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ずっとずっといて欲しい
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「何かあったというか……」
私が一方的に何か思ったというか。
言葉に詰まっていると、松里さんは小さく笑って私の顔を覗き込んだ。
「お姉さんに相談してくれていいのよ」
お姉さんだったの。
そんな感じもなきにしもあらずなので納得もしてしまうのだけど。
私はもう顔が熱い。
恐る恐る視線を上げて、ちらりと松里さんを窺う。
すごくいい顔をして笑っているので、私はその視線を横へとずらした。
「それは置いといて……。相談したいことは別なんですけど」
「いやあん、もう里ちゃんと汐って、ほんとつまんなあい。真面目過ぎるのよ二人とも。もっと、はっちゃけない?」
本当に心底つまらなさそうに、松里さんはぼやいた。
私は思わず半眼になる。
からかう気が満々ならしい松里さんに対する抗議だ。
「……はっちゃけると、困るでしょ。神様は」
ぼそりと呟くと松里さんは、あら、と瞬きをして私を見た。
それから、ほんのすこしだけ居住まいを正してふざけた態度をあらためる。
「そこは」
そう言って軽く笑った。
「困るけど困らないのよ。神様だって」
「……ほんとに?」
訊くと松里さんは深く頷いた。
「アタシたちにだって感情はあるもの。好きな子に好きって言われたら……困るけど、それ以上に嬉しいもんよ」
そう言った言葉が、あんまり自然だったから私は少し驚いた。
神様って、そんな人間と同じようなものなの?
同時に松里さんにも心当たりがあるのだろうかと思って、じっと見つめてしまう。
「松里さんの、尻尾と一緒に捨てた話?」
「そおねえ……。あと、氏康と三重子さんの話とか」
「……」
私はその言葉に口を噤んだ。
庭に落ちる陽射しは、まだ夏の匂いを十分に残しているけれど。
もう蝉の声は聞こえない。
りり、と鳴き損ねた下手くそな虫の音が、時々響くだけだ。
「松里さん……私……」
言うと松里さんは、なあに、と笑った。
「汐に……ずっとずっと、ここの神様でいてほしい」
口にするのは何もかもをすっ飛ばして一番に願うことだった。
私の中の甘いような痛いような感情をまとめて、そして思っただけでつんと瞼の奥が痛くなるような願い事。
ずっとずっと、神様でいてほしい。
私がいない未来までも。
松里さんは宥めるように、私の俯いてしまった頭の上に手を置いてくれた。
ここの神様たちは、みんな、優しい。
「それは……里ちゃん一人の力でかなえるには、難しそうな願い事だわね。……もしかしなくても氏康のこと聞いたの?」
「……」
私は黙ったまま、頷いた。
「それで、怖くなっちゃったのね」
「……うん」
私はもう一度頷いて、それから俯いたまま呟いた。
「汐が神様じゃなくなって……一人で何処かにいって……いなくなってしまったら、どうしよう……」
「どんだけ先の心配してんのよ、ホント」
ばっかねー、と言われて私は苦笑いする。
馬鹿なのは自覚してるんだけど、思わずにいられないんだ。
「ま、里ちゃん一人の力でできる事なんて、限りがありまくりだけどさ。本当に何もできる事がない訳じゃないと思うのよネ」
「……」
松里さんがそう穏やかに言うものだから、私はのろのろと視線を上げた。
その私の顔を見て松里さんは、やっと顔上げた、と揶揄うように笑った。
「三人寄ればなんとやらって言うじゃないの。アレたぶん、神様にも有効だから。考えましょ、色々」
「……松里さん」
「そおね、とりあえずは明日は三重子さんのお見舞いにもちゃんと行って。それで近いうちに皆で作戦会議でもしましょうか。参加者がほぼ神の会議よ、すごくなあい?」
さらりと言って、松里さんはカッコよくウインクをきめる。
ウインクなんて古臭い、昭和、というなかれ。
こういう時の松里さんは、本当にかっこいいって思う私なのだ。
私が一方的に何か思ったというか。
言葉に詰まっていると、松里さんは小さく笑って私の顔を覗き込んだ。
「お姉さんに相談してくれていいのよ」
お姉さんだったの。
そんな感じもなきにしもあらずなので納得もしてしまうのだけど。
私はもう顔が熱い。
恐る恐る視線を上げて、ちらりと松里さんを窺う。
すごくいい顔をして笑っているので、私はその視線を横へとずらした。
「それは置いといて……。相談したいことは別なんですけど」
「いやあん、もう里ちゃんと汐って、ほんとつまんなあい。真面目過ぎるのよ二人とも。もっと、はっちゃけない?」
本当に心底つまらなさそうに、松里さんはぼやいた。
私は思わず半眼になる。
からかう気が満々ならしい松里さんに対する抗議だ。
「……はっちゃけると、困るでしょ。神様は」
ぼそりと呟くと松里さんは、あら、と瞬きをして私を見た。
それから、ほんのすこしだけ居住まいを正してふざけた態度をあらためる。
「そこは」
そう言って軽く笑った。
「困るけど困らないのよ。神様だって」
「……ほんとに?」
訊くと松里さんは深く頷いた。
「アタシたちにだって感情はあるもの。好きな子に好きって言われたら……困るけど、それ以上に嬉しいもんよ」
そう言った言葉が、あんまり自然だったから私は少し驚いた。
神様って、そんな人間と同じようなものなの?
同時に松里さんにも心当たりがあるのだろうかと思って、じっと見つめてしまう。
「松里さんの、尻尾と一緒に捨てた話?」
「そおねえ……。あと、氏康と三重子さんの話とか」
「……」
私はその言葉に口を噤んだ。
庭に落ちる陽射しは、まだ夏の匂いを十分に残しているけれど。
もう蝉の声は聞こえない。
りり、と鳴き損ねた下手くそな虫の音が、時々響くだけだ。
「松里さん……私……」
言うと松里さんは、なあに、と笑った。
「汐に……ずっとずっと、ここの神様でいてほしい」
口にするのは何もかもをすっ飛ばして一番に願うことだった。
私の中の甘いような痛いような感情をまとめて、そして思っただけでつんと瞼の奥が痛くなるような願い事。
ずっとずっと、神様でいてほしい。
私がいない未来までも。
松里さんは宥めるように、私の俯いてしまった頭の上に手を置いてくれた。
ここの神様たちは、みんな、優しい。
「それは……里ちゃん一人の力でかなえるには、難しそうな願い事だわね。……もしかしなくても氏康のこと聞いたの?」
「……」
私は黙ったまま、頷いた。
「それで、怖くなっちゃったのね」
「……うん」
私はもう一度頷いて、それから俯いたまま呟いた。
「汐が神様じゃなくなって……一人で何処かにいって……いなくなってしまったら、どうしよう……」
「どんだけ先の心配してんのよ、ホント」
ばっかねー、と言われて私は苦笑いする。
馬鹿なのは自覚してるんだけど、思わずにいられないんだ。
「ま、里ちゃん一人の力でできる事なんて、限りがありまくりだけどさ。本当に何もできる事がない訳じゃないと思うのよネ」
「……」
松里さんがそう穏やかに言うものだから、私はのろのろと視線を上げた。
その私の顔を見て松里さんは、やっと顔上げた、と揶揄うように笑った。
「三人寄ればなんとやらって言うじゃないの。アレたぶん、神様にも有効だから。考えましょ、色々」
「……松里さん」
「そおね、とりあえずは明日は三重子さんのお見舞いにもちゃんと行って。それで近いうちに皆で作戦会議でもしましょうか。参加者がほぼ神の会議よ、すごくなあい?」
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