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時計の針は無情に進む
少しの変化
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かすんだ地平線から昇る朝日が、ぽつりぽつりと消えていく街の明かりの代わりに、空を照らす。
ひとつ、またひとつと落とされていく灯火。
それは何かの生き物が目を閉じていく様に似ていて、巨大な生物が眠りにつくようにも見えた。
ア・レアートシティの夜明け。
同時に、鳴り響く発車を告げるベル。
俺たちは、あわただしく列車に駆け込んだ。
ベルが鳴り終わると、一拍おいてドアが閉まる。
そして、シルバーバレットは音もなく静かに動き出す。
ついさっきまで取り巻かれていた喧噪が、嘘のようだ。
「……ミスター。怪我の手当てを」
姫さんが、やや息を切らしながら言う。
怪我なら、もう全員がぼろぼろだと言えたが。
なかでも爺さんは、かなり人にもみくちゃにされたみたいでひどい状態だ。
辛そうに足を引きずっている。
「なに、どうせまた列車の中に閉じこもる生活なんだから、たいしたことはない。
それより、お嬢さんたちは、怪我はないのかね?」
落ち着いた様子に、爺さんは本当に紳士ってやつだと思う。
姫さんは、苦笑した。
「一番重症なのではないですか?
わたくしたちのことは、かすり傷ですので気になさらず」
とはいえ、騎士たちに言われて俺たちは、ぞろぞろと医務室に向かった。
そんなものがあって医者がいるってのも、さすがシルバーバレットだな。
手当てを済ませ、部屋に戻るとドチビがひどく神妙な顔をしていた。
しばらく、もじもじとしていたが、ソファに座った姫さんのところに進み出る。
「……姫様」
「どうかしましたか、リィ」
訊き返されて、ドチビは言いにくそうに口ごもる。
けれど意を決したように、姫さんに向き直った。
「私に、ミスターゴールドマンのお世話をさせていただけませんか。
あのままでは、あまりにご不自由だと思います」
こいつは吃驚だ。
あれほど嫌ってた爺さんの世話をしたいだなんて、自分から言い出すとは。
ドチビはどうやら、爺さんが身を挺して姫さんを助けてくれたことに、随分と感謝しているみたいだった。
さっきも医務室の行き帰りに、ずっと介添えをしてたしな。
爺さんは、本当に娘のことを思い出すのか嬉しそうだった。
ちなみに俺への扱いに変化がないのは、姫さんが攫われた原因が俺のミスだからか。
姫さんは、はじめやはり驚いていたようだが、ドチビの手を取って微笑んだ。
「とても良いことです。
……わたくしも、嬉しい。リィがそんな風に言ってくれることが」
嬉しそうに笑って、いってらっしゃい、と姫さんは言った。
まるで子供の成長を喜ぶ母親みたいだな。
実際、そんな気分なのかもしれないが。
「きっと遠慮なさると思うから。
その時は、わたくしから命じられたと申し上げればよいと思います」
「はい」
ドチビは神妙な顔つきで頷くと、部屋を出ていった。
俺は、それを見送ってから、姫さんへと視線を戻す。
彼女の正面の椅子に、背凭れをまたぐ形で腰を下ろした。
「嬉しそうだな、姫さん」
「……はい。人と関わることで、リィの心に何か変化があると嬉しいと思います」
「姉さん的な心境で?」
「もしかしたら、母親のような気持ちかもしれませんね」
やっぱり、そうか。自覚あるんだな。
言って自分で笑う姫さんは、本当に嬉しそうだった。
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