知ってるけど言いたくない!

るー

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その14

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エティが生まれ育った国では15歳を超えて親が許せば飲酒ができた。
両親がどちらもお酒に強く、その遺伝を引き継いだせいか、エティは初めてお酒を口にした15歳から今まで一切酔ったことがなかった。どんな種類の強いお酒でも顔色ひとつ変えずに飲めた。だからと言って酒好きで頻繁に飲むタイプでもなく、付き合いで飲む事が多かった。

それは独り立ちのためにこの街に来てからも同じだった。なのに何故か今夜に限って、エティは初めての感覚を味わった。


「お前、酔ってるぞ。どれだけ飲んだんだ?」
「酔ってるなんて嘘よ。まだ1杯しか飲んでないし、今まで酔ったことないもん」
 「だったらその赤い顔は何だ?俺に照れてるからか?」

クリフォードは口を尖らせて拗ねたように口ごたえするエティの顎を指で掬いクイっと自分に向かせた。


あれ?何でクリフォードが私を見下ろしてるの?レオに乗ってたんじゃなかったっけ?


「クリフォードじゃなくてフォードがいいとさっき言っただろう?やっぱり酔ってるな。ここは俺の部屋だ。抱えて連れて来た時ちゃんと目が開いていたのに覚えてないのか」


フォード?名前なんてどっちでもいいじゃない。


「どっちでもいいならフォードがいい。エティ、水飲むか?」


フォードね、ハイハイ。水?うん、欲しい。何だか暑いし喉渇いた。

宙を眺めながらコクリと頷いたエティに、クリフォードは遠慮もなく、当たり前のように口移しで水を与えた。
頭がぼーっとしていたエティはそれを抵抗せずに受けてしまった。少しづつ喉を潤す水にエティは僅かなデジャブを覚えた。

「……?」
「どうした?もっと飲むか?」

いらない……。
……ねぇ、さっきから何で私が考えてる事に返事してくるの?フォードは私の頭の中が読めるの?

エティは寝起きで思考が働かないような状態でうっすらそう思った。実はそれすらも小さな唇から全て言葉として溢れていた。

広いベッドで横たわりながらも首を傾げるエティに、クリフォードは目を細めて笑うと、エティの長い紫銀色の髪を梳くようにゆっくり撫でた。

「酔うとよく喋るんだな。いつも俺を無視しているが、今なら色々正直に答えてくれそうだな。エティ、俺の事をどう思ってる?」


「……だいっきらい!」


はっきりした口調で返ってきた答えに、クリフォードはがっくり項垂れた。

「や、やはりそうか……。嫌われてるのはわかっていたが……それでも俺はお前が好きだ」

その言葉が聞こえていないかのようにエティは顔を背け、黙った。
もう考えるのさえ煩わしくなってきた。ふわふわとした心地良さが勝り意識が薄れてきて自然と瞼もおりていた。クリフォードの低い声が耳に入るが意味を捉える前に身体に溶けていった。先程からふわふわと、もうひとつ心地良さがある。


……これ、気持ちよくって、すき。



***


王宮からの帰り道、偶然通りかかった酒場の前で急にレオが足を止めてソワソワし始めた。最初様子が変だったが、いつも落ち着き払ったレオがこんなに酒場の中を気にしているなんてきっと何かあるのだろう。
クリフォードは目に入った近くの木にレオを繋ぐと酒場の戸をくぐった。

ああ、レオが騒ぐはずだ。レオは俺よりエティに懐いてるんじゃないかと最近思ってしまう。


探さなくても目印のように輝く紫銀色の髪が店の奥に見えた。



自分がこんなに誰かを求める日が来るとは想像すらしなかった。
少年時代から同僚達との間では、恋だの愛だの話題には出たが、自分が経験してない物事はどうも話に乗れない。周りに合わせて頷いてはいたが、胸が締め付けられるとか、好きな女性とのキスは溶けるほど気持ちいいとか全くわからなかった。

しかし、今ならそれらが理解できる。
エティの後ろ姿だけでこんなに胸が高鳴ってしまう自分がいる。

数日間、馬小屋で働くエティを目で追って、これが胸が締め付けられるという事なのかと感動した。



今夜のエティはいつもより口数が多い。念願だったレオに乗れたからだと思っていたが、どうやら酔っているせいみたいだ。それでもいい。俺に向けられる深いブルーの瞳は、酒が入ってるせいか少し潤んでいてとても綺麗だった。このまま朝まで、いや、いつまででも眺めていたい。

酔いが更に回ってきたのか、時間が経つにつれエティは視点が定まらずちゃんと立つことも出来ない。これはもう独り占めするしかないだろう。

いつかみたいに俺の寝室のベッドで横たわるエティを、これでもかと眺めてた。エティの白い肌は今は桃色に染まって、もう食べ頃にしか思えない。
クリフォードが思わず指先で頬を撫でると、隠れていたブルーの瞳が現れ自分を捉えた。


「……だいっきらい!」


そう言いながらも全く警戒心が見えない。さっき俺の口から美味しそうに水を飲んだくせに、嫌いだと?


俺はもうお前が可愛くて仕方ない。
その憎まれ口を叩く態度も、俺を無視する怒った横顔も、こんなに酔ってだらけた姿も。

全部可愛いと囁きながら髪を撫でていると、エティは寝入りながら
「それ、気持ちよくって、すき」
と言葉を漏らした。

絶対本音だ。今までの彼女の態度からシラフでそんなセリフを吐くわけない。酔って本音が出たとしか思えない。だがそうなると「だいっきらい」も本音という事になる。

どちらにしろエティの新たな一面を知ってクリフォードは嬉しくて堪らなかった。
意識が落ちた彼女には聞こえていないと思うがそっと耳打ちした。

「撫でてる俺も気持ちいい」



***



「……ん。アネット、腕重たい……」

エティは背中から覆い被さって自分に乗っかっていた重たい腕を退けたが、再びエティの身体を絡め取るように腕が乗っかってきた。

アネットは時々エティを包むように抱き締めて寝るときがある。だけどこんなに重たかったかな?とエティは重たい瞼を開けた。そして身体を反転させたエティは一気に目が覚めた。

「……!!」

エティのすぐ隣には気持ち良さそうに寝息を立てているクリフォードがいた。以前見た寝顔は凛々しさを保ったような、固い表情だった気がするが、今は表情筋が緩みきって口も僅かに開いている。

前は紫銀の女が来るかもしれないというのがあってかなり警戒していたに違いない。その証拠にエティが少し動いただけでナイフを立てられたのだ。

今はクリフォードの腕の中でエティが身じろいても眉根が僅かに寄るだけでまた穏やかな寝顔に戻る。

何故、どうして自分はまたクリフォードのベッドで寝ていたのか。
エティはクリフォードの腕の中から抜け出しながら昨夜の記憶を辿った。

アネットと酒場に行ってニコラスも一緒に飲み始めた所までははっきり覚えている。その後クリフォードの顔を見たような……。見ただけじゃなくて何か話した様な気もするが、それ以上はっきり思い出せない。

どうして記憶がないの……!?

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