ブラックテイルな奴ら

小松広和

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第三十五章 出発

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 ファイヤードラゴンがゆっくりと近付いてくる。俺はライフルを撃ちながら逃げるが一向に当たらない。ファイヤードラゴンのスピードが徐々に上がってきた。俺はライフルを捨て必死で走る。やがて俺の上空が暗くなってくる。ドラゴンの影だ。俺が上方を見上げたと同時に巨大なドラゴンの足が俺の頭上へと向かってきた。
 プチッ

 俺は飛び起きると辺りを見回した。
「何でドラゴンに踏みつぶされる夢を見るんだ?」
時計の針は午前三時を指している。起きるのにはまだ早い時刻だ。今夜のマリーは両親と一緒に『川』の字になって寝ている。マリーがここに来てから初めて見る光景だ。それだけ今日が重要な日であることを示しているのだろう。
 このまま逃亡してしまおうかという考えが脳裏をよぎる。しかし、そんなことをしたら小百合や芽依に何と言われ続けることか。もし小百合と結婚しないのなら将来的に大した影響はないだろう。しかし、芽依はそういうわけには行くまい。実の妹である以上、一生言われ続けるのは必至だ。
 俺はマリーの寝ている方を向いてもう一度目を閉じた。

 朝になるとほぼ全員眠そうにしていた。きっとみんなもよく眠れなかったのだろう。
「よし、暗記完了」
いや、約一名は遠足にでも行くように元気なのだが。
「いよいよ出発する時が来たわね。今からでも遅くないわ。反対する者はいない?」
「俺は反対だ」
「じゃあ、出発ね」
「人の話を聞け!」
マリーが呪文を唱えると黒い渦巻きが現れた。
「これが異世界への入り口よ。一歩入ればみんなは罪人になるわ」
「わかってる。不法侵入でしょ?」
「そうよ」
「早く行こうよ♪」
「一応安全な場所に繋いであるつもりだけど、死角の部分に何がいるかわからないわ。最初に入るのは一番強い人か一番どうでもいい人が入るのがベストね」
「一番強い人ってどうやってわかるの?」
「はっきり言ってわからないわ。だから一番どうでもいい人で行きましょう」
そういうと三人は一斉に俺の背中を押した。おい! どういうことだ!
 俺が飛び込んだ場所は草原だった。少し離れた所に大きな森が見える。遠くの方からは獣の鳴き声のようなものが聞こえてくる。
「全く好きだとか言いながら何なんだこの扱いは?」
俺がぶつぶつ呟いていると、他のみんなも恐る恐る入ってきた。
 俺はそれを見て少しドキッとする。マリーが尻尾アクセサリーではなく美少女の姿になっているからだ。
「こちらの世界では私は常にこの姿よ」
視線を感じたのかマリーは突然言った。この光景に小百合はやや不服そうな顔をしている。
「ここはドラゴンが住む森の入り口よ。森と言っても木は少なめだから安心して」
マリーはキュートな笑顔で話す。こんな笑顔をされたら誰だって恋に落ちてしまうだろう。別に俺が特別なわけじゃない。男なら当然のことだ。
 それを察してか小百合は俺を睨みつけている。
「今から戦闘服と武器を渡すわね」
マリーは俺達を並ばせ、得体のしれぬ粉を振り掛け呪文を唱えた。すると今着ていた服が一瞬にして変わっていく。
 俺は中世ヨーロッパの騎士が着る鎧の格好だが何故か兜はない。小百合はお姫様がきそうなドレスに透明なローブをつけている。芽依はいかにも魔法少女と言った感じの服装だ。マリーは黒いワンピースに大きなベルトを締めている。
「俺の姿はわかるがお前たちはどうしてスカートなんだ?」
「あら、あなたたちの世界に合わせてコーディネートしたのよ。若い女の子が魔法や魔術を使って戦う時はスカートにしなければいけないって習ったわ」
「それにしても身を守るための服には見えんのだが」
「魔法少女とかいうのは機能性よりファッション性を重視した服装でなくてはいけなんじゃなかったの?」
やはり日本の文化が間違って伝わっているようだ。いや、これは文化というのか?
「次に武器ね」
マリーは小百合に日本刀を、芽依に杖を、そして俺にライフルを渡した。
「今渡したのは只の武器じゃないわ。魔力が封じ込められている武器よ。心から念ずることで様々な力を発揮するわ」
何かややこしい話になってきたぞ。念ずるって何なんだ?
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