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神様の本気
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何かの誓いのように上げられた手は、逃げないし引かれることもない。
無理強いはされないけれど、断固とした意志でもってそこに在る。
私は戸惑ったのと気恥ずかしいのと、ああもう。
色々な自分に都合の悪いものが綯い交ぜで、なかなか行動できずにいた。
だけど、汐は急かさない。
ただ待っていてくれる。
それはそれは、長い時間をかけて心の準備をして。
私はぎくしゃくと手をあげる。
震えてしまう掌を、上手くできなくてあわあわと狼狽えながら、重ねた。
掌同士をあわせると、指先を絡めるみたいに握りこまれてしまって心臓が止まりそうになる。
温かい、てのひら。
真っ直ぐに私を見る汐の眼差しが、近い。
近すぎて、熱を感じるくらいだ。
頬のあたりと、耳元が熱い。
じわりと滲むみたいな体温を、わけあう儀式。
撫でて、と乞われて何も考えずに猫を愛でていたのとは、意味合いが違うように思える。
これって、今までの儀式と全然ちがうって感じた。
ふれた指先から、溶けていく。
感覚が、それどころか現実の身体自体が溶けていく気がした。
「……」
しお、と呼ぼうとして溶けてしまった身体からは、声にならなかった。
私という器の奥底、深い場所でつながった気がする。
私を通して汐が人というものと絆を結ぶのと同時に、私もまた神様というものに触れる。
あらためて理解できた。
交感ってこういうことなのだと。
感覚が現実から離れて、神気のなかをただよう。
落ちていく、落ちていく。
黒々とした闇の底へ。
けれど、その闇は暖かくてやわらかくて、優しく私を受け止めてくれた。
こんなことは初めてだ。
私は儀式の途中で、受け止めきれなかった感覚に意識を飛ばしてしまった。
そうしてすべての感覚がバラバラになったみたいだった私の意識が、再構成されて人として目を覚ましたのは、翌朝の事だった。
見慣れた天井は、私の、祖母の家のものだ。
思考までもが鈍くなってしまっていたけれど、昨夜、儀式の後に連れ戻ってくれたのだと理解はできた。
ゆらゆらと抱き上げられて、運ばれたおぼろな記憶。
それらを反芻しながら、視線だけをあげる。
頭の上から覗き込んでいる黒猫は、私の神様だ。
「……目が覚めたか。里」
呼ばれて私は、何か言おうとする。
喉が渇いてカサカサで音にならなかったけど。
瞬きをすると、目の端から涙がこぼれた。
何が悲しかったわけでもない、ただ生理的に眩しくてたまらなくて。
生まれたての赤ちゃんは、こんな感じなのかもしれないと思う。
「具合はどうだ」
低い、いつものバリトンで訊ねられて私は茫洋とこたえる。
今度は慎重に唇を湿らせて、言葉を綴った。
「……筋肉痛で、もはや指一本も動かせません、神様……」
汐の背後で、松里さんが大声で笑う声だけが聞こえた。
うん、いると思ってたよ。
そっちを見ることもできない。うう、悔しい。
全身が、錆びた鉄の塊にでもなったようだ。
ああ、もしかして。ううん、もしかしなくても。
今までの交感は、手加減してくれていたのね、汐?
無理強いはされないけれど、断固とした意志でもってそこに在る。
私は戸惑ったのと気恥ずかしいのと、ああもう。
色々な自分に都合の悪いものが綯い交ぜで、なかなか行動できずにいた。
だけど、汐は急かさない。
ただ待っていてくれる。
それはそれは、長い時間をかけて心の準備をして。
私はぎくしゃくと手をあげる。
震えてしまう掌を、上手くできなくてあわあわと狼狽えながら、重ねた。
掌同士をあわせると、指先を絡めるみたいに握りこまれてしまって心臓が止まりそうになる。
温かい、てのひら。
真っ直ぐに私を見る汐の眼差しが、近い。
近すぎて、熱を感じるくらいだ。
頬のあたりと、耳元が熱い。
じわりと滲むみたいな体温を、わけあう儀式。
撫でて、と乞われて何も考えずに猫を愛でていたのとは、意味合いが違うように思える。
これって、今までの儀式と全然ちがうって感じた。
ふれた指先から、溶けていく。
感覚が、それどころか現実の身体自体が溶けていく気がした。
「……」
しお、と呼ぼうとして溶けてしまった身体からは、声にならなかった。
私という器の奥底、深い場所でつながった気がする。
私を通して汐が人というものと絆を結ぶのと同時に、私もまた神様というものに触れる。
あらためて理解できた。
交感ってこういうことなのだと。
感覚が現実から離れて、神気のなかをただよう。
落ちていく、落ちていく。
黒々とした闇の底へ。
けれど、その闇は暖かくてやわらかくて、優しく私を受け止めてくれた。
こんなことは初めてだ。
私は儀式の途中で、受け止めきれなかった感覚に意識を飛ばしてしまった。
そうしてすべての感覚がバラバラになったみたいだった私の意識が、再構成されて人として目を覚ましたのは、翌朝の事だった。
見慣れた天井は、私の、祖母の家のものだ。
思考までもが鈍くなってしまっていたけれど、昨夜、儀式の後に連れ戻ってくれたのだと理解はできた。
ゆらゆらと抱き上げられて、運ばれたおぼろな記憶。
それらを反芻しながら、視線だけをあげる。
頭の上から覗き込んでいる黒猫は、私の神様だ。
「……目が覚めたか。里」
呼ばれて私は、何か言おうとする。
喉が渇いてカサカサで音にならなかったけど。
瞬きをすると、目の端から涙がこぼれた。
何が悲しかったわけでもない、ただ生理的に眩しくてたまらなくて。
生まれたての赤ちゃんは、こんな感じなのかもしれないと思う。
「具合はどうだ」
低い、いつものバリトンで訊ねられて私は茫洋とこたえる。
今度は慎重に唇を湿らせて、言葉を綴った。
「……筋肉痛で、もはや指一本も動かせません、神様……」
汐の背後で、松里さんが大声で笑う声だけが聞こえた。
うん、いると思ってたよ。
そっちを見ることもできない。うう、悔しい。
全身が、錆びた鉄の塊にでもなったようだ。
ああ、もしかして。ううん、もしかしなくても。
今までの交感は、手加減してくれていたのね、汐?
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