33 / 48
第33話:グレースの臨時講師5
しおりを挟む
学園長と話すことに緊張していた私とソフィアは、大きなため息を吐いた。
「グレース様の仕事に同行しただけで、こんなことになるとは思いませんでしたね。随分と学園の雰囲気が変わったような印象を抱きます」
学生時代に通っていた時には感じなかったが、グレースと共に過ごして、ウォルトン家の影響力を痛感した。
生徒から尊敬の眼差しで見られ、学園長も一目を置く存在であり、発言力が大きい。魔力暴走の疑惑が浮上したルチアに対して、本当に危険なのか検証する気配すらなかった。
この学園はウォルトン家の支配下といっても過言ではない。誰もグレースを疑わない場所なのだ。
「ずっと暮らしていた王都のはずなのに、知らないうちに敵地になったみたいだよね。学園の中がウォルトン家に占領された雰囲気があるもん」
「そう思うのであれば、不用意な言葉を控えてくださいね。敵地と認識した場所で発する言葉ではありませんよ」
「だってさ、グレース様だけ特別扱いすぎない? 婚約者がいるのに、絶対に他の男にも手を出してるじゃん」
私たちが学園生活を過ごしている時でも、グレースの男癖の悪さは噂に流れていた。確証できるものはなく、未だに恋仲の男性と歩く姿を見たことがない。
むしろ、顔が可愛いグレースが妬まれる姿は見たことがある。私も完全に敵対するまで騙されていたし、彼女が計算高い人物であるのは間違いない。
裏の顔を知っていたら、黒い噂の方が真実だと思わざるを得ないから。
「ああいう女に手を出す男も男だよね。誘惑されていることくらい気づくと思うんだけど。シャルさんもそう思うよね?」
浮気された経験のあるソフィアは、変なスイッチが入ってしまったみたいだ。当時の記憶が蘇り、元婚約者ルイスへの怒りが爆発している。
「気持ちはわかりますよ。でも、ルイス様はそういう方では……」
仲直りしたばかりだから、何とかソフィアを抑えつけないと……。そう思って説得しようとしたものの、妙な違和感が頭をよぎった。
女性の扱いが上手なルイスが、ああいう形の誘惑に引っ掛かるだろうか。彼は女好きというわけではなく、真正の女たらしな一面を持つだけだ。誤解から言い寄られることや、誘惑されることは何度もあったと思う。
それなら、普通の人より浮気耐性が強いと言えるはず。
出会った頃からソフィアを愛していたいし、今もまだ愛し続けている。一途な思いを持つ彼が、一夜の過ちを犯してしまう理由がわからない。
王城で話を聞いたときも、不穏なことを言っていたくらいだ。
『記憶にないとはいえ、俺が犯した過ちだからな』と。
普通に考えたら変な話よね。自分が犯した罪を忘れるはずがないわ。
本当に記憶がないのか、何かを庇うために記憶がないと偽っているのか、男の言い訳はそう言うものなのか……。
何より引っ掛かるのは、レオン殿下の手紙にも同じようなことが書かれていたことだ。
『すまない。彼女と一夜を共に過ごした。どうしてこうなってしまったのか、俺には記憶がない』と。
うーん。なぜか私とソフィアの浮気が似すぎている。偶然と言いきるには、強い違和感を覚えていた。
「ルイス様はどういう風に浮気したんですか? 女性に誘惑されて、ノコノコついていったとか」
「……フォローしてくれるんじゃなかったの?」
そこは期待されても困るわよ。もう三年もルイスをフォローし続けている私の身にもなってほしいわね。
「正直、ボクも知らないよね。詳しい話なんて聞きたくもないし」
それもそうか。私もレオン殿下の口から、グレースと一夜を過ごした詳細を聞かされたら、立ち直れない気がする。
でも、すべてが聞きたくないわけではない。
「ルイス様が浮気をするに至った経緯、気になりませんか?」
愛する人が自分を裏切った理由を知りたいと思うのは、心のどこかで信じたいという思いがあるからだ。婚約者にも言えない特別な理由があったのではないかと、深く考えてしまう。
「聞いたとしても、教えてくれないと思うよ。ルイスは言い訳するようなタイプじゃないもん。まあ、シャルさんなら聞けるかもしれないけど」
やっぱりソフィアも気になるみたいで、珍しく食い気味になっていた。
一歩間違えれば、ソフィアを傷つけることに繋がるが、再びソフィアとルイスが婚約するのなら、避けられない問題になる。私とレオン殿下にも関係があるかもしれないし、ちょっとだけお節介をさせてもらおう。
「ソフィアさんとルイス様の関係、ちゃんと見直してみましょうか」
「グレース様の仕事に同行しただけで、こんなことになるとは思いませんでしたね。随分と学園の雰囲気が変わったような印象を抱きます」
学生時代に通っていた時には感じなかったが、グレースと共に過ごして、ウォルトン家の影響力を痛感した。
生徒から尊敬の眼差しで見られ、学園長も一目を置く存在であり、発言力が大きい。魔力暴走の疑惑が浮上したルチアに対して、本当に危険なのか検証する気配すらなかった。
この学園はウォルトン家の支配下といっても過言ではない。誰もグレースを疑わない場所なのだ。
「ずっと暮らしていた王都のはずなのに、知らないうちに敵地になったみたいだよね。学園の中がウォルトン家に占領された雰囲気があるもん」
「そう思うのであれば、不用意な言葉を控えてくださいね。敵地と認識した場所で発する言葉ではありませんよ」
「だってさ、グレース様だけ特別扱いすぎない? 婚約者がいるのに、絶対に他の男にも手を出してるじゃん」
私たちが学園生活を過ごしている時でも、グレースの男癖の悪さは噂に流れていた。確証できるものはなく、未だに恋仲の男性と歩く姿を見たことがない。
むしろ、顔が可愛いグレースが妬まれる姿は見たことがある。私も完全に敵対するまで騙されていたし、彼女が計算高い人物であるのは間違いない。
裏の顔を知っていたら、黒い噂の方が真実だと思わざるを得ないから。
「ああいう女に手を出す男も男だよね。誘惑されていることくらい気づくと思うんだけど。シャルさんもそう思うよね?」
浮気された経験のあるソフィアは、変なスイッチが入ってしまったみたいだ。当時の記憶が蘇り、元婚約者ルイスへの怒りが爆発している。
「気持ちはわかりますよ。でも、ルイス様はそういう方では……」
仲直りしたばかりだから、何とかソフィアを抑えつけないと……。そう思って説得しようとしたものの、妙な違和感が頭をよぎった。
女性の扱いが上手なルイスが、ああいう形の誘惑に引っ掛かるだろうか。彼は女好きというわけではなく、真正の女たらしな一面を持つだけだ。誤解から言い寄られることや、誘惑されることは何度もあったと思う。
それなら、普通の人より浮気耐性が強いと言えるはず。
出会った頃からソフィアを愛していたいし、今もまだ愛し続けている。一途な思いを持つ彼が、一夜の過ちを犯してしまう理由がわからない。
王城で話を聞いたときも、不穏なことを言っていたくらいだ。
『記憶にないとはいえ、俺が犯した過ちだからな』と。
普通に考えたら変な話よね。自分が犯した罪を忘れるはずがないわ。
本当に記憶がないのか、何かを庇うために記憶がないと偽っているのか、男の言い訳はそう言うものなのか……。
何より引っ掛かるのは、レオン殿下の手紙にも同じようなことが書かれていたことだ。
『すまない。彼女と一夜を共に過ごした。どうしてこうなってしまったのか、俺には記憶がない』と。
うーん。なぜか私とソフィアの浮気が似すぎている。偶然と言いきるには、強い違和感を覚えていた。
「ルイス様はどういう風に浮気したんですか? 女性に誘惑されて、ノコノコついていったとか」
「……フォローしてくれるんじゃなかったの?」
そこは期待されても困るわよ。もう三年もルイスをフォローし続けている私の身にもなってほしいわね。
「正直、ボクも知らないよね。詳しい話なんて聞きたくもないし」
それもそうか。私もレオン殿下の口から、グレースと一夜を過ごした詳細を聞かされたら、立ち直れない気がする。
でも、すべてが聞きたくないわけではない。
「ルイス様が浮気をするに至った経緯、気になりませんか?」
愛する人が自分を裏切った理由を知りたいと思うのは、心のどこかで信じたいという思いがあるからだ。婚約者にも言えない特別な理由があったのではないかと、深く考えてしまう。
「聞いたとしても、教えてくれないと思うよ。ルイスは言い訳するようなタイプじゃないもん。まあ、シャルさんなら聞けるかもしれないけど」
やっぱりソフィアも気になるみたいで、珍しく食い気味になっていた。
一歩間違えれば、ソフィアを傷つけることに繋がるが、再びソフィアとルイスが婚約するのなら、避けられない問題になる。私とレオン殿下にも関係があるかもしれないし、ちょっとだけお節介をさせてもらおう。
「ソフィアさんとルイス様の関係、ちゃんと見直してみましょうか」
1
あなたにおすすめの小説
旦那様、離婚しましょう ~私は冒険者になるのでご心配なくっ~
榎夜
恋愛
私と旦那様は白い結婚だ。体の関係どころか手を繋ぐ事もしたことがない。
ある日突然、旦那の子供を身籠ったという女性に離婚を要求された。
別に構いませんが......じゃあ、冒険者にでもなろうかしら?
ー全50話ー
婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました
瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。
そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。
氷の公爵は、捨てられた私を離さない
空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。
すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。
彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。
アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。
「君の力が、私には必要だ」
冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。
彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。
レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。
一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。
「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。
これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
婚約破棄、承りました!悪役令嬢は面倒なので認めます。
パリパリかぷちーの
恋愛
「ミイーシヤ! 貴様との婚約を破棄する!」
王城の夜会で、バカ王子アレクセイから婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢ミイーシヤ。
周囲は彼女が泣き崩れると思ったが――彼女は「承知いたしました(ガッツポーズ)」と即答!
似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります
秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。
そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。
「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」
聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。
悪役令嬢の涙
拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる