それは春の光の中で

リゲイン

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その瞬間、春風が学び舎を包んで

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初めての寮の夜のこと・・・あまり覚えていません。見知らぬ顔ばかりの食堂。
それでもつつがなく夕飯も過ぎ、夜の生活は進んでいきました。入浴もしてバタバタして荷物もろくに整理できませんでした。そうこうしているうちに消灯となり二段ベットの下で春のぬくもりが残る布団にくるまり気が付くと眠りの中へと落ちていました。
同室の真由さんともお話はあまりできませんでした。彼女のほうから話しかけられることもなかったし、私は私で荷解きに精いっぱいでそんな余裕なかったですし。本当なら自己紹介して明日から始まる学校生活に夢弾ませながら夜が更けていくのかと思ってました。

ただ、昼間に出会った二人の先輩のたたずまいや雰囲気が寝る前の私の脳裏にぼんやりと浮かんでいました。
「すてき・・・だったな・・・」私が思う単純かつ明朗な感想をつぶやき、私は眠りに落ちたのです。


春の夜が白々と明けていました。朝6時。私の持ってきた目覚まし時計ではなく、上のベット、真由さんの目覚まし時計の音で目が覚めました。ほどなくして真由さんが下りてきます。いかにも寝起き、まだ目も冷め切らぬ様子でしたが
「東乃さん・・・おはようございます・・・」
感情的ではない淡々として口調で呼びかけられました。
もちろん私も眠気眼。まだはっきりとしない頭に昨日までの生活とは違う朝の気配に少し戸惑います。洗顔整髪をしてまた着こなせない制服に袖を通し食堂へ。まだ見慣れぬ皆さんがいそいそと朝食をとっています。まだよそよそしいなんともぎこちない食堂の雰囲気。みんなまだ出会ったばっかりですからでしょうか?

身支度して午前8時。いよいよ入学式です。上級生の案内で会場の講堂へ。木々には満開の桜の花。春の朝の冷えて空気が温まって優しい上昇気流が吹き上げています。講堂までは小径を抜け小さな林のようなところにしんと佇んでいました

【平成20年度 入学式】入り口に凛とたたずむ案内看板。まだ入り口の扉は閉じていていますが、その扉の奥から不思議な雰囲気が漂ってきます。
今までの私と決別して私はこの学園に入学して新しい生活を始めるのです。さぁ、いざ新しい生活へ。静かな雰囲気の中にも私の気持ちは高鳴ります。周りの新入生も緊張を隠せない様子です。

そして講堂の扉が開いて・・・

静かな講堂でした。凛とした空気が満ちて静かで荘厳です。先輩たちが背筋を伸ばしてシンと座っています。その中を静かに進む私たち新入生。

各学年にクラスは一つ。一クラスは40名。勉学もさながら、作法や社会に出ても一目置かれるたたずまいを会得できる男子禁制の女学校。それが青藍女学園。なかなか高い偏差値でもあり割と難関校です。私は幸い中学自体の成績がまぁまぁよかったので無理は承知で受験しました。何よりあの家庭から離れたい。それが私をこの学校を選ばせた理由です。

それぞれ割り当てられた席に着席。しんと静まる行動の空気。それを流すように高い位置にある窓からは春の陽気を帯びた風が流れていきます。

ほどなくして入学式が始まりました。校長先生のあいさつ。地元の有力者からのあいさつ。式自体淡々と進んでいきます。
式も終盤を迎えたであろう頃、
「生徒会長挨拶」
壇上に上がる女生徒に私はハッとすることになります。

「昨日の・・・」
静かに壇上に上がる綺麗な髪の優しそうな女生徒
壇上で一礼して静かに話しかけます

「皆さんご入学おめでとうございます。私は今年度生徒会長を務めさせて頂く『押上 紫』です。よろしくお願いします。新入生の皆さん。この学園では勉学のほか美しくふるまうことを推奨されます。最初は慣れないことも多いと絵もいます。不安に感じることも多いと思います。つらい時、苦しいことがあったら遠慮なくここにいる生徒会や先輩たちを頼ってください。きっと皆さんの味方になると思います。例えば入寮日に学園内を迷子になったとしても、私たちは皆さんのお手伝いに徒労を惜しみません。皆さんは3年間この学園で素敵な女性の第一歩を歩み始めてください。皆さんの楽しく健やかな学園生活になるよう期待しています」

そう述べると深々と一礼して降壇します。
「おしがみ・・・ゆかり先輩」
昨日の事が脳裏をよぎります。緑に囲まれた庭で可憐にお茶を楽しむ押上先輩・・・生徒会とは聞いてましたが会長さんでしたとは・・・驚きです。
「私の事・・・言ってました」
なんだか急に恥ずかしくなりました。私はずいぶんとすごい人たちといきなりお茶をしていたんです。

式はつつがなく終わり私たち一年生も教室へ。ちなみに今まで来た道順まだ何一つ覚えられません。大丈夫でしょうか・・・ただ学園にある緑の濃さや近代的な校舎と少し古めいた建物がやけに印象的でした。

教室に入りそれぞれの席へ。私は教室の後方窓側の席。窓から見える景色が美しくなかなかの席を与えられたものでした。

担任の先生が入ってきました。まだ若い、けど威厳のある先生です。

「今年一年皆さんの担任になりました。前田 香です。クラス担任ですが皆さんの英語科目も担当します。この学校はほかの高校とは少し勝手が違います。学習に追いつけず、学風に耐えられず途中で去る生徒もいます。皆さんはそれを覚悟して決して浮かれぬよういつも気を引き締めて、学校生活を送ってください。それではまず一人ひとり自己紹介をしてもらいます」

一人ずつ自己紹介が始まりました。出身中学とよろしくお願いしますの旨の簡単な自己紹介・・・そして私の番になりました
「東乃 はる。県南部の戸前町の中学から来ました。寮生になります。皆さんとの学校生活を楽しみにしています。よろしくお願いします。」ありきたりの自己紹介でしたがクラスメイトの何人かは顔を見合わせています。おそらく通学地域からかなり離れた町出身ということに驚いたのかもしれません。でもほどなくしてまた教室は静かな空気に包まれました。

「自己紹介は以上ですね」
先生が話を進める
「これからまずオリエンテーションとして学園内の案内になります。とかく広くて複雑な構造をした学園です。しっかり見て覚えてこれからの生活に支障が出ないようしっかりと覚えてください」
そう、私は初日から迷っているのです。しっかり覚えないと学園迷子の覇者として永久に語られてしまいます。それだけは避けたいところです

学園内を紹介されていきます。通常の授業が行われる第一校舎、科学や物理などの実験ができる理科棟、職員室や学食、図書館なとが入った管理棟。音楽や美術の授業に使われる芸術棟、様々な部室が集まった部室塔、そこには昨日であった二人のいる生徒会室も収められています。ただ二人と出会った中庭はわからなかったです。それ以外にもグランド、体育館、プールなどなど、頭はもうパニックです。

午前中に学園案内されようやく昼休みに。自然光がふんだんにふりそそぐ構造の学食で一休みランチ。午後は部活や生徒会活動のオリエンテーション。なかなかにハードな一日になりそうです。ふと、真由さんを見かけましたがまだ無表情のまま学食のサンドイッチを食べていました。

「真由さん、色々覚えられました?」ちょっとドキドキしましたけど話しかけてみました
「別に・・・東乃さんは・・・大変そうですね」
相変わらず表情が乏しい気がしますが答えてくれたのがうれしいです。
「東乃さんは・・・何か部活動とか入るんですか?」
「うーんと、まだあんまり考えてないかな?」
「そーですか・・・まぁ、どっちでもいいですけどあまり迷子にならないようにしてください」
うーん・・・絶妙な忠告です。こんな複雑な学園で部活みたいな活動をして最初のほうに迷子にならない自信はありません・・・

少しだけ真由さんとお話しできたことがうれしくて、これなら気分よく午後のオリエンテーションを迎えられそうです。

暖かな春の日差しが降り注ぐ午後学校生活におけるオリエンテーションが始まりました。
主な学校行事、運動系の部活、文科系の部活、ボランティア活動、たくさんの紹介でどれも楽しそうで迷ってしまいます。ただどれか一つに決める決定的な何かを探せず決めかねてしまいます。そして、最後に来たのは・・・

「皆さんお疲れ様です。私たちは生徒会です。」
押上会長と・・・もう一人
「私は生徒会副会長、霧島 青です。以後よろしく」
あの時お茶を用意して私の荷物を持って寮まで案内してくれた人でした。ショートカットがよく似合うさわやかな雰囲気をまとったその姿はこのクラスの生徒の一部を一瞬にして虜にしたみたいです。
押上会長が話しかける
「私たち生徒会はこの学園のあらゆることの運営にかかわります。正直楽な仕事はありません。でもとてもやりがいのある活動です」
静かに優雅な語り口で話しかけるその姿は可憐で美しくまたもクラスメートの一部を虜にした見たいです

「もし生徒会活動に興味があっても一つだけ忠告をしておきます。この活動は学校生活のほとんどの運営にかかわります。当然責任もかかります。中途半端には投げ出せない重大なお仕事です。私たちは本当にやり切れる人を求めています」
少し強い語尾ででも優しく話していました。霧島先輩も心なしか厳しい表情です

でも・・・私にもわからない気持ちが湧いてきました。昨日あんなによくしてくれたお二人の優しい表情が脳裏をよぎりました。その刹那

「私。生徒会に入ります!!」
私は勢いよく立ち上がりました。なんでか・・・わかりませんが・・・何かあの人たちと一緒に学校生活を尽くしてみたい。そんな気分が盛り上がってしまいました
一斉に私を見るクラスメート・・・でも、恥ずかしいけどこれが私のやりたいことなんだって・・・おもいました

「勇気ある発言、敬意を払います。ありがとう」押上先輩が微笑みながら答えてくれます
「その気持ち、確かに受け取りました。もしその気持ちが変わらないのなら、後で生徒会室へ」
霧島先輩がそう話します。「あと、もうすわっていいよ」
私はハッとしてしずしず着席しました。なんかまだ気持ちが高ぶってそのあとの紹介はほとんど覚えてません。
ただ・・・・「生徒会室どこだっけ?」

春の日差しは暖かく一秒ごとに木々の目が色を濃くして、桜は少しずつ散り始めようとしていました。わたしは、この春の力に押されて新しい私に向けて動こうとしていました
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