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第一章

第10話:ポーション作り

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 エリスに作業部屋へ案内してもらったジルは、目の前に広がる光景を見て、ちょっぴり懐かしい気持ちになっていた。

 表面が黒く加工された大きめの机と、様々な実験道具が棚に置かれている、清潔な部屋。低級ポーション作成キットの中に、試験管と同じ見た目のポーション瓶があるため、前世の記憶があるジルは理科の実験室を思い出していた。

「なんか、草っぽい香りがするね」

「ポーションを作ることが多くて、カーテンや机に薬草のニオイが染みついちゃうんだと思うよ。失敗してこぼれたり、肘が当たってこぼしたりする人もいるし」

「あー、僕もやりそう」

「ポーション瓶が爆発して怪我をする人もいるから、怪我がないようには気を付けてよね。さすがに低ランクポーションを作るだけで怪我をした人はいないけど」

「……うん、気を付ける」

 そんな情けないことを姉の職場でするわけにはいかないと、ジルは強く思う。

「じゃあ、私は受付の仕事に戻るね。作成キットは毎日配布するけど、余分に渡すことはできないから、慎重に使うんだぞ~。薬草や真水にも限りがあるからね」

 そう言い残した後、エリスは部屋を後にした。

 錬金術師になると自分で言ったものの、丸投げ感がすごい。これがその試験である以上、一人でポーションを作り出す必要があるのだが……、もう少しくらい助けてほしいと思う、ジルなのであった。

 どうすればいいかわからないものの、とりあえず、ジルは机の椅子に腰を掛ける。低級ポーション作成キットの中身を確認するため、ガサゴソと音を鳴らして、机の上に並べていく。

 サンチュのような葉をした薬草が、三十枚ほど。
 真水が入った、小さめのボトルが八つ。
 キャップ付きのポーション瓶が、二十本。
 火の魔石が埋め込まれた、スタンド型のバーナーが一つ、など……。

 ほとんど理科の実験のような状態である。

 前世で似たような道具を使った経験があるため、スムーズに作業ができるだろう。問題は、シーンと静寂に包まれた部屋を一人で過ごすことかもしれない。昨日は姉と離れることなく、ベタベタと一緒に過ごした影響もあり、一人の空間にソワソワしていた。

「と、とりあえず、何かやってみようかな」

 気を紛らわせようとしたジルは、薬草を一枚手に取って、小さく折りたたむ。それをポーション瓶の奥まで押し込んだ後、真水を浸るくらいまで入れていくと……、寂しい気持ちはどこへいったのか、だんだん楽しくなってきていた。

 ポーション瓶を手に持ち、チャポチャポと軽く振って、素材を混ぜ合わせていく。

「早くできないかなー♪ ポーション瓶を振って混ぜるの、好きなんだよね。あっ、待って。ポーション瓶からフラスコに変えたら、金魚さんが住めそうかも!」

 ルンルン気分でポーション作りを始めるジルの姿を、エリスはこっそりドアを開けて見守っていた。もうちょっと真面目に作ってほしいと思いながら。

「ポーション瓶は水槽じゃないの。本当にフラスコで作ろうとしなくてもいいのよ、ジル」

 弟と離れるのが寂しかったエリスは、自分と同じようにジルが寂しくならないか、気になって仕方がない。まだ寝たきりの弟のイメージが強く、目覚めてから一人になるのは、これが初めてのこと。体が呪いから解放されたとはいえ、どれほどジルの心に負担があるのかわからなかった。

 錬金術を楽しみ始めたのはいいことだが、呑気なこと言いながらポーションを作り始めた弟に、エリスは嫌な予感がしている。

「私も似たようなことをやったのよね。薬草と真水を一時間も振って混ぜ合わせたけど、絶対に違うって悟ったの。だって、それでできたら錬金術の試験なんていらないんだもん。はぁ~、ジルも錬金術のセンスが期待できなさそうだわ……」

 エリスが錬金術師の試験に挑んだのは、三年前の十五歳の時である。一方、前世の記憶があるとはいえ、今のジルは十歳だ。前世の記憶も父親と料理をしたこと以外ほとんど覚えていないし、今世では三年間も寝たきりで過ごしたため、精神的にはまだまだ子供。

 そんなジルとエリスを一緒にするのは、ちょっとばかり可哀想である。

「金魚さんが一匹だと可哀想だから、後二つ作ろうっと」

 当然、ポーション瓶の中に金魚はいない。薬草が真水で浸っているだけで、子供らしく妄想して、完全に遊び始めていた。

 ジルの言葉を聞いたエリスは、「あっ、無理だ」と思い、そっとドアを閉じる。もしかしたら、昔の自分もあんなことをしていたのかもしれないと思い、恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
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