33 / 67
神様とはそういうもの
しおりを挟む
翌朝、嫁いでいく三重子を俺は田に出て見送った。
できることといえば雨が降らないように祈ることくらいで。
つましい行列は、それでも両親が嫁ぐ娘のために懸命に仕立てたものだったんだろう。
村のものは、皆、祝福して見送った。
嫁いだ先は、やっぱり貧しい家で、だが相手の男は身体が弱い以外はいい奴だった。
三重子をとても大事にしてくれた。
けれど結婚して二年ももたずに、男は病で亡くなった。
俺は、三重子が俺の村に戻ってくるものだと思っていた。
そうしたら、本当に嫁にするつもりだったんだ。
……だが、三重子は戻ってこなかった。
実家の両親と嫁ぎ先の家と、どちらもを支えて頑張っていた。
だからそれならと、俺は……俺がここの土地神になればいいと思ったんだ。
そしたら、戻ってこなくても俺が三重子のところに来てやれる。
そう考えて、何度となくこの土地の神に縄張り争いを仕掛けた。
──勝てなかったけどな。
◇
話し終えて、氏康さんはぐいと杯をあおった。
私と松里さんは、揃って汐の方を見る。
汐は知らん顔でツマミのスルメを噛んでいたけど、私たちの視線に気づくと怪訝そうに眉を寄せた。
「……なんだ」
「こんな思いをして必死に立ち向かってきた犬に、ガンガンに猫パンチくらわせてたのね、アンタ」
「……ジ、ジャスティス」
「訳の分からん喧嘩を売られていた俺の立場も考えろ」
汐は、ふんと肩をそびやかす。
たしかに汐自身には無関係だけど、少しくらい譲ってあげてよという気持ちにはなる。
「私……これからは夕食は三重子さんと一緒にしようかな」
「それただ夕飯たかりに行くだけになるでしょ、里ちゃんは」
「う……」
「三重子さんは料理上手だし、気遣い屋さんだもの。絶対に夕飯作ってくれることになっちゃうでしょ」
「そうなりますよね……」
私はがくりと項垂れた。
松里さんの言う通りだ。
一人で食べる御飯じゃない方がいい、て思っても逆に気を使わせてしまうかもしれない。
そう思うと、安易に一緒しましょうとは言えないなあ。
「……三重子さん本人がどう思ってるかにもよるけどさ。結局、おひとり様が気楽でいいっていう人もいるし」
たしかに、色んな感じ方があるものだし。
御飯は一人で食べるより、たくさんで食べる方がおいしいはず、ていうのも押し付けになるかもしれないよね。
三重子さん自身が、そう望んでくれるなら私は日参してしまうけど。
「……でも、いいなあ。三重子さん」
私が呟くと、神様たちはきょとんと私の方を見た。
三人……いや、三柱っていうんだっけ。
は、首を傾げている。
「今の話のどこに、うらやむポイントがあったの」
松里さんが不思議そうに訊ねてくる。
そうかな。ポイントなかったかな。
「だって、氏康さんはその後ずっと、約束通りに三重子さんのこと見守ってきたんでしょう?」
「ほぼストーカーよね」
「……そ、そうとも言えるかもしれないけど」
ああ、氏康さんがまた涙目になっている。
嫌がられてたらストーカーだけど、嫌がられてないなら大丈夫ですから。
安心して。
「ずっと見守ってもらってる……って。なんだか羨ましいなと思って」
たとえそれで辛い時に助けてもらえないんだとしても。
なんとかして自力で立ち上がる一歩を、見ていてくれる存在があるって、すごく勇気づけられる気がする。
私がそう言うと、神様たちは一様に目をそらした。
松里さんは畳の上を転がって悶絶してたけど。
照れくさすぎる、とかなんとかうめいていたけど。
「……神などと言っても、しょせん俺たちにできる事は、終局、見守ることだけだ。だから、それで勇気づけられると言ってもらえるなら。……冥利につきる」
汐が静かにそう言って、氏康さんが小さく頷いていた。
──そうか。
私たち人間が感謝してそう思うことは、神様にとって嬉しい事なのかな。
ふわりと和んだ空気に、そう思う。
帰り際、汐は氏康さんに三重子さんの様子を見に来るのは自由だから、と言っていた。
さすがに土地の事は一ミリも譲る気がないようだったけど。
梅雨の晴れ間、雲の陰からのぞいた月の下。
私は、猫と犬とオネエさんの影が帰っていくのを見送った。
できることといえば雨が降らないように祈ることくらいで。
つましい行列は、それでも両親が嫁ぐ娘のために懸命に仕立てたものだったんだろう。
村のものは、皆、祝福して見送った。
嫁いだ先は、やっぱり貧しい家で、だが相手の男は身体が弱い以外はいい奴だった。
三重子をとても大事にしてくれた。
けれど結婚して二年ももたずに、男は病で亡くなった。
俺は、三重子が俺の村に戻ってくるものだと思っていた。
そうしたら、本当に嫁にするつもりだったんだ。
……だが、三重子は戻ってこなかった。
実家の両親と嫁ぎ先の家と、どちらもを支えて頑張っていた。
だからそれならと、俺は……俺がここの土地神になればいいと思ったんだ。
そしたら、戻ってこなくても俺が三重子のところに来てやれる。
そう考えて、何度となくこの土地の神に縄張り争いを仕掛けた。
──勝てなかったけどな。
◇
話し終えて、氏康さんはぐいと杯をあおった。
私と松里さんは、揃って汐の方を見る。
汐は知らん顔でツマミのスルメを噛んでいたけど、私たちの視線に気づくと怪訝そうに眉を寄せた。
「……なんだ」
「こんな思いをして必死に立ち向かってきた犬に、ガンガンに猫パンチくらわせてたのね、アンタ」
「……ジ、ジャスティス」
「訳の分からん喧嘩を売られていた俺の立場も考えろ」
汐は、ふんと肩をそびやかす。
たしかに汐自身には無関係だけど、少しくらい譲ってあげてよという気持ちにはなる。
「私……これからは夕食は三重子さんと一緒にしようかな」
「それただ夕飯たかりに行くだけになるでしょ、里ちゃんは」
「う……」
「三重子さんは料理上手だし、気遣い屋さんだもの。絶対に夕飯作ってくれることになっちゃうでしょ」
「そうなりますよね……」
私はがくりと項垂れた。
松里さんの言う通りだ。
一人で食べる御飯じゃない方がいい、て思っても逆に気を使わせてしまうかもしれない。
そう思うと、安易に一緒しましょうとは言えないなあ。
「……三重子さん本人がどう思ってるかにもよるけどさ。結局、おひとり様が気楽でいいっていう人もいるし」
たしかに、色んな感じ方があるものだし。
御飯は一人で食べるより、たくさんで食べる方がおいしいはず、ていうのも押し付けになるかもしれないよね。
三重子さん自身が、そう望んでくれるなら私は日参してしまうけど。
「……でも、いいなあ。三重子さん」
私が呟くと、神様たちはきょとんと私の方を見た。
三人……いや、三柱っていうんだっけ。
は、首を傾げている。
「今の話のどこに、うらやむポイントがあったの」
松里さんが不思議そうに訊ねてくる。
そうかな。ポイントなかったかな。
「だって、氏康さんはその後ずっと、約束通りに三重子さんのこと見守ってきたんでしょう?」
「ほぼストーカーよね」
「……そ、そうとも言えるかもしれないけど」
ああ、氏康さんがまた涙目になっている。
嫌がられてたらストーカーだけど、嫌がられてないなら大丈夫ですから。
安心して。
「ずっと見守ってもらってる……って。なんだか羨ましいなと思って」
たとえそれで辛い時に助けてもらえないんだとしても。
なんとかして自力で立ち上がる一歩を、見ていてくれる存在があるって、すごく勇気づけられる気がする。
私がそう言うと、神様たちは一様に目をそらした。
松里さんは畳の上を転がって悶絶してたけど。
照れくさすぎる、とかなんとかうめいていたけど。
「……神などと言っても、しょせん俺たちにできる事は、終局、見守ることだけだ。だから、それで勇気づけられると言ってもらえるなら。……冥利につきる」
汐が静かにそう言って、氏康さんが小さく頷いていた。
──そうか。
私たち人間が感謝してそう思うことは、神様にとって嬉しい事なのかな。
ふわりと和んだ空気に、そう思う。
帰り際、汐は氏康さんに三重子さんの様子を見に来るのは自由だから、と言っていた。
さすがに土地の事は一ミリも譲る気がないようだったけど。
梅雨の晴れ間、雲の陰からのぞいた月の下。
私は、猫と犬とオネエさんの影が帰っていくのを見送った。
0
あなたにおすすめの小説
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる