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第1章 運命の出会い

第1話 落ちこぼれ魔女

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 澄み渡った青空に羊の雲がゆっくりと流れていきます。何て清々しい昼過ぎなんでしょう。
「リーサ。魔法でこのモンスターにとどめを刺すんだ!」
「あ、はい」
そんなことを言ってる場合ではありませんでした。今は戦闘中です。
「オイルシャワー!」
ドドン!
「炎系のモンスターに油を注いでどうするんだ!」
「ひぇー、ごめんなさーい」

 そして戦闘終了です。なんとか勝てました。もう少し楽に勝てるかと思いましたけど。何が悪かったのでしょう?
「リーサ、悪いがこのパーティーはお前を必要としていないようだ。他を当たってくれ」
これで今月3回目の解雇です。

 私の名前は「メンジョー・リーサ」。このようにカタカナで書くと格好よく見えますが、漢字で書くと「毛受理沙」。ごく普通の日本人です。名字はちょっとだけラノベ風に変わっていますけど。

 私はまだまだ駆け出しの魔法使いと言いたいところですが、この異世界ですでに1年以上魔法使いをしています。どうして強い魔法使いになれないのでしょうか? 本当に不思議です。

 ところで新しいパーティーを探さなければいけません。私一人ではモンスターに勝てない気がしますので。とりあえず酒場に行ってみます。私はお酒を飲めないんですけど、異世界での情報はほぼ酒場から発信されるのですから仕方ないですね。

「何になさいますか?」
早速、私より少しだけ可愛い店員さんが注文を聞きに来ました。
「フレッシュドリアンジュースをください」
「そのようなものはございません」
場を和ませるジョークだったのですが華麗にスルーされてしまいました。よく考えたらこのテーブルには私しかいませんから和ませる必要はないですよね。私より少し可愛い店員さんを和ませても仕方ないですし。

「フレッシュ納豆ジュースならありますが」
さすがにそれは遠慮しておきます。
「オレンジジュースをください」
パーティーの募集や依頼は掲示板に貼ってあることが多いのですが、今は多くの人がいますのでもう少しジュースを飲んで待つことにします。

 そして待つこと十数分。ようやく掲示板の前が空きました。行ってみることにします。
『レベル50以上の賢者求む』
いきなり論外の求人募集でした。
『女性による女性だけのパーティー募集』
これはいいかもしれません。写真も貼ってありました。……全員私より美人なのでパスすることにします。
『勇者募集。我々に救いの手を』
主人公を募集してどうするんですか?
『マッスル集団。仲間募集』
強い人達に混ざれば私のレベルも上がりやすいかもしれません。
『ただしコスチュームは短パン、上半身裸なのでよろしく』
これまた論外でした。今日は碌な募集がありません。やはり私は一人コツコツとレベル上げをしていくしかないようです。

「現在レベル15の魔法使いです。趣味は手芸。特にクロスステッチが得意です。誰か私を必要とする方は居ませんか?」
と小さな声で言ってみました。やはり誰も聞いてませんね。私は注文したオレンジジュースを飲み干すと酒場を後にして当てもなく歩き始めるのでした。ちょっと虚しいです。
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