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第二章
第79話:またまたエリスは察してしまう……!
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エリスに内緒でコツコツとポーチ作りが進み、一週間が経過した日の夜。ルーナの部屋で身を寄せ合う、ジルとルーナの姿があった。
「ねえねえ、ルーナお姉ちゃん。順調に進んでる?」
「大丈夫だよ。ジルくんの分も平行して作ってるから、もうちょっと待っててね。エリスさんが家にいない午前中しか作業できないし、魔封狼の革でポーチを作るのは初めてで……」
小声で二人が話し合っていると、突然、ガチャッと扉を開けてエリスが入ってくる。
「ジル、今日履いてた靴下に穴が開いてたから捨てる……、何かあった?」
絶対に聞かれてはいけないエリスが入ってきたため、反射的にパッと離れたはいいものの、ルーナとジルの心臓はバックバク。いつもと変わりませんよー、という雰囲気を出しているが、二人が不自然に離れた姿をきっちり目撃したエリスは、険しい表情をしていた。
「えっ? 別に何もしてないですよ。ちょっとジルくんについてたホコリを取っていただけです。ね、ジルくん?」
「う、うん。ホコリがついちゃっただけで、本当に何もしてないよ。ルーナお姉ちゃん、ホコリを取ってくれてありがとう!」
「どういたしましてー」
子供らしく元気にお礼を言うものの、ジルは完全に棒読み状態。どこか落ち着かない様子を見せているため、エリスは妙な雰囲気を感じた。
「ジル、フレンチトーストに乗せるアイスがなくなってるから、先にキッチンで作っててもらってもいい? 私も後で手伝いに行くから」
「はーい!」
逃げ道ができてよかったー、と安心したジルは、スタタタッと飛び出していく。
しかし、これはエリスの罠であり、キラーンッと目が光る。エリスお姉ちゃんも一緒に行こうよー、と甘えてこないことがおかしいのだ。怖がり屋さんのジルは、夜に一人でキッチンへ行こうと思わないから。
姉センサーがビンビンに反応したエリスは、またまた察してしまう。二人は恋仲にあるのではないか、と。
命の恩人であるアーニャさんを裏切るなど、許さる行為ではない。さらに、浮気相手が妹のルーナちゃんであれば、大問題になる。これは、絶対に見逃せない事件であり、弟の過ちを姉である自分が正さなければならない! などと、またまたエリスが行き過ぎた妄想を展開!
無駄な正義感に後押しされたエリスは、ルーナに襲い掛かる!
「ルーナちゃん、何か私に隠し事をしてない? さっきジルとベッタリしてたけど、いつもと雰囲気が違ったよね。私、そういうのに敏感なタイプみたいなの」
アーニャとジルの正しい関係を見抜けていないエリスは、言葉の重みがなさすぎる! それなのに、無駄に自信のあるエリスは圧が強い!
得体のしれないエリスのプレッシャーを受けたルーナは、しおしお……と花が枯れるように俯き、落ち込み始める。エリスの圧に負けたわけではなく、誤魔化すための演技である。
「実は、ジルくんの前では言えなかったんですけど、最近になって、急によそよそしくなることがあるなーって思っていたんです。今もエリスさんが入ってきたら、急に慌てちゃって。何かあったんですか?」
絶対に隠し事をバラしたくないルーナは、話題をすり替える作戦を実行。破壊神アーニャのゴタゴタを何年もフォローし続けたことで、ルーナは巧みな話術と演技力を兼ね備えている。
エリスが目の当たりにしたことを肯定し、逆に何かあったのではないかと心配することで、自分は当事者から外れて立場を逆転してしまうのだ!
「……べ、別にいつもと変わらないんじゃないんかな。私は何も聞いてないよ」
ゴクリッと喉を鳴らしたエリスは、唐突に攻めから守りに回され、焦り始めていた。アーニャとジルの関係をルーナには内緒にする、それがアーニャと交わした約束なのだから。
「そうですか。ジルくんの年齢を考えれば、思春期なのかもしれませんね。私に甘えるところをエリスさんに見られるのが、急に恥ずかしくなったんだと思います。ソッとしておいた方がいいかもしれないですね」
説得力抜群のルーナは、言葉の重みが違う。ジルの年齢と行動を考慮し、あながち間違ってもいないように仕立て上げただけではない。この後、エリスが深追いをしてジルに問いただすことを未然に防いでいた。
これには、さすがのエリスも考えを改め始め……。
(もしかして、アーニャさんに思春期の扉を開けられてから、ジルは恋心をうまくコントロールできていないんじゃないかな。甘やかしてくれるルーナちゃんとも、次のステップを進みたくて仕方がないのよ。キスという、恋愛のネクストステージに!)
さすがエリス! 自分の考えを改めるという言葉を知らない!
唯一、巧みな話術によってルーナの印象が変わったことで、一方的にジルが浮気をしていると判断。恋愛感情をコントロールできないジルよりも、ルーナを味方につけた方が早いと思い、心の内を聞き出すことにした。
「ちなみになんだけど、ルーナちゃんはジルのことをどう思う? 恋愛対象として、見れる?」
「可愛いなーとは思いますけど、まだまだ甘えん坊な男の子にしか見えないですよ。エリスさんもジルくんと同じ同年代の子供を見ても、恋愛感情を抱かないですよね。それと同じです」
「それは、そうなんだけど……」
アーニャさんはキスするくらい本気なのよねー、と言えないエリスは、少しだけ渋い顔をする。
今は恋愛感情がなかったとしても、アーニャと同じ血が流れる妹である以上、ルーナとジルが結ばれてもおかしくない。むしろ、アーニャよりもルーナの方がジルと年が近いため、油断は禁物。ここでルーナの恋心を止めなければ、大変な未来がやってくるかもしれない。
特に、ルーナはスキンシップが多く、随分前からジルの心を射止めているから。
「もしかして、ジルくんと私が付き合うことを願ってたりします? エリスさんが望むなら、ジルくんが大きくなったときに考えますよ。錬金術師と冒険者が結婚するケースは多いですし、成長したジルくんは悪くないと思うんですよね」
変なことを考えてそうだなーと思ったルーナは、ピンポイントで攻める! エリスが素直に聞きすぎたことが災いして、良からぬ方へ話が進んでしまった!
「ダメ! 絶対ダメだから! ルーナちゃんみたいな素敵な女の子にジルはもったいないよ! もっと他に良い人はいるから、絶対に焦らないで」
一番焦っているのは、間違いなくエリスである。アーニャからジルを奪うなど、姉妹の仲が切り裂かれる大事件であり、絶対に現実として起こってほしくはない。何としてでも阻止しなければならない案件である。
「焦ってるのは、エリスさんですよね。ひょっとして、私と義理の家族になるのが嫌なんですか?」
違うの、順調にいけば家族になるの! アーニャさんはジルと結婚することまで考えてるんだから! と、突っ込みたくても、絶対にエリスは突っ込めない!
なお、そんなことをアーニャは一ミリも考えていない!
「ジルとルーナちゃんが結婚することと、ルーナちゃんと私が家族になることは別の問題だよ。ルーナちゃんは性格もいいし、可愛いし、お金もあるし、素敵なお嫁さんになれると思うの」
「エリスさんがそこまで褒めてくれるなら、ジルくんにお嫁さんにもらってもらおうかなー。家族に応援される恋愛って、将来がうまくいくと思うんですよね」
ルーナちゃんの家族は大反対だと思いますけどね! と、喉元まで出かかっているが、グッと堪える!
「わからないよ。実際に付き合ったらうまくいかない人も多いし、同棲したら思ってた人と違うっていう人も多いから」
「でも、今は同棲しているようなものですよね? 一緒の部屋で寝泊まりしていますし」
「ぜ、全然違うよ。今は私とジルが家政婦みたいなもので……」
必死に言い訳を探すエリスは、ルーナとジルがくっつくことを全力で阻止しようと試みる。弟の恋愛を成功させたいと思うより、姉妹の仲が切り裂かれないことに全力を注いでいた。
そんな和やかな二人の話を、扉の前で聞き耳を立てる子供がいる。アイスの在庫を確認したらまだ2日分は確保されていたため、戻ってきたジルである。
――ルーナお姉ちゃん、僕と結婚したいのかな。いつもギュってしてくれるし、頭を撫でてくれるし……。
奇しくも、ジルの恋心とエリスの誤解だけが暴走してしまうのだった。
「ねえねえ、ルーナお姉ちゃん。順調に進んでる?」
「大丈夫だよ。ジルくんの分も平行して作ってるから、もうちょっと待っててね。エリスさんが家にいない午前中しか作業できないし、魔封狼の革でポーチを作るのは初めてで……」
小声で二人が話し合っていると、突然、ガチャッと扉を開けてエリスが入ってくる。
「ジル、今日履いてた靴下に穴が開いてたから捨てる……、何かあった?」
絶対に聞かれてはいけないエリスが入ってきたため、反射的にパッと離れたはいいものの、ルーナとジルの心臓はバックバク。いつもと変わりませんよー、という雰囲気を出しているが、二人が不自然に離れた姿をきっちり目撃したエリスは、険しい表情をしていた。
「えっ? 別に何もしてないですよ。ちょっとジルくんについてたホコリを取っていただけです。ね、ジルくん?」
「う、うん。ホコリがついちゃっただけで、本当に何もしてないよ。ルーナお姉ちゃん、ホコリを取ってくれてありがとう!」
「どういたしましてー」
子供らしく元気にお礼を言うものの、ジルは完全に棒読み状態。どこか落ち着かない様子を見せているため、エリスは妙な雰囲気を感じた。
「ジル、フレンチトーストに乗せるアイスがなくなってるから、先にキッチンで作っててもらってもいい? 私も後で手伝いに行くから」
「はーい!」
逃げ道ができてよかったー、と安心したジルは、スタタタッと飛び出していく。
しかし、これはエリスの罠であり、キラーンッと目が光る。エリスお姉ちゃんも一緒に行こうよー、と甘えてこないことがおかしいのだ。怖がり屋さんのジルは、夜に一人でキッチンへ行こうと思わないから。
姉センサーがビンビンに反応したエリスは、またまた察してしまう。二人は恋仲にあるのではないか、と。
命の恩人であるアーニャさんを裏切るなど、許さる行為ではない。さらに、浮気相手が妹のルーナちゃんであれば、大問題になる。これは、絶対に見逃せない事件であり、弟の過ちを姉である自分が正さなければならない! などと、またまたエリスが行き過ぎた妄想を展開!
無駄な正義感に後押しされたエリスは、ルーナに襲い掛かる!
「ルーナちゃん、何か私に隠し事をしてない? さっきジルとベッタリしてたけど、いつもと雰囲気が違ったよね。私、そういうのに敏感なタイプみたいなの」
アーニャとジルの正しい関係を見抜けていないエリスは、言葉の重みがなさすぎる! それなのに、無駄に自信のあるエリスは圧が強い!
得体のしれないエリスのプレッシャーを受けたルーナは、しおしお……と花が枯れるように俯き、落ち込み始める。エリスの圧に負けたわけではなく、誤魔化すための演技である。
「実は、ジルくんの前では言えなかったんですけど、最近になって、急によそよそしくなることがあるなーって思っていたんです。今もエリスさんが入ってきたら、急に慌てちゃって。何かあったんですか?」
絶対に隠し事をバラしたくないルーナは、話題をすり替える作戦を実行。破壊神アーニャのゴタゴタを何年もフォローし続けたことで、ルーナは巧みな話術と演技力を兼ね備えている。
エリスが目の当たりにしたことを肯定し、逆に何かあったのではないかと心配することで、自分は当事者から外れて立場を逆転してしまうのだ!
「……べ、別にいつもと変わらないんじゃないんかな。私は何も聞いてないよ」
ゴクリッと喉を鳴らしたエリスは、唐突に攻めから守りに回され、焦り始めていた。アーニャとジルの関係をルーナには内緒にする、それがアーニャと交わした約束なのだから。
「そうですか。ジルくんの年齢を考えれば、思春期なのかもしれませんね。私に甘えるところをエリスさんに見られるのが、急に恥ずかしくなったんだと思います。ソッとしておいた方がいいかもしれないですね」
説得力抜群のルーナは、言葉の重みが違う。ジルの年齢と行動を考慮し、あながち間違ってもいないように仕立て上げただけではない。この後、エリスが深追いをしてジルに問いただすことを未然に防いでいた。
これには、さすがのエリスも考えを改め始め……。
(もしかして、アーニャさんに思春期の扉を開けられてから、ジルは恋心をうまくコントロールできていないんじゃないかな。甘やかしてくれるルーナちゃんとも、次のステップを進みたくて仕方がないのよ。キスという、恋愛のネクストステージに!)
さすがエリス! 自分の考えを改めるという言葉を知らない!
唯一、巧みな話術によってルーナの印象が変わったことで、一方的にジルが浮気をしていると判断。恋愛感情をコントロールできないジルよりも、ルーナを味方につけた方が早いと思い、心の内を聞き出すことにした。
「ちなみになんだけど、ルーナちゃんはジルのことをどう思う? 恋愛対象として、見れる?」
「可愛いなーとは思いますけど、まだまだ甘えん坊な男の子にしか見えないですよ。エリスさんもジルくんと同じ同年代の子供を見ても、恋愛感情を抱かないですよね。それと同じです」
「それは、そうなんだけど……」
アーニャさんはキスするくらい本気なのよねー、と言えないエリスは、少しだけ渋い顔をする。
今は恋愛感情がなかったとしても、アーニャと同じ血が流れる妹である以上、ルーナとジルが結ばれてもおかしくない。むしろ、アーニャよりもルーナの方がジルと年が近いため、油断は禁物。ここでルーナの恋心を止めなければ、大変な未来がやってくるかもしれない。
特に、ルーナはスキンシップが多く、随分前からジルの心を射止めているから。
「もしかして、ジルくんと私が付き合うことを願ってたりします? エリスさんが望むなら、ジルくんが大きくなったときに考えますよ。錬金術師と冒険者が結婚するケースは多いですし、成長したジルくんは悪くないと思うんですよね」
変なことを考えてそうだなーと思ったルーナは、ピンポイントで攻める! エリスが素直に聞きすぎたことが災いして、良からぬ方へ話が進んでしまった!
「ダメ! 絶対ダメだから! ルーナちゃんみたいな素敵な女の子にジルはもったいないよ! もっと他に良い人はいるから、絶対に焦らないで」
一番焦っているのは、間違いなくエリスである。アーニャからジルを奪うなど、姉妹の仲が切り裂かれる大事件であり、絶対に現実として起こってほしくはない。何としてでも阻止しなければならない案件である。
「焦ってるのは、エリスさんですよね。ひょっとして、私と義理の家族になるのが嫌なんですか?」
違うの、順調にいけば家族になるの! アーニャさんはジルと結婚することまで考えてるんだから! と、突っ込みたくても、絶対にエリスは突っ込めない!
なお、そんなことをアーニャは一ミリも考えていない!
「ジルとルーナちゃんが結婚することと、ルーナちゃんと私が家族になることは別の問題だよ。ルーナちゃんは性格もいいし、可愛いし、お金もあるし、素敵なお嫁さんになれると思うの」
「エリスさんがそこまで褒めてくれるなら、ジルくんにお嫁さんにもらってもらおうかなー。家族に応援される恋愛って、将来がうまくいくと思うんですよね」
ルーナちゃんの家族は大反対だと思いますけどね! と、喉元まで出かかっているが、グッと堪える!
「わからないよ。実際に付き合ったらうまくいかない人も多いし、同棲したら思ってた人と違うっていう人も多いから」
「でも、今は同棲しているようなものですよね? 一緒の部屋で寝泊まりしていますし」
「ぜ、全然違うよ。今は私とジルが家政婦みたいなもので……」
必死に言い訳を探すエリスは、ルーナとジルがくっつくことを全力で阻止しようと試みる。弟の恋愛を成功させたいと思うより、姉妹の仲が切り裂かれないことに全力を注いでいた。
そんな和やかな二人の話を、扉の前で聞き耳を立てる子供がいる。アイスの在庫を確認したらまだ2日分は確保されていたため、戻ってきたジルである。
――ルーナお姉ちゃん、僕と結婚したいのかな。いつもギュってしてくれるし、頭を撫でてくれるし……。
奇しくも、ジルの恋心とエリスの誤解だけが暴走してしまうのだった。
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