ブラックテイルな奴ら

小松広和

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第十章 内緒の話

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 翌日、学校へ行ってみると俺の周りから明らかに人が減った。クラスメイト全員が俺を避けるようにひそひそ話をしている。どうやら噂が更に広まったらしい。不良グループからカツアゲをされていた俺が一番の候補と思われても仕方ないだろう。
 俺は窓の外を眺めながら溜息をついていると、隣のクラスから小百合が俺の所にやってきて言った。
「四郎君ちょっと来て。話したいことがあるの」
教室に居づらい状況に立たされている俺は小百合について行くことにした。
 小百合は俺を屋上まで連れて行くと手摺りにもたれるようにして晴れ上がった空を見上げている。俺はそんな小百合の近くに行くと同じように空を見上げて言った。
「話って何だ?」
「うん。何から話せばいいのかな?」
小百合は空を見ていた時とは逆に俯いて両手をもじもじ動かしている。
「夕べはよく眠れなかったんだ私。だって初めてだったから」
まだ俯いたまま話す小百合。
「何が初めてだったんだ?」
「四郎君に面と向かって『好き』って言ったの」
俯いた状態から顔を上げ俺を見つめる小百合は美しくかわいかった。こんな表情を見ると思わず抱きしめたくなる。他に誰もいないのだから抱きしめればいいのだが、それができないところに俺の思いきりの悪さがあるのだろう。
 俺は顔を赤らめながら言った。
「そ、そうだっけ」
「四郎君、私が好きって言ったの聞いたことある?」
「言われてみればないかな?」
「何よ、その曖昧な返事は」
「いや、その、今更改めて言わなくてもいいような雰囲気で来てたし」
「そう言えばそうよね」
何とかピンチを乗り越えたようだ。
「それでね。私決めたの。四郎君には何でも話そうって」
「え?」
「わかったのよ。四郎君のことが本当に好きなんだって」
「ほ、本当か? 本当だったらとてもうれしいよ、小百合」
俺は自然と小百合の両手を包み込むように握っていた。小百合は俺を真剣な眼差しで見つめている。二人の心が通じた気がした。やがて小百合はそっと目を閉じた。
 え!? こ、これってもしかしてキ、キ、キスを待ってるのか? いやそんなうまい話があるわけない。でもこのシチュエーションは間違いなく‥‥とはいえ絶対そうに違いないと思えるが自信もない。しかし、この雰囲気だ、間違っていても許されるのではないだろうか? そうだ、そうに違いない。俺は意を決して小百合に顔を近づけていった。
だが、その時、
「させるか~」
という声と共に俺の体が固まった。え!? この大切な時になんで? ただ固まっただけならまだよかった。何とあろうことかグーで小百合の頭を殴ってしまったのだ。もちろん俺の意志ではない。手が勝手に動いて‥‥
「痛い! 何? 四郎君ひどいよ。百年分の勇気を振り絞って目をつむったのに」
小百合は両手を顔に当てて泣き出した。
「違うんだ! 手が勝手に動くんだ! 信じてくれ!」
俺の手はまた小百合を殴ろうとするが、必死で腕に力を入れてこれを阻止した。
「何言ってるの四郎君? どういうことなの?」
妙な腕のしぐさを見つめながら小百合が聞いた。
「もしかしてマリーの仕業かもしれない。俺の服のポケットにマリーがいないか見てくれ」
小百合がポケットを探そうとすると、俺の体は向きを変え転落防止の手摺りに足をかけた。
「こうなったら無理心中よ!」
と叫ぶマリーの声を聞くと、小百合は俺の腰に抱きつき手摺りから俺を引っ張った。その拍子に二人はコンクリートの床に倒れ込んでしまったが。
「あっ! 見つけたわ」
小百合は俺の胸ポケットから飛び出したマリーを掴み上げた。
「今のはクロの仕業って本当なの? これどういうこと?」
小百合が少し息を切らせながら聞く。
「こらあ、クロって言うなあ!」
マリーがじたばたしながら叫ぶと、
「じゃあ、ベチャ・ウン‥‥」
と小百合が応戦する。
「わ、わかったわよ。クロでいいわ」
分の悪いマリーは大人しくなった。
「こいつ黒魔術が使えるんだ」
俺は起き上がりながら答える。
「黒魔術?」
「ああ、魔力が強いと何だってできるそうだ」
「ふうん」
小百合はマリーを目の高さに上げて頷いた。
「何よ」
マリーは視線をそらす。
「あなたそんな能力を持ってたの? 全然知らなかったわ」
「それがどうしたのよ。あなたには関係ないでしょ」
「関係あるわよ。あなたは今魔法を使って四郎君を殺そうとしたのよ。私の大切な四郎君をね」
「魔法じゃないわ。魔術よ」
「どちらでも一緒よ!」
「違うわ。魔法はちょこちょこっとできちゃうもので、魔術は材料や呪文を科学的に分析して初めてできるものなのよ」
それを聞いて俺は思わず口を挟んだ。
「俺も魔法って言ってたような気もするが」
「あなたはいいのよ。大したことじゃないし。でもこいつが間違えるのは許せないの!」
「それっておかしいでしょう!?」
「何とでも言いなさい。私は好きな人には寛容なだけよ」
「何が好きな人に寛容よ。殺そうとしたくせに」
「殺すつもりなんてないに決まってるじゃない」
「バカじゃないの。ここは屋上よ。校舎の四階に当たる所よ。落ちたら間違いなく死ぬわ!」
「地面に着く直前に気圧を高め空気の絨毯を作り、反重力磁場を地面にぶつければ大丈夫よ」
大変残念な話だが、俺には何を言ってるのかさっぱりわからない。
「落ちる途中にショック死する可能性もあるのよ。地面まで何秒で着くかわかってるの?その短い時間でこれだけの操作を確実にできるの? 私だったら好きな人を危険な目に遭わせたりはしない」
「私の計算に狂いはないわよ!」
「大好きな人に怖い思いなんてさせたくないもの」
「それは‥‥」
その時、二人を仲裁するように予鈴のチャイムが鳴った。
「今回はここまでのようね」
睨み合ったまま二人は同時に同じ台詞を言った。
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