蜂蜜色のみずたまり

志月さら

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縁日にて②

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 たこ焼きに焼きそば、牛串に唐揚げも買って、空いているベンチに並んで座った。

「あ、ごめん、飲み物買ってくるね! なにがいい?」

 飲み物を買っていなかったことに気付いて、慌てて席を立つ。

「えっと、お茶がいいな。なんでも大丈夫だから」
「わかった! すぐ買ってくるね!」

 近くにあった飲み物を売っている屋台に駆け寄り、ウーロン茶とメロンソーダを購入する。両手にカップを持ち、人にぶつからないよう気を付けながら急ぐ。早瀬さんをあまり長い間一人にはしたくなかった。
 もとのベンチに戻ると、早瀬さんは先ほどと変わらない様子で座って待っていた。

「お待たせ! ウーロン茶でよかった?」
「早かったね……! ありがとう」

 財布を出そうとする早瀬さんを「大丈夫だから」と制し、カップを手渡す。彼女の横に腰を下ろし、メロンソーダを半分ほど一気に飲んだ。いつの間にか喉が渇いていたから、冷たい炭酸が美味しく感じる。
 それから、買った食べ物を二人でシェアしながら食べ始めた。

「たこ焼きおいしいね」
「うん。……あ、これ、たこ入ってないや」
「そんなことあるの?」
「結構よくあるよ」

 他愛のない話をしながら屋台の食べ物をつまむ。
 早瀬さんと一緒に食べていると、なんだかいつもより美味しく感じられた。

「八木くんって結構たくさん食べるんだね」
「そうかな、このくらい普通だと思うけど……」

 びっくりした様子の早瀬さんに、少し照れながら呟く。彼女はすぐにお腹がいっぱいになってしまったと言うので、半分以上は僕の胃に収まってしまった。これでも運動部などの男子と比べたら食べる量は少ない方だと思う。

「もう少し見て回ろうか?」
「うん。……あの、私、金魚すくいやってみたいな」
「いいよ、やろうよ!」

 おずおずと言い出した早瀬さんの要望に笑顔で頷く。
 腹ごなしを兼ねて金魚すくいや射的で遊ぶ。すぐにポイが破れてしまったり的を外してしまったりで景品は得られなかったけれど、早瀬さんは楽しそうにしていた。
 お腹は満たされたし、定番の遊びもした。財布の中身も心許なくなってきた。名残惜しいけどそろそろ帰った方がいいかなと思っていると、ふいに袖を引かれた。

「早瀬さん? どうかした?」
「……八木くん。えっと、あのね」
「?」

 早瀬さんはもじもじした様子で何かを言いたそうにしていた。

「……もしかして、トイレ?」

 何の気なしに訊ねると、小さな頷きが返ってくる。早瀬さんの顔はりんご飴のりんごのように真っ赤になっていた。

「ご、ごめんね。えっと、あっちみたいだよ!」

 デリカシーのない訊き方をしてしまった。慌てて案内表示を見てトイレの場所を確認する。彼女の手を引き案内の通りに歩いていくが――トイレの前にはずらりと行列ができていた。
 友達同士のような浴衣姿の女の子たちや親子連れなど、何人もの女性が順番待ちをしている。心配になって、つい早瀬さんに訊ねてしまう。

「並んでるね。えっと、大丈夫?」
「……うん。ごめんね、待たせちゃうけど」
「大丈夫だよ。僕、向こうで待ってるね」
「うん」

 トイレを待つのに付き添っているのもどうかと思い、少し離れたところで待つことにする。他のトイレはないのだろうかと周りを見渡していると仮設トイレを見つけたが、そちらにも列ができていた。待ち時間はどちらも大して変わらないかもしれない。
 早瀬さん、大丈夫かな。

 高校生に対してトイレの心配をするのはどうかと思いながらもつい心配になってしまう。
 そういえば、放課後や休みの日に早瀬さんとデートのようなことをしたことはいままでもあるけれど、彼女がトイレに行きたいと言い出すところを見た覚えがなかった。
 いつも僕がトイレに立つのと同じタイミングでトイレに行っていたけれど、もしかすると我慢させてしまっていたのかもしれない。

 やっぱり女の子からは言い出しづらいのかもしれないし、もっと気遣うべきだっただろうか。いやでも、こまめに「トイレは大丈夫?」と訊かれるのも恥ずかしいのではないだろうか。一体どのタイミングでどのように声を掛けるのが正解なのだろう。
 一人で悶々としながら反省会をしていたため、近付いてくる人影に気付けなかった。

「八木、くん……っ」

 小さな声とともに袖を引かれて、びっくりしながらそちらを振り向いた。

「早瀬さん!?」
「ね、この近くに、他にお手洗いない……?」

 早瀬さんは目に涙を溜めて、下駄の爪先を落ち着きなく擦り合わせていた。
 ――どこからどう見ても、切羽詰まっている様子だ。

「え、えっと、駅か……あ、コンビニ! 神社の反対側にコンビニあるよ! そこまで行けそう!?」
「頑張る……」

 早瀬さんは不安そうな顔で小さく頷いた。
 そんな彼女の手を引いて歩き出すと、すぐに焦ったような声が上がった。

「待って、そんなに早く歩かないで……っ」
「あ、ご、ごめん」

 慌てて謝り、彼女に合わせて歩幅を緩める。
 早瀬さんはいつの間にか僕の腕にしがみつくようにしながら、少しずつ足を前に進めていた。時折、ぶるりと身体を震わせるのが嫌でも伝わってくる。
 行き交う人の視線が気になる気がするけれど、気にしている場合ではない。

 早く早瀬さんをトイレに連れて行ってあげないと。
 なんとか神社を出て歩き出す。
 早瀬さんは必死に尿意に耐えているようだった。時々立ち止まりそうになりながらも、足を止めることなく歩いていく。

「もう少しだよ、頑張って」
「う、ん……」

 視線の先にコンビニが見えてきた。横断歩道を渡ればすぐだ。車は来ていない。
 足を踏み出そうとした瞬間、突然、早瀬さんの腕が離れた。
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