大陸横断弾丸鉄道 ―銃と魔法の荒野。美貌の姫君と早撃ちのメイド、二挺拳銃のならず者。三人は銀の弾丸と呼ばれる列車に乗り七日間の旅に出る―

春くる与

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時計の針は無情に進む

少しの変化

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 かすんだ地平線から昇る朝日が、ぽつりぽつりと消えていく街の明かりの代わりに、空を照らす。
ひとつ、またひとつと落とされていく灯火。
それは何かの生き物が目を閉じていく様に似ていて、巨大な生物が眠りにつくようにも見えた。

 ア・レアートシティの夜明け。
同時に、鳴り響く発車を告げるベル。
俺たちは、あわただしく列車に駆け込んだ。
ベルが鳴り終わると、一拍おいてドアが閉まる。

 そして、シルバーバレットは音もなく静かに動き出す。
ついさっきまで取り巻かれていた喧噪が、嘘のようだ。

「……ミスター。怪我の手当てを」

 姫さんが、やや息を切らしながら言う。
怪我なら、もう全員がぼろぼろだと言えたが。
なかでも爺さんは、かなり人にもみくちゃにされたみたいでひどい状態だ。
辛そうに足を引きずっている。

「なに、どうせまた列車の中に閉じこもる生活なんだから、たいしたことはない。
それより、お嬢さんたちは、怪我はないのかね?」

 落ち着いた様子に、爺さんは本当に紳士ってやつだと思う。
姫さんは、苦笑した。

「一番重症なのではないですか?
わたくしたちのことは、かすり傷ですので気になさらず」

 とはいえ、騎士たちに言われて俺たちは、ぞろぞろと医務室に向かった。
そんなものがあって医者がいるってのも、さすがシルバーバレットだな。
手当てを済ませ、部屋に戻るとドチビがひどく神妙な顔をしていた。
しばらく、もじもじとしていたが、ソファに座った姫さんのところに進み出る。

「……姫様」

「どうかしましたか、リィ」

 訊き返されて、ドチビは言いにくそうに口ごもる。
けれど意を決したように、姫さんに向き直った。

「私に、ミスターゴールドマンのお世話をさせていただけませんか。
あのままでは、あまりにご不自由だと思います」

 こいつは吃驚だ。
あれほど嫌ってた爺さんの世話をしたいだなんて、自分から言い出すとは。

 ドチビはどうやら、爺さんが身を挺して姫さんを助けてくれたことに、随分と感謝しているみたいだった。
さっきも医務室の行き帰りに、ずっと介添えをしてたしな。
爺さんは、本当に娘のことを思い出すのか嬉しそうだった。

 ちなみに俺への扱いに変化がないのは、姫さんが攫われた原因が俺のミスだからか。
姫さんは、はじめやはり驚いていたようだが、ドチビの手を取って微笑んだ。

「とても良いことです。
……わたくしも、嬉しい。リィがそんな風に言ってくれることが」

 嬉しそうに笑って、いってらっしゃい、と姫さんは言った。
まるで子供の成長を喜ぶ母親みたいだな。
実際、そんな気分なのかもしれないが。

「きっと遠慮なさると思うから。
その時は、わたくしから命じられたと申し上げればよいと思います」

「はい」

 ドチビは神妙な顔つきで頷くと、部屋を出ていった。
俺は、それを見送ってから、姫さんへと視線を戻す。
彼女の正面の椅子に、背凭れをまたぐ形で腰を下ろした。

「嬉しそうだな、姫さん」

「……はい。人と関わることで、リィの心に何か変化があると嬉しいと思います」

「姉さん的な心境で?」

「もしかしたら、母親のような気持ちかもしれませんね」

 やっぱり、そうか。自覚あるんだな。
言って自分で笑う姫さんは、本当に嬉しそうだった。
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