それは春の光の中で

リゲイン

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夜空がいつもより重い夜に

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赤・・・
床に広がる赤・・・
私の目に残る一面の赤・・・

気が付いたのは見知った部屋でした。でも少しレイアウトが違います。自分の部屋でないのに気が付くまでに少し時間がかかりました。
「気が付いた?わかる?」
丸井先輩でした。
「あ・・・う・・・・」
言葉が出てきません。
「東乃君。ここは霧島先輩の部屋だよ。心配しないで。あの現場で倒れちゃったからみんなで運んだよ。」
「あ・・・う・・・う・・・」
言葉が言葉になりません
言葉がうまく出ないことにさらに焦ります
「慌てないで大丈夫だよ。とりあえず状況を話すね。つらくなったら言ってねゆっくり話すから」
いつもニコニコ明るい丸井先輩の顔がとても真剣な顔。
「えっとね、真由さんが自分の手首を切ってね。それで倒れていたところに東乃君が発見したの。そこまでは大丈夫?」
私はうなずきました
「真由さんはすぐに病院に運ばれて今は治療しているの。幸い出血は多いけど命に別状はないみたいだよ。多少の出血で一時的なショック状態になったけど治療が奏して今は落ち着いてる。いろいろ難しいことはわからないけどしばらく入院になると思う。手首の傷もそうだけど精神的な安息も必用みたいで」
「う・・・あ・・・」
「ホントはね。東乃君もしばらく療養したほうがいいかもって保険医の先生も言ってたよ。判断機器見に任せるけど・・・ショックだよね。どうしつのこがこんなことになっちゃって」
「あ・・・私は・・・」
「霧島先輩が迅速に自分の部屋に運んでくれたよ。先輩は今病院で真由ちゃんのそばいるよ。寮長だからいろいろやらなきゃいけないみたい。押上会長もこの事態を重く見て生徒会として何かするみたい。詳しくはまだわからないけど。学園祭の是非も判断しなくちゃいけないって」
「私・・・真由ちゃん・・・たすけられなかった」
目から熱いものが流れる。悲しいのと寂しいこと。複雑な感情に自分の心が整理できてないみたい
「東乃君が特段やむことはないよ。今は心鎮めることに優先して」
「・・・・はい」
少しだけ落ち着いてきました。ぐすぐす泣いていたら丸井先輩が手を握ってくれました。
「先輩…私真由ちゃんのこと追い詰めちゃったのかな?」
「うーん。そこはまだわからないんよ。特にメモなかったし、真由ちゃんが発作的にしたことかもしれないし、今はまだ何もわからないから。だからあまり気にしないで・・・って無責任かもしれないけど」
「真由ちゃん連休が終わってか家から戻ってきてから心なしか元気がなかったような気がします。私なるべく声かけてたけど・・・返事もあまりなくて。外を眺めて思いつめたようにため息ついて・・・私、何もしてあげら・・・」
「うん・・・いいよ・・・しゃべらないで。」
「今は・・・寝よ。寝れる?家には今日は寮に泊まるって言ってあるから、ずっとついていてあげる。もしかしたら一人になりたいかもしれないけど、今夜は私と一緒にいよ。ね。」
「・・・私なにもしてあげられなか・・・真由ちゃん・・・どーして・・・」
「考えちゃダメって言っても無理かもしれないけど、真由ちゃんき生きてるからあまり病まないで。これからの事はゆっくり片付けていこうね。東乃君と真由ちゃんの部屋はお掃除が済むまで使えないから当面は霧島先輩間部屋で過ごしてね。霧島先輩は一人で部屋使ってるからって同室してって」
「いろいろ・・・ありがとうございます」
「んでね、明日は授業はお休みでね。生徒たちにアンケートに答えてもらって、心配な子にはカウンセラーの先生がお話聞くみたい。もちろん東乃君もカウンセラーに面会してもらうと思うけど・・・大丈夫かな?」
「私・・・私は」
「心配しないで大丈夫だよ。悪いようには聞かないと思うし、自分の素直な思い、不安、ちゃんと聞いてもらったほうがいいと思うよ」
「丸井先輩・・・」
「大丈夫。根拠はないけど大丈夫。私は押上会長たちとこの事態に当たるけど、東乃君はゆっくり休養して、動けるようになるまで私たちは自分のすべきことしながら東乃君をずっと待ってるから。無視しないようにね。さぁ、眠れるかな?寝れなくても静かに目を閉じて呼吸を整えるんだよ。あまり考えこまず、力まず、夜の闇に身をゆだねてね。もし本格的に眠れなくなったらちゃんとお医者さんに行って、しっかりお薬のも。」
「丸井先輩・・・いろいろありがとうございます」
「・・・東乃君は大事な仲間、私だってほっとけないよ。さっおしゃべりはここまで、ゆっくり目をとじて、息はゆっくり吐いてゆっくり吸って・・・」
「先輩・・・手・・・」
「あっ嫌だった?」
「ううん。寝付くまででいいですから・・・そのまま握ってて…」
「いいよ。」

そのまま静寂に包まれました。正直目をつむっても瞼に浮かぶのはあの場面です。なかなか寝付けるものではありません。
「先輩・・・」
「うん?どうしたの?」
「今日の先輩なんだかいつもと違って・・・なんかとてもまじめで優しい・・・です」
「うーん、そりゃこんな状況だからね。いつもみたいにおどけることはしないよ」
「ありがとうございます」
「いいってこと。さぁ、ゆっくり休もうね」

また来る静寂。先輩の手から伝わる温かいぬくもり。夢であったらどんなに楽かなんて考えてしまいます。そして思い浮かぶ真由ちゃんの浮かない顔。私は一体何をしていたんだろう。

私もゴールデンウィークには実家に帰っていました。まぁ、特に変わったことはありませんでしたし、中学自体のクラスメートにも遭遇はしなかったです。というよりずっと部屋にこもりっぱなしで、まぁ特に何をするわけでもなくラジオ聞きながらが本を読んだりゴロゴロしたり。窓から見える5月の青空と窓から吹き込む風を何も気にせず味わってましたる平和そのものというべきでしょうか。
真由さんはどうだったんだろう。実家では何していたんだろう。やっぱり勉強かなって思います。真由さんは特にまじめだから。でもゴールデンウィークから帰った真由さんからため息が増えたのは事実でそのことも私たちの間では話されることもなくまた淡々と始まる学校生活。私が生徒会活動にいそしんでいる間も真由さんはきっと一人で部屋で一人で・・・寂しかったのでしょうか。そんな表情は決して見せないのですが。

やがて思考は停止して私は眠りに入ります。手には丸井先輩の温かい手。これから起こること。何も思いつかなくて、もう脳が寝るように機能したんでしょう。

私は、これからどうなってゆくのか。もちろん明日の事なんてわからないし。ただただ平穏が戻る日が来ることを祈り望みながらやけに長い夜の質感につぶされるように私は眠りに落ちていきました。
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みんなの感想(1件)

花雨
2021.08.11 花雨

お気に入り登録しときますね(^^)

リゲイン
2021.08.11 リゲイン

ありがとうございます。よろしくお願いします

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