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嵐が通り過ぎた後の災い
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落ち着こうよ、私。
好きだというのは料理の話だよ。
そうは思うものの、好きだというダイレクトアタックな言葉は心臓に悪い。
だけどたぶんこの神様にはそんな自覚はないんだろうなあ。
そう思うと、ちょっぴり切ない。
「何が美味しかったですか」
内心の思いは隠して、私はそう訊いてみた。
褒められたことは単純に嬉しかったから、また作ってあげたいと思ったので。
汐は私を見つめる瞳を、輝かせる。
それで本当に美味しかったんだなと伝わったから、私はつい笑ってしまった。
私の神様は食べものに関してはとても素直だ。
「プリン」
「え、プリン?」
意外な答えだったから私は少し戸惑った。
もっと和風なものが好きなのかと思っていたのに。
「この間つくってくれた。柚子の香りの」
「ああ、あれね。バニラエッセンスがなかったから香りを何か代用したかったんだけど、あれはアタリだったかも」
どうだろうと思ったのだけど、柚子の香りは甘いものにもあう。
プリン自体は簡単なものだったけど、香りが好みだったのもあるのね。
「じゃあ、また作ります」
「楽しみにしている」
甘いもの好きなの、可愛いな。
思って、つい小さく笑ってしまった。
人の喧騒が少し離れたこの場所は、風の音が強く聞こえる。
それでも傍にいるのが神様なんだと思うと、嵐は怖いものではなかった。
それに峠は越したようで、今は雨の音くらいしかしない。
いつのまにか、台風は過ぎていったみたいだ。
なら私ももうお酒とかいただいても、いいかな。
そう思ったときだった。
離れた場所であるはずの集会室の喧騒が大きくなる。
私と汐は顔を見合わせて、腰を浮かせた。
なにごとだろう。嵐は過ぎたはずなのに。
妙に不安を掻き立てられて、私たちが部屋を出ようとした時だった。
ばたばたと駆けてくる足音。
そして、人は入ることができない筈だというこの場所の、襖が乱暴に引きあけられた。
「……松里さん」
息を弾ませて険しい顔をした松里さんが立っていた。
「里ちゃん。汐」
「ど、どうしたの……何か……」
「……三重子さんが倒れた」
「……!!」
するりと猫に戻った汐と私は、松里さんについて集会室に駆け戻る。
中は、右往左往する村の人たちでごったがえしていた。
「三重子さん……!!」
人だかりができている方へ駆け寄ると、青い顔をして横になっている三重子さんの姿があった。
呼びかけたけれど、意識が朦朧としているのか三重子さんから答えはない。
噓でしょ……噓でしょ……。
三重子さんが倒れるなんて、そんな。
「き……救急車は」
「呼んだけど台風のせいで、あちこちに出払ってて。今すぐ短時間で来られるのがないらしいわ」
「そんな……」
「車があるから、とにかくそれで病院まで運ぼうって言ってるんだけど」
「わ、私、三重子さんの家にいって保険証とかとって……」
「ちがうの、里ちゃん。そんなことより、アナタ車の免許はもってるわよね?」
「え……も……持ってますけど……ペーパーで」
私は訳が分からなくて、なんだか泣きそうになりながら訊き返す。
なぜそんなことを訊くんだろう。
車の免許なんて。
「みんな、お酒が入っちゃってるから。今、車の運転ができる人、里ちゃんだけなの」
「……ッ!!そ……そんな、無理です!私、本当にペーパーで!いきなりここから山道を運転なんて……!!」
「三重子さんの命がかかってるのよ!!」
怒鳴りつけられて、私はびくりと肩をすくめた。
そんな、そんなこと突然言われたって……。
ああでも、泣いている場合じゃないんだ。
私がやらなきゃ。
他に誰もいないんだ。
三重子さん。大好きな三重子さんが、大変なことになってしまうかもしれない。
嫌だ。そんなことになったら嫌だ。
無理とか言ってる場合じゃない。
私はがくがくと震えながら、それでもなんとか立ち上がった。
「免許証……とってきます……」
言って、もつれそうになる足で駆けだした。
一刻の猶予もない。
好きだというのは料理の話だよ。
そうは思うものの、好きだというダイレクトアタックな言葉は心臓に悪い。
だけどたぶんこの神様にはそんな自覚はないんだろうなあ。
そう思うと、ちょっぴり切ない。
「何が美味しかったですか」
内心の思いは隠して、私はそう訊いてみた。
褒められたことは単純に嬉しかったから、また作ってあげたいと思ったので。
汐は私を見つめる瞳を、輝かせる。
それで本当に美味しかったんだなと伝わったから、私はつい笑ってしまった。
私の神様は食べものに関してはとても素直だ。
「プリン」
「え、プリン?」
意外な答えだったから私は少し戸惑った。
もっと和風なものが好きなのかと思っていたのに。
「この間つくってくれた。柚子の香りの」
「ああ、あれね。バニラエッセンスがなかったから香りを何か代用したかったんだけど、あれはアタリだったかも」
どうだろうと思ったのだけど、柚子の香りは甘いものにもあう。
プリン自体は簡単なものだったけど、香りが好みだったのもあるのね。
「じゃあ、また作ります」
「楽しみにしている」
甘いもの好きなの、可愛いな。
思って、つい小さく笑ってしまった。
人の喧騒が少し離れたこの場所は、風の音が強く聞こえる。
それでも傍にいるのが神様なんだと思うと、嵐は怖いものではなかった。
それに峠は越したようで、今は雨の音くらいしかしない。
いつのまにか、台風は過ぎていったみたいだ。
なら私ももうお酒とかいただいても、いいかな。
そう思ったときだった。
離れた場所であるはずの集会室の喧騒が大きくなる。
私と汐は顔を見合わせて、腰を浮かせた。
なにごとだろう。嵐は過ぎたはずなのに。
妙に不安を掻き立てられて、私たちが部屋を出ようとした時だった。
ばたばたと駆けてくる足音。
そして、人は入ることができない筈だというこの場所の、襖が乱暴に引きあけられた。
「……松里さん」
息を弾ませて険しい顔をした松里さんが立っていた。
「里ちゃん。汐」
「ど、どうしたの……何か……」
「……三重子さんが倒れた」
「……!!」
するりと猫に戻った汐と私は、松里さんについて集会室に駆け戻る。
中は、右往左往する村の人たちでごったがえしていた。
「三重子さん……!!」
人だかりができている方へ駆け寄ると、青い顔をして横になっている三重子さんの姿があった。
呼びかけたけれど、意識が朦朧としているのか三重子さんから答えはない。
噓でしょ……噓でしょ……。
三重子さんが倒れるなんて、そんな。
「き……救急車は」
「呼んだけど台風のせいで、あちこちに出払ってて。今すぐ短時間で来られるのがないらしいわ」
「そんな……」
「車があるから、とにかくそれで病院まで運ぼうって言ってるんだけど」
「わ、私、三重子さんの家にいって保険証とかとって……」
「ちがうの、里ちゃん。そんなことより、アナタ車の免許はもってるわよね?」
「え……も……持ってますけど……ペーパーで」
私は訳が分からなくて、なんだか泣きそうになりながら訊き返す。
なぜそんなことを訊くんだろう。
車の免許なんて。
「みんな、お酒が入っちゃってるから。今、車の運転ができる人、里ちゃんだけなの」
「……ッ!!そ……そんな、無理です!私、本当にペーパーで!いきなりここから山道を運転なんて……!!」
「三重子さんの命がかかってるのよ!!」
怒鳴りつけられて、私はびくりと肩をすくめた。
そんな、そんなこと突然言われたって……。
ああでも、泣いている場合じゃないんだ。
私がやらなきゃ。
他に誰もいないんだ。
三重子さん。大好きな三重子さんが、大変なことになってしまうかもしれない。
嫌だ。そんなことになったら嫌だ。
無理とか言ってる場合じゃない。
私はがくがくと震えながら、それでもなんとか立ち上がった。
「免許証……とってきます……」
言って、もつれそうになる足で駆けだした。
一刻の猶予もない。
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