タイムトラベル同好会

小松広和

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第3章 未来への旅立ち

第23話 予想以上に謎の女『萌』

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 暫く走ると大広間に出た。壁や天井には壮大な大自然が映し出されている。流れる雲の合間からは木漏れ日すら見える。空の天候によって微妙に姿を変える景色はなんともリアルで凄い。そして、その大自然の中には幾つかの滝が流れていた。

「もう出口があってもいいころなのに。見当たらねえ」
俺は焦りから少し苛立った声になる。
「そんなはずはないわ。この大広間のどこかに出口はあるはずよ」
胡桃はキョロキョロと辺りを見回した。
「でもどこにも扉らしい物はないわ」
萌が俺の背中から言う。

「きっとあの滝が出口よ」
突然、胡桃がとんでもないことを言い出した。いくら何でもそれはなかろう。もし扉があるなら壁に少しは凹凸があるはずだ。だが全くそれらしい物は見当たらない。普通の平べったい壁に綺麗な映像が映し出されているだけだ。

「どうしてそんなことが分かるの?」
萌が聞いた。
「さっき人が滝から出てきたのよ」
その時、後ろから警備員の声がしてきた。遂に見つかったか。定期券の誤魔化しなどそう長く続くものではない。

「よし、行ってみるぞ」
俺は胡桃の方を見て言った。また胡桃だけに話しかけてしまったが、萌は俺の背中にいるのだ。顔を見られるわけがない。きっとわかってくれるだろう。と思ったが、何やら背後から首を絞められている気がする。少し苦しいぞ。

「行くってどこへよ?」
「滝に決まってるじゃねえか」
そう言うと俺は滝へ向かって走り出した。
「ちょっと待って!」
胡桃が後から付いてくる。

 俺たちは思いきって滝に突っ込んでいった。何かに当たるショックは全くなかった。俺の視界は真っ白になったかと思うと次の瞬間全く見たことのない風景が飛び込んできた。これが未来の街なのか。そこには見たこともない光景が広がるばかりだ。

「やはりただの立体映像だったな」
「そうみたいね」
安堵の表情で胡桃が言った。
「でも壁に向かって走るって勇気いるわね。萌は思わず目を瞑っちゃった」

 とりあえず俺達は建物から遠ざかることにした。いつ警備員が追ってくるかわからない。ある程度建物から離れ、後ろから誰も追ってこないのを確認すると俺たちは立ち止まった。
「ここまで来れば安心だろう」

 俺達が落ち着きを取り戻しかけた時、胡桃が大きな声を上げた。
「ちょっと!」
「どうした胡桃?」
「いつまで萌をおぶってるのよ!」
萌は軽いのでさほど負担ではなかったこともあってすっかり忘れていたのだ。

「そ、そうだな」
俺は慌てて萌を下ろそうとしたが、萌はなかなか下りようとしない。
「どうして下ろさないのよ!」
胡桃の声は徐々に不機嫌なものになっていく。
「まさかもう少しおぶっていたいなんて思ってないでしょうね!?」
「そんなこと思ってねえ!」
とんだ誤解だ。俺の場合こういう誤解がきっかけで臨死体験をする羽目になることが非常に多い。

「萌は私と違って可愛いものね?」
口調がまずい。我を忘れかけている時の口調だ。付き合いが長い故に口調の違いで胡桃の感情がわかる。
「萌が下りようとしないんだ!」
萌はここぞとばかりに俺にしがみ付いてくる。そしてあろうことか胡桃に向かって舌を出して挑発した。

「早く下りなさいよ!」
胡桃が萌の腕を引っ張ったが、萌もなかなか強情だ。俺の背中に必死でしがみ付いてなかなか離れない。胡桃の腕力に抵抗しているのだから萌も結構強いのかも知れない。
「下りるの嫌って言ったらどうする?」
萌が小悪魔的な笑みを浮かべて言った。
「まさか歩けないって言うの嘘じゃないでしょうね!?」
「さあ、どうかしら?」
「あなたとはいずれ決着を付けないといけないと思っていたけど、今日がその日みたいね」
「あら愛する人を巡っての戦いなんて素敵だわ」

 萌、何を言ってるんだ? 自ら死亡フラグを立てまくってるのがわからないのか?
 萌はゆっくりと俺の背中から下りた。

「一時停戦中だよな?」
俺の声は情けないほど小さく震えている。
「私とあなたでは勝負にならないと思うけどいいのかしら?」
胡桃は余裕の笑みで萌を睨み付けた。

「私の実力を知らずにそんなことを言えるなんて、あなたって本当におめでたい人ね」
そんなこと言って知らないぞ! 胡桃の強さは俺が身をもって経験済みだ。悪いことは言わないから今のうちに謝っておけって。あれ? 今自分のことを『萌』と言わずに『私』と言った?

 怒りに満ちた胡桃がオーラを纏いながら萌に近づいていく。こういう場合俺はどういう態度を示したらいいんだ? 体格差から考えて萌がかなり不利だ。萌の華奢な体で胡桃の蹴りを食らったら下手すりゃあ再起不能になるぞ。ここは男として萌を守るべきなのでは? しかし、そんなことをすれば胡桃の怒りに油を注ぐことになるのは見えている。

 胡桃が攻撃態勢に入る。だが萌は無防備のまま笑顔で胡桃を見ている。俺は思わず萌の前に立って両手を広げた。次の瞬間、胡桃の蹴りが俺の延髄を襲う。俺は思わず頭を抱えて蹲った。普通『退きなさい』くらいの言葉は掛けるだろう?

「宮本君、大丈夫?」
萌が俺のそばに来て俺の肩を抱きかかえた。
「真歴に触れるな!」
そう叫ぶと胡桃の蹴りが萌を襲った。もうダメだ! そう思った瞬間、萌は胡桃の蹴りを腕で簡単に受け止めた。
「え?」
胡桃の小さな呟きが聞こえてくる。

「あなたの蹴りってこの程度なの?」
萌は涼しい顔でノーダメージをアピールしている。どうなってるんだ?
「もう終わりかしら? だったら私が攻撃をさせて貰うわよ。いいかしら?」
「そんな思いっきり蹴ったのに・・・・」
萌がゆっくりと立ち上がった時、遠くから男の声がした。
「いたぞ!」
警備員だ。

「逃げるぞ!」
俺の一言で三人は全力で走り出した。
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