言えないヒトコト

志月さら

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 姿見をじっと見つめて、綾音は自分の恰好を全身くまなくチェックした。
 買ったばかりのワンピースに短めのソックスを合わせ、髪は軽く巻いてハーフアップに。メイクをするかどうか迷ったけれど、眉を整えて色付きリップをつけるだけにしておいた。
 今日のことを話したら友達がメイク道具を一式貸してくれたが、自分ではちゃんとやったことがないので自信がなかった。失敗して変なことになったら嫌だし、何より学校では毎日すっぴんの顔を見られているのだ。
 可愛いとは思われたいけれど、変に気合いを入れすぎて引かれたくはない。

「……よしっ」

 鏡に映る姿にひとまず納得して、小さく頷く。お気に入りのショルダーバッグを掴んで、ふと時計を見るとすでに家を出なければいけない時間を過ぎようとしていた。ばたばたと慌てて部屋を出る。
 焦りながらも出かける前にきちんとトイレを済ませて、履き慣れた可愛い靴に足を入れる。遅刻するわけにはいかないが、走ってうっかり汗だくになりたくもない。
 今日は、桜木綾音さくらぎあやねの人生至上もっとも大切な日――初デートの日なのだから。
 綾音はできる限りの早足で、待ち合わせ場所である駅前に向かって歩き出した。

***

「先輩、お待たせしました! 遅れてすみませんっ」
「おはよう、綾音ちゃん。俺もさっき来たばかりだから」

 軽く息を切らせた綾音が待ち合わせの時間に数分遅れて着くと、先に来ていた一条柚樹いちじょうゆずきは柔らかく微笑んで彼女を迎えてくれた。

「そんなに急いでこなくて大丈夫だよ。せっかく可愛い恰好してきたんだから、転んだりしたら大変だ」
「は、はい……あ、えっと、先輩も私服、素敵です!」

 さりげなく可愛いと言われてしまい、一気に頬が熱くなる。思わず目を逸らしてしまいそうになってから、慌てて口を開いた。
 初めて目にする彼の私服姿。爽やかな水色のシャツがよく似合っている。

「ありがとう。じゃあ行こうか」

 はい、と頷いて歩き出すと柚樹はそっと彼女の手を取った。あまりにも自然に手を繋がれたことに内心どぎまぎしながら、綾音はその手を握り返した。心臓がドキドキして、手のひらにしっとりと汗が浮かんでくる。
 どうしよう、手を離したほうがいいかなと戸惑っていると柚樹は優しい表情を向けてきた。

「そんなに緊張することないよ」
「あ、す、すみませんっ。手汗が……っ」
「俺は気にしないよ。それより綾音ちゃんと手繋いでいたいから。嫌?」

 そんなことを言われると嫌だとは答えられない。綾音は小さく首を振って、赤く染まった顔を隠すように俯いた。
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