控えなさい! 私はマリーよ!

小松広和

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第八十三話 将を射んと欲すればまず馬を射よ

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「四郎様、こちらの服はいかがでしょうか」
「何か高そうな服だけどいいのかな?」
「いえ、このくらい高価な方が四郎様にお似合いです」
「そ、そうかなあ」

「この頃、ホワイティーがやたらと四郎の世話を焼いてるわね」
「どうしたのかしらね」
私はスペシャルドラゴンフルーツを頬張りながら小百合と会話を続けた。このスペシャルドラゴンフルーツは先ほどアリアが持ってきた物だ。

「私の気を引くのは諦めたのかしら?」
「ホワイティーさんて頭が回りそうだから、きっと何か考えがあるのよ」
「よくわからないわね」

 四郎はニコニコで新しい服を着ると鏡に前でポーズを取っている。
「四郎様、よくお似合いですよ」
「本当? ありがとうホワイティー」

「四郎って意外にチョロいわね。あんなことで喜んでるわ。もしかしてあんたがいなかったら速攻で私になびいてたんじゃない?」
「そこは否定しないわ。かなりの女好きよね。たぶん、ちょっと甘えるだけで落ちるタイプね」
「だから菫に手を出していたってわけね」

 離れた場所にいた菫がこちらに向かってくる。聞こえたのかしら?
「何か私のことを言われてた気がしたんだけど」
鋭い勘ね。
「別にあなたのことなんか話してないわよ。四郎がホワイティーの挑発にすっかり乗ってるみたいだから軽い男だって話してただけよ」
「マリーもそう思うの? 四郎君て簡単に女になびいていくところあるよね」

 菫でさえわかってたんだからこれは本物ね。
「問題はホワイティーの本心よね。何で四郎に絡んでるわけ?」
「まさか四郎君を好きになったってことはないだろうし」
小百合は珍しくだらっとした格好で言った。
「どうしてそんなことがわかるの?」
菫が素朴に聞く。

「考えてみなさいよ。この城内では四郎君はマリーの婚約者だっていう間違った情報が流れているのよ」
「何で間違った情報なのよ」
「お姫様のフィアンセを堂々と奪ったりする? 下手すれば死刑よ。もし本気で奪おうとするなら普通隠れてするでしょう」
「私なら堂々とするけど」
「菫は脳細胞が少なめだからそう思うだけよ」
「そうか。なるほど」
どうやら菫に間接的な表現は通じないみたいね。はっきり『バカだから』と言った方が良かったかしら。

 そして一週間後ホワイティーの策略がわかってきた。
「マリー様。冬用のコートを用意いたしました。こちらでよろしいでしょうか?」
「そうね」
私が何気ない返事を返すと、突然四郎が私とアリアの会話に入ってきた。

「さっきホワイティーが持ってきたコートの方がいいよ」
「そうかしら?」
「ホワイティー、さっきのコート持ってきて」
「はい、かしこまりました」
ホワイティーは部屋の外で様子を伺っていたかのように部屋にコートを持って飛び込んできた。

「ほら、いいだろ?」
「そうね。ホワイティーの用意した方にするわ。これをクローゼットにしまっておいて」
これを聞くとアリアは、
「失礼します」
とだけ言って部屋を出て行った。

「わかったわ!」
小百合が急に椅子から立ち上がって声を上げた。
「何がわかったのよ?」
「日本には『将を射んと欲すればまず馬を射よ』という諺があるのよ」
「何よそれ。兵士を狙わないで乗り物を狙ってどうするのよ」
「馬に乗った兵士は機動力もあってとても強いわ。でも、馬を下りた兵士は急に弱体化するの。だから敵兵を倒そうと思ったら先に馬を倒して弱体化させてから戦った方が有利になるという意味よ」
「なるほど理に適ってるわね」
「ホワイティーはマリーに気に入られるためには、マリーの心情に影響力をあたえる四郎君を味方に付けるのがいいと考えたわけね」
「ホワイティー、なかなかやるわね」

 しかし、更に一週間後ホワイティーの作戦は思わぬ方向に進んでいく。
「ホワイティー! 今日は来るのが遅かったね」
「はい、食事の支度に手間取りまして」
「食事が終わったら二人で散歩しない?」
「こ、困ります」
「どうしてだよ? そうだ! じゃあ、二人でお風呂に行こうか。背中を流してあげる」
「な、何を言い出すんですか?」
ホワイティーは慌てて私を見る。私はわざと睨みつけてやった。

「し、失礼します。まだ用事がありますので」
「ホワイティー、どうして逃げるの?」
「ごめんなさい‥‥急ぎの用事がありますので」
ふん。女好きの男に近寄るこらこうなるのよ。その後、ホワイティーは部屋に来るのを躊躇うようになったため、アリアが有利になっていくのであった。

「あの作戦やらなくてよかったわ」
アリアも同じことを考えていたんかい! よく考えてみたら私の周りって美人ばかりじゃない。四郎の性格を考えたら危なっかしいわよね。また新たな悩みが生じた私なのだった。
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