それは春の光の中で

リゲイン

文字の大きさ
上 下
1 / 7

始まりの春のこと

しおりを挟む
3月も終わりを告げる日でした。とある街の駅のホームに私は降りました。
うららかな春の日差し。日に日に眩しくなります。体を包み込む暖かな風。

隣のホームに目が向きました。私より年上の女の人。制服に身を包んだその人は行き過ぎる電車を前にただ立ちすくんでいました。瞳は中に、そこからは一筋の涙が零れていました。

「春は別れの季節だからね」私は小声で呟きました。
ただ、少しも気持ちをその人に重ねられませんでした。私はこれから来たるべく生活に胸踊らしていたからです。そして彼女が見に包む制服に私は数日後身を包むからです。

いわゆる地方都市。実家からは程なく遠い高校。私はこの春からこの街の女子学園で学び暮らすのです。
目に映る全てが春色。長い冬を超えて命が芽吹く光。例年よりも早い桜の開花が街を薄紅色に染めています。

私立星藍女学園高等部。生徒の自主性を重んじた生徒主導のいわゆるお嬢学校。消して進学校ではないけど、私には憧れの学校に私は入学するのです。親元を離れて。

駅からタクシーで1時間。街中の雰囲気は薄れ、閑静な住宅街にほど近い静かなところに星藍女学園はあります。緑溢れる趣がある佇まい。制服はシンプルなブレザー。派手さはないけど(制服に派手さ要りませんが)

緑溢れる校門を過ぎ私は学園の生活の1歩を踏み出しました・・・
・・・分からない。早速迷子になりました。学校のはずなのにまるで森なんです。森の中に点在する校舎が点在してます。私は寮に必要なものが入った大きな荷物を片手にウロウロすること30分。誰にも合わないという恐怖でヘトヘトになりました。

そんな中少し開けた中庭みたいなところに着きました。イギリスの庭園のような綺麗に整備された庭。真ん中に丸いテーブル。三脚の椅子が囲み、そこに先輩と思われる2人の生徒がいました。

「あの、すみません」
恐る恐る話しかける私。恥ずかしいけどそれ以上に体力が持ちません。

「あら?何かしら。」長い髪の女性がこちらを向きました。優しそうな目元。凛とした雰囲気がその方をただの生徒さんでは無いことが人目でわかりました。
「わ・・・私これからこの学園でお世話になる東乃 はると言います。荷物を寮に運びたいのですが・・・ここはどこでしょう?」
しどろもどろに話しかけました

「あら?新入生?ご入学おめでとう。」優しく微笑んでくれました。優しい素敵な笑顔に緊張も緩みます

「ここは生徒会の秘密基地みたいなとこ。よく探しあてたね」
もう1人の女生徒が軽く笑いながら答えます。髪は短く颯爽で一目格好いいひと。

「生徒会?」
私は何か言い知れぬ不安が過ぎりました。まるでどこにいるのか皆目見当もつかないのです。

「そう。生徒会の秘密の庭。あまり他の生徒には知られてませんわ」

「案外居心地がいいんだよね。ここ。どう、疲れてるならお茶なんかいかがかい?」

「いえ、そんな・・・」
私は何か言い知れぬ不安がうろたえます。いきなり見知らぬ先輩とお茶なんて恐れ多くて。

「大丈夫よ。寮には必ず連れていきますわ
それよりこの庭に訪れたのも何かの縁だから。おもてなしさせていただけないかしら?」

私はされるがまま椅子に座らされました。テーブルにはシンプルなティーポットとカップ。
周りははるのいぶきに芽生えた木々たちが午後のそよ風に揺れています。暫し疲れた身体からどっと力が抜けてきます。

「紅茶しかないけど、いいかい?」髪の短い女生徒か進めてきます

「はい、なんかすみません」
手際よく紅茶が入れられていきます。やや中性的な顔立ち。可愛いらしいもう1人の女生徒とは対をなすような精悍な顔立ち

長くて綺麗な髪の女生徒は優しく微笑んでます
「案内図分かりにくかったかしら?寮はこことは離れた場所よ?」
「いえ。ただ入試以来に来たのでまるで分からなくて。地図も読めないなんて・・・はずかしいです」私は赤面しながらカップを運びます。紅茶は程よい温度で喉に馴染んでいきます

「そうね。でもこの学園広くてそれなりな広さがあるから最初は迷いやすいですわ」優しく微笑みながらカップを口元に運びます。その所作がとても美しくて・・・

「一休みしたら寮に案内するよ。私にかかれば近道ですぐだよ」
「助かります」

素敵なおふたりに私は少し緊張が解けた気がしました。落ち着けば落ち着くほどにこの定演の居心地の良さに馴染んでいきます。

「入寮するということは学区外からかしら」
なんだかお茶を飲んでいたら髪の長い女生徒が優しく尋ねる

「はい、ずっと憧れて夢叶ってよかったです」

「夢だったんだ。まぁ、3年間を楽しんで」
髪の短い女生徒がさわやかに答える

ひとしきり飲み終えた頃
「じゃ、寮へ案内するよ」
髪の短い女生徒が私のバックを持ち上げます
「あ・・・荷物」
「いいよ、サービスしてあげる」
「いえ、そんな、悪いです。お茶まで頂いたのに」
「気にしなくていいよ。ちゃんと寮まであんないする」
「そうね。気にしなくていいわよ。彼女そういうところは頼りになるわ」
「それ以外にも頼りにしてよ。紫。じゃ行ってくる」
「青、お願いしますわ。私は片付けてから行きますから」
「了解。」
慣れた感じで私の荷物の入ったバックを担ぎ庭園を出て進みます。

「寮はこっち。さぁ行こうか」
「あの、よく分からない新入生に丁寧に接していただいてありがとうございます。お名前は?」

「あら、そうね・・・明日の入学式にお教えしますわ」
「そうだね?私たちの名前は入学式でわかるね」
釈然とはしませんでしたがきっとこの方たちとはこれからもお世話になる・・・そんな気がしました

春の日差しが差し込む午後の廊下・・・静かに進む私たち。ここは本当に学び舎なのかと錯覚してしまうような景色でした。

程なくして寮に着きました。ここも緑に囲まれた少しレトロな外観の寮です。
「部屋はわかる?」
「201です」
「2人部屋だね?部屋まで案内するよ」
「色々すみません」
寮の1回は食堂、ロビー、お風呂。年季は感じるけど丁寧に使われているもので溢れていました。
「たぶんはるさん、君が今年で1番最後の入寮かな。多分同室人ももういるよ」

少し恥ずかしくなりました。私ってどこまでもドジなんです。

階段をのぼりすぐの部屋201号室。
「真由さん、いる?同室人がきたよ」
部屋の奥から小さな返事がしたような気がしました。
「じゃあ私はこれで。明日は入学式だから・・・そうだね、寝過ごさないようにね」
「あの!ありがとうございました。お名前は?」
「それね。明日にはわかるよ。まぁ、よろしくね」
髪の短い女生徒は颯爽と立ち去っていきます。
そしてまもなくドアが開きました。

「・・・はじめまして。」
前髪が目までかかった女の子。落ち着きすぎて静かな印象です

「・・・遅かったですね。別に期限内ですが、時間に余裕をもたれた方がいいですよ」

「すみません。色々ありまして!
あ・・・私は東乃はる。よろしくお願いします」

「東雲 真由・・・よろしく」
静かに答えてくれました。少し暗い感じの女の子に見えます。これから私はこの事この部屋で暮らすのです。

「荷物を早く入れて。」
表情変えないで部屋の奥に戻って行きました。

6畳くらいの部屋に2段ベッドと机が2つ小さめなクローゼットがある部屋でした。

「ベッド、下を使ってください。私物音に敏感ですから、極力静かにお願いします」
相変わらず表情わ変わりません

「あ、はい?よろしくお願いします?」

部屋の窓は空いてました。すっかり日が傾いた外の風が部屋を撫で私を包んでゆきます

明日は入学式・・・私の新しい世界が始まります
しおりを挟む

処理中です...