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第1章 タイムトラベル同好会というクラブ
第4話 俺は諦めねえぞ!
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次の朝、俺は寝不足のまま学校に登校した。寝不足というより一睡もしていないというのが正しい。一晩中、未来人について考えていたら眠れなくなったのである。どんな容姿なのか。何の目的で現代に来たのか。パスポートがあるとするとかなり多くの人が未来から来ているのだろうか。考え出したらきりがない。
授業中は睡魔との戦いが続いた。
「よし、次。宮本真歴、読んでみろ。ん? 宮本、宮本真歴はいないのか?」
「ちょっと、宮本君当たってるわよ」
隣の女子が声をかけてくる。
「うん?」
ようやく事態を把握した俺は慌てて立ち上がった。
「宮本! 寝てたんじゃないだろうな?」
「い、いえ、そ、そんなことはありません」
俺はとっさにありきたりの嘘をついた。勿論熟睡していたのであるが。
「じゃあ、教科書を読んでみろ」
「いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。」
俺は教科書を持つと今習っている徒然草を読んだ。ここで寝ぼけた声を出せば寝ていたことがばれてしまう。落ち着いた声でゆっくりと読まなくてはいけない。
「なかなか上手な読み方だ」
「ありがとうございます」
「では今のところを英訳してみろ」
「は?」
いくらなんでも古文を英訳するなんて高度なことは俺にはできない。ただでさえ成績は決して良い方ではないのだ。むしろ悪い方と言えるだろう。いや悪い方というより常に赤点と戦い続ける戦士と言うのが正しい。『なぜ俺がこの有名進学校に合格できたのか』というのが学校の七不思議になりつつあるくらいだ。
「ええっとー」
困った俺は次なる打開策を必死で考えたが、どうすることもできないと察すると正直にギブアップを申し出ることにした。
「すみません、俺の実力では無理です」
「そうか。それは残念だ。一つだけいいことを教えてやろう。今は英語の時間だ」
確かに今教壇にいるのはまごうことなき英語の先生である。なんと!! 俺は一時間以上寝ていというたのか。いや、古文の時間は一限目だ。そして英語の時間は四限目である。もしかして三時間も寝ていたのか? これはひどい。全く気付かなかった。
英語の先生は軽く笑みを浮かべて俺に言った。
「授業中に寝てしまって、次の授業になっているのに気付かないのはよくあることだ」
「それではお許しを」
「はははは。もちろん減点だ」
ちょっと待て! 期待を持たせておいてそれはなかろう。しかしこれはまずいことになった。ただでさえ赤点ぎりぎりセーフといった成績なのに、これ以上減点されると赤点が決定してしまうではないか!
「社会の先生もよく寝ていたと言ってたぞ」
起こせよ!!!
ああ、社会も減点か~。何で誰も起こしてくれないんだ? 俺は右横に座っている女子を見た。次の左横に座っている男子を見た。当然、胡桃以外の女子に免疫がない俺は左の男子に声を掛けた。
「どうしてもっとは早く起こしてくれなかったんだ?」
「古文の時間に起こしたさ。でもわけのわからない寝言が帰ってくるだけだったし」
相当熟睡していたようだ。
「三限目を過ぎた辺りからはどれだけ寝続けることができるんだろうっていう興味本位から放置してみた」
「おい!」
今日は最悪の一日となってしまったが、放課後が近付くに連れて俺は元気を取り戻していった。未来人捜しができると思うと胸が弾むからだ。昨夜は変な邪魔が入ってできなかったが放課後に直接駅前に行けば母親も胡桃も俺を止めることはできないだろう。俺は学校を出ると真っ先に昨日の雑居ビル群へと向かった。
真面目な俺としては部活を無断で休むなどもってのほかなのだが背に腹は代えられない。他の部員か顧問の先生には一言言ってくるべきだったかもしれない。だが胡桃に知れたらここに来られなくなる可能性もある。これは仕方のない選択だったのだ。俺は必死で自分に言い訳をすると未来人捜しに入った。
しかし、今日も注意深く観察したにも関わらず未来人を見つけることはできなかった。こうなると作戦第一弾を決行するしかないだろう。
俺は大きく深呼吸すると大声で叫んだ。
「未来人だ~」
通りがかりの人が俺の方を振り向く。予定通りだ。この中で慌てた人物がいれば、その人物こそ未来人というわけだ。だが、怪しい素振りをする人はいない。それどころか街を歩く人々は俺の方を一瞬見るだけで何事もなかったかのようにまた歩き出してしまう。仕方ない。俺は再び大きく深呼吸をした。
「ちょっと止めなさいよ!」
胡桃の声だ。
「部活に来ないから変だと思ってここへ来てみたら、何恥ずかしいことしてるのよ」
胡桃の顔は真っ赤になっている。
「未来人を捜してるに決まってるじゃないか」
見つかるの早すぎだろう。でも考えてみれば今は明るい時間。胡桃に止められる理由はないのでは?
「もう少しましな方法はないの?」
どうやら止めに来たわけではないらしい。
「そうか。じゃあ、次の作戦にする」
俺は作戦一を諦め、作戦二を実行することにした。
「今度は何をするつもりなの? とにかく恥ずかしいのは止めてよ」
「例の定期券を見せて廻るんだ。反応した奴がいたらそれが未来人てわけだ」
「それもそれなりに恥ずかしいような」
「なんで恥ずかしいんだよ。それより定期券を出せよ」
俺は手を差し出した。例の定期券は胡桃が持っているのを思い出したのだ。
「い、嫌よ」
「どうしてだ?」
俺には胡桃の反応が理解できなかった。止めに来たんじゃないんだろう? なんで駄目なんだ?
「私は信じないけど、もし、もしもよ。本当の未来人に出会ってしまったら、危ないんじゃない?」
はあ? 何言い出すんだ? まあ、未来人の存在を少しでも認めてくれたことは嬉しいが、これはさすがに心配しすぎじゃないか?
「なんで危ないんだよ」
「だって、未来人にとっては秘密がばれたわけでしょ。もし、秘密を守ろうとしたら・・・・」
「記憶を消されるとかか?」
「それで済めばいいけど、抹殺されるとか」
その可能性はあり得る。しかしだ。虎穴に入らずんば虎児を得ずという諺もある。ここは敢えて危険を冒して。いや、待てよ。もしかして未来に強制送還されるかもしれないのでは? そうしたら未来に行ける!
「よし、頑張るぞ!」
「ちょっと、私の話聞いてる?」
「いいか、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ」
「何考えてるのよ」
「もしかして未来へ強制送還されるかもしれないじゃないか? そうしたらタイムマシンに乗れるんだぞ」
「バカじゃないの。そううまくいくわけないでしょ。真歴って昔から考えなしに行動するんだから」
これだから幼馴染みは困る。俺のことをなんでも知ってやがる。
授業中は睡魔との戦いが続いた。
「よし、次。宮本真歴、読んでみろ。ん? 宮本、宮本真歴はいないのか?」
「ちょっと、宮本君当たってるわよ」
隣の女子が声をかけてくる。
「うん?」
ようやく事態を把握した俺は慌てて立ち上がった。
「宮本! 寝てたんじゃないだろうな?」
「い、いえ、そ、そんなことはありません」
俺はとっさにありきたりの嘘をついた。勿論熟睡していたのであるが。
「じゃあ、教科書を読んでみろ」
「いでや、この世に生まれては、願はしかるべき事こそ多かめれ。」
俺は教科書を持つと今習っている徒然草を読んだ。ここで寝ぼけた声を出せば寝ていたことがばれてしまう。落ち着いた声でゆっくりと読まなくてはいけない。
「なかなか上手な読み方だ」
「ありがとうございます」
「では今のところを英訳してみろ」
「は?」
いくらなんでも古文を英訳するなんて高度なことは俺にはできない。ただでさえ成績は決して良い方ではないのだ。むしろ悪い方と言えるだろう。いや悪い方というより常に赤点と戦い続ける戦士と言うのが正しい。『なぜ俺がこの有名進学校に合格できたのか』というのが学校の七不思議になりつつあるくらいだ。
「ええっとー」
困った俺は次なる打開策を必死で考えたが、どうすることもできないと察すると正直にギブアップを申し出ることにした。
「すみません、俺の実力では無理です」
「そうか。それは残念だ。一つだけいいことを教えてやろう。今は英語の時間だ」
確かに今教壇にいるのはまごうことなき英語の先生である。なんと!! 俺は一時間以上寝ていというたのか。いや、古文の時間は一限目だ。そして英語の時間は四限目である。もしかして三時間も寝ていたのか? これはひどい。全く気付かなかった。
英語の先生は軽く笑みを浮かべて俺に言った。
「授業中に寝てしまって、次の授業になっているのに気付かないのはよくあることだ」
「それではお許しを」
「はははは。もちろん減点だ」
ちょっと待て! 期待を持たせておいてそれはなかろう。しかしこれはまずいことになった。ただでさえ赤点ぎりぎりセーフといった成績なのに、これ以上減点されると赤点が決定してしまうではないか!
「社会の先生もよく寝ていたと言ってたぞ」
起こせよ!!!
ああ、社会も減点か~。何で誰も起こしてくれないんだ? 俺は右横に座っている女子を見た。次の左横に座っている男子を見た。当然、胡桃以外の女子に免疫がない俺は左の男子に声を掛けた。
「どうしてもっとは早く起こしてくれなかったんだ?」
「古文の時間に起こしたさ。でもわけのわからない寝言が帰ってくるだけだったし」
相当熟睡していたようだ。
「三限目を過ぎた辺りからはどれだけ寝続けることができるんだろうっていう興味本位から放置してみた」
「おい!」
今日は最悪の一日となってしまったが、放課後が近付くに連れて俺は元気を取り戻していった。未来人捜しができると思うと胸が弾むからだ。昨夜は変な邪魔が入ってできなかったが放課後に直接駅前に行けば母親も胡桃も俺を止めることはできないだろう。俺は学校を出ると真っ先に昨日の雑居ビル群へと向かった。
真面目な俺としては部活を無断で休むなどもってのほかなのだが背に腹は代えられない。他の部員か顧問の先生には一言言ってくるべきだったかもしれない。だが胡桃に知れたらここに来られなくなる可能性もある。これは仕方のない選択だったのだ。俺は必死で自分に言い訳をすると未来人捜しに入った。
しかし、今日も注意深く観察したにも関わらず未来人を見つけることはできなかった。こうなると作戦第一弾を決行するしかないだろう。
俺は大きく深呼吸すると大声で叫んだ。
「未来人だ~」
通りがかりの人が俺の方を振り向く。予定通りだ。この中で慌てた人物がいれば、その人物こそ未来人というわけだ。だが、怪しい素振りをする人はいない。それどころか街を歩く人々は俺の方を一瞬見るだけで何事もなかったかのようにまた歩き出してしまう。仕方ない。俺は再び大きく深呼吸をした。
「ちょっと止めなさいよ!」
胡桃の声だ。
「部活に来ないから変だと思ってここへ来てみたら、何恥ずかしいことしてるのよ」
胡桃の顔は真っ赤になっている。
「未来人を捜してるに決まってるじゃないか」
見つかるの早すぎだろう。でも考えてみれば今は明るい時間。胡桃に止められる理由はないのでは?
「もう少しましな方法はないの?」
どうやら止めに来たわけではないらしい。
「そうか。じゃあ、次の作戦にする」
俺は作戦一を諦め、作戦二を実行することにした。
「今度は何をするつもりなの? とにかく恥ずかしいのは止めてよ」
「例の定期券を見せて廻るんだ。反応した奴がいたらそれが未来人てわけだ」
「それもそれなりに恥ずかしいような」
「なんで恥ずかしいんだよ。それより定期券を出せよ」
俺は手を差し出した。例の定期券は胡桃が持っているのを思い出したのだ。
「い、嫌よ」
「どうしてだ?」
俺には胡桃の反応が理解できなかった。止めに来たんじゃないんだろう? なんで駄目なんだ?
「私は信じないけど、もし、もしもよ。本当の未来人に出会ってしまったら、危ないんじゃない?」
はあ? 何言い出すんだ? まあ、未来人の存在を少しでも認めてくれたことは嬉しいが、これはさすがに心配しすぎじゃないか?
「なんで危ないんだよ」
「だって、未来人にとっては秘密がばれたわけでしょ。もし、秘密を守ろうとしたら・・・・」
「記憶を消されるとかか?」
「それで済めばいいけど、抹殺されるとか」
その可能性はあり得る。しかしだ。虎穴に入らずんば虎児を得ずという諺もある。ここは敢えて危険を冒して。いや、待てよ。もしかして未来に強制送還されるかもしれないのでは? そうしたら未来に行ける!
「よし、頑張るぞ!」
「ちょっと、私の話聞いてる?」
「いいか、虎穴に入らずんば虎児を得ずだ」
「何考えてるのよ」
「もしかして未来へ強制送還されるかもしれないじゃないか? そうしたらタイムマシンに乗れるんだぞ」
「バカじゃないの。そううまくいくわけないでしょ。真歴って昔から考えなしに行動するんだから」
これだから幼馴染みは困る。俺のことをなんでも知ってやがる。
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