控えなさい! 私はマリーよ!

小松広和

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第百五話 身分証明証

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 ピンチは突然やってくる。
「身分証明書を見せなさい」
『どうしてこんなところで検問をやっているわけ?』
『知らないわよ』
こんなとこところとは家も畑もない果てしなく一本道が続く平原である。

「どうしてこんなところで検問をしているのですか?」
『菫! 変なことを聞くんじゃないわよ!』
「だって気になるじゃない』
「女四人と男一人の旅人を捜している。お前達は丁度その人数に当たるな」
「その人達がどうかしたんですか?」
「ああ、お姫様の大切なものを盗んだ疑いだ」

『やっぱり』
『やっぱりじゃないわよ』
「ところで身分を証明できるものはないのか?」
「はい、私達この辺りに住んでおりますので」
「そうか」
警察官らしき人物はメモを取り始めた。

「ん?」
突然メモを取るのを止めた警察官はさっきからの話し相手である菫を睨んで尋ねた。
「この辺りって家があるのか?」
「え?」
『もう、菫が適当なこと言うからでしょ!』
『だって』

「ち、違うんです。この辺りに住んではいますが、私達は遊牧民ですので家を持っておりません」
「遊牧民? 何だそれは?」
『しまったわ。この世界には遊牧民ていないみたい』
『小百合だって変なこと言ってるじゃない。遊牧民なんて聞いたことないわ』
『それはあんたの勉強不足よ!』

「何をこそこそ話しておる。怪しい奴め」
「すみませんでした。遊牧民とは野宿をしながら定住地を捜す民のことです」
『小百合さん、それ違うよ』
『いいのよ芽依ちゃん。どうせこの世界の人は遊牧民を知らないんだから』

「それでお前達はどこに向かっているのだ?」
「はい、黄色の国です」
『なに馬鹿正直に答えてるのよ。もう菫は何も言わないで』
「黄色の国とは随分遠いところだな。何しに行くんだ?」
「はい、逃亡・・・・むがむが」
小百合と芽依は慌てて菫の口を塞いだ。

「身分証明証もなく国境を越えようとしているとは怪しい奴!」
「身分証明ならあります」
小百合はとっさに充電がなくなりもう使えなくなっているスマホを取り出した。

「何だこれは?」
「スマートフォンという最新の身分証明証です」
「ん? 暗くて何も見えんぞ?」
「馬鹿には見えないんです」
「わしは馬鹿なのか?」
「城から検問をするように命じられているにもかかわらず最新の身分証明証も知らないんですからね」
「そうか。なるほど。で? どうしたら見えるようになるのだ?」
「九九を間違えずに言えれば見えるようになると思います」
「わかった。にいちが二。ににんが四。にさんが六・・・・」

『本当に言い出したよ』
『嘘のように単純な人ね』
「くく八十一。言ったぞ」
「まだダメよ。十の段も十一の段も言わなきゃ」
「十一の段なんてあるのか? そんなの知らんぞ。他の方法はないのか?」
「そうね。それじゃあ腕立てを連続で五百回するしかないかしら?」
「そうか。わかった」
『本当に腕立てを始めたよ。絶対頭の良さと関係ないよね』
『ちょっと驚きだわ』
こうして警察官の体力を極端に奪った小百合達は見事にこの場を逃げ切ることができたのであった。
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