男が、姫さんの身体を盾にするようにして後じさりする。
俺は撃ち尽くした銃を、くるりと手の中で回す所作の後、ホルスターに戻した。
「ダーク……!」
後ろで援護してくれていた爺さんが俺を呼ぶ。
それが合図だったように、爺さんが銃を投げてよこした。
俺は男から視線を外さないまま、空で受け取ったそれを、そのまま姫さんを人質にしている男の眉間にぴたりと向ける。
男がわめく。
「う、動くな……!!」
叫んで、なおも姫さんを盾に、この場を凌ごうとする男に俺は目を細めて見やる。
殺してやりたい。
この手で。
だが俺が動けば、男は軽く引き金を引くかもしれない。
姫さんに向けた銃口を。
俺は視線で押しとどめようとするみたいに、男を睨みつけた。
そして、見た。
男の背後──ろうそくの明かりが届かないそこに、星明りを区切るように黒い影が舞い降りる様を。
音もなく、黒く禍々しい夜告げの鳥のように降り立った、それ。
黒いメイド服の、小さな影。
その手が構えた銃口。
抜く手も見せぬ早業は、音だけを残響のように夜空に残す。
正確無比に後頭部を撃ち抜かれた男は、自分に何が起こったのかも分からないまま逝ったのだろう。
悲鳴すら上げずに、ぐらりと身体がかしいだ。
俺は、意識が混濁している様子の姫さんの身体だけを抱きとめる。
どうっ、と鈍い音立てて男の身体がその脇に倒れこんだ。
「姫様……!!」
悲鳴のように叫んで駆け寄るドチビに、俺は大丈夫だと示すように手を上げた。
ざっと見ても怪我などはない。
そう、さっき姫さんの手に見えた赤いものは血なんかじゃなかった。
いつもは白い絹の手袋で覆われている掌には、ドチビの言う通り赤い宝石が生えている。
文字通り、爪や歯みてえに身体の内側から生えてるんだ。
「他にも仲間がいるかもしれん。移動しよう。
急がんと発車時刻にも間に合わなくなる」
爺さんの言葉に、俺は頷いた。
「俺がおぶさって走る。ドチビ、援護しろ」
俺は抱えた姫さんの身体を背に負い、ドチビに言う。
この場合はそれしか方法がないのも分かっているからだろう、ドチビは今は素直に頷いた。
「行くぞ」
駅へと向かう方向──明かりの多く灯る方へと走り出す。
狭い路地はどう走っても、人の気配は分かりやすい。
周囲があわただしくなるのが、肌に伝わった。
やっぱり他にも仲間がいやがるな。
気付けば空は明けはじめ、金色が藍色を消していく。
明るくなっていくそのせいで、地上の明かりは鮮やかさを失っていった。
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