【完結】聖女の仮面を被った悪魔の女に断罪を~愛するあなたが婚約を破棄すると言うのなら、私は悪役令嬢になりましょう~

あろえ

文字の大きさ
12 / 48

第12話:ウォルトン家のメイド4

しおりを挟む
 数日後、ナタリーの厳しい王妃教育で情緒不安定になったグレースのために、街へ日用品を買いに行くことになった。

 一応言っておくが、私はグレースの専属メイドではない。ウォルトン家のメイドはロジリーにロックオンされているので、なぜか私がグレースの部屋担当みたいな雰囲気になっているだけだ。

 よって、「カーテンが落ち着かないの! とにかくカーテンを買ってきて!」と言われたため、ソフィアと一緒に買い出しに来ている。

「テーブルクロスも買っておいた方がいいよね。あとで言われるのも嫌だし、可愛いクッションカバーも買っておこうかな」

 なんだかんだで楽しそうなソフィアは、初めて買い物にやってきた子供のように、色々な店に目移りしていた。

「私の趣味には合いませんので、ソフィアさんにお任せします」

 一方、女の子らしい商品を好まない私は、早くも王城に戻りたくて仕方がない。

「シャルちゃんは地味すぎるよね。出会った頃から私服も無地ばかりで、似たような服しか持ってないんだもん」

 余計なお世話よ。ローズレイ家はシンプルなものが好きな家系であって、女の子っぽいオシャレを好まないの。

 心の中で反発したとしても、決して顔には出さない。どんな時でもメイドスマイルである。

 そんな私とは違い、ルンルン気分で買い物するソフィアの方が、模様替えの仕事は向いているだろう。

 私とソフィアは仲が良いとはいえ、趣味嗜好は正反対なことが多い。どちらかといえば、ソフィアもグレースと同じような可愛らしいものが好みだ。

 ピンク色や花柄に興味を抱き、ドレスにはフリフリや大きなリボンが付いているものを必ず選ぶから。

 ソフィアの実家に遊びに行った時も、随分と驚かされたのよね。天蓋付きのベッドで眠り、フリフリのパジャマを着ていたんだもの。親友が急に絵本に出てくるお姫様に変われば、さすがに開いた口が塞がらなかったわ。

 でも、信頼するソフィアの嬉しそうな顔を見れば、自然と受け入れることができる。普通に過ごしているだけで、いつも私の世界観を変えてくれる子なのだ。

 偏った意見に流されないようにするためにも、ソフィアと同じ時間を共有するのは、とてもありがたい。三大貴族のグレースとこういう関係になれれば、理想的な形になっていただろう。

 今更考えても仕方がないことだし、ソフィアが大切な親友であることには変わりないが。

「ん? どうかした?」

 改めて本人に伝えるのは照れ臭いので、伝えるつもりはない。

「いいえ。ソフィアさんの部屋も薄いピンク色だったなーと思いまして」

「あぁー……。正直、の気持ちがわからないでもないよね。広い部屋だと落ち着かないし、ボクは可愛い趣味だと思うよ」

 呑気に話しながら歩いているが、いま街で一番ホットな話題が婚約破棄なので、グレースの名前は出さないようにしていた。

 どこからか情報が洩れているのか、わざと情報を流しているのかはわからない。ただ、街の噂に耳を傾ければ、おそらく後者だと思う。

「どうやら本当に婚約者が変わったらしいねえ」
「不思議なことに、レオン王子の誕生日パーティーには、どちらも呼ばれているそうだぞ」
「まさかそこで相応しい方を王妃に選ぶ、っていうことなのかね」

 意図的に情報を流さない限り、ここまで詳しい情報は流れない。ローズレイ派を追い込む戦力の一つと考えるべきだろう。

 しかし、黒い噂が流れるウォルトン家が婚約者になろうとしている今、民衆がついてくるとは思えなかった。

「どうにも国王様が許可するとは思えないだよな」
「レオン王子もそうだ。国の未来を考えるなら、断トツでローズレイ家を選ぶだろう」
「間違いねえ。先月も違法取引を摘発して、伯爵家をギャフンと言わせたくらいだからな」

 仮に高貴な身分であったとしても、罪を浄化することがローズレイ家に与えられた使命になる。

 たとえ……それが王族であったとしても。

 だからこそ、取り返しがつかなくなる前に動かなければならない。どんな理由があったとしても、結果的にレオン殿下が悪事に加担したら、ローズレイ家として動く必要が出てくる。

 グレースが王妃になる前に何とかしないと。タイムリミットが迫っているのも事実だけれど、婚約者を奪い返した時、時間が経てば経つほど国民に説明しにくくもなる。

 信頼されているローズレイ家のシャルロットが、国民にまで『悪役令嬢のシャルロット』だと認識されることだけは避けなければならなかった。

「仲が良さそうには見えなかったが、本当に不仲だったのかねえ」
「ローズレイ家のシャルロット様は堅いからな」
「レオン王子もまだ若いんだ。可愛らしい聖女様に惚れちまったか?」

 人を裁く人間がヘラヘラしてはならない。他人にも自分にも厳しいからこそ、罪を裁く人間だと認められる。そのため、私とレオン殿下が仲睦まじい関係だと知る者はいない。

 この国を守り続けてきたローズレイ家の教えが、今となっては追い風にも向かい風にもなっていた。

 好き放題言ってくれるわよね。私だって、年頃の女の子なのよ。メイドの前でお色気攻撃をするグレースほどではないけれど、ちゃんと……本人にはアピールしているわ。

 街の声にムッとしながら歩いていると、不意にソフィアが顔を覗き込んできた。

「実際に見るまでは、納得できないよね。まさかシャルさんが甘えん坊だったとは」

「街中で変なことは言わないでください。あのことは忘れる約束ですよ」

 ニヤニヤするソフィアには、一度だけ見られてしまったことがある。

 レオン殿下の部屋を訪ねた際、どうしても我慢できなくて、すぐにキスをおねだりしたのだ。そうしたら、コソコソと物音が聞こえ始めて……。

 もう! 一生の不覚よ! いま思い出すだけでも恥ずかしいもの!

「今度からかったら、過去の恋愛相談の内容をすべて言いふらしますよ」

「えっ……。いや、それは釣り合ってないよ? シャルさん?」

「知りません。私にとっては対等です」

 誰に言うわけでもないが、ソフィアの恋愛相談を人質にして、私は難を逃れるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十二回の死を繰り返した悪役令嬢、破滅回避は諦めました。世界のバグである司書と手を組み、女神の狂ったシナリオをぶっ壊します

黒崎隼人
ファンタジー
十二回の死を繰り返した公爵令嬢オフィーリア。十三回目の人生で彼女が選んだのは、破滅の回避ではなく、世界の破壊だった。 「この世界は、女神の描いた三文芝居に過ぎない」 ループする度に歪む日常、完璧な仮面の下に狂気を隠した婚約者や聖女。全てが残酷な神の「物語」の駒でしかないとしたら? これは、筋書きを押し付けられた悪役令嬢が、同じく運命に抗う謎の司書と「共犯者」となり、狂った世界のシステムに反逆する物語。断罪の先に待つのは救済か、それとも完全な無か。真実が世界を壊すダークミステリーファンタジー、開幕。

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。 ※表紙はAIです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

処理中です...